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2.4 航空機(カーゴスペース)の実態調査
 航空機、特に荷役業務を主とする貨物用航空機における電線布設状況および端子台設置に関わる実態調査を行った。
 
調査実施日:平成15年8月5日
調査対象:全日空メンテナンスセンター(羽田)
調査委員:神浦、木船、楠野、菅原(代理)、新田、村山、柳沢(代理)
事務局:関、東島、荒木
 
2.4.1 航空機用電線のメーカー名および規格など
 ボーイング社およびエアバス社において製造されている航空機に使用される電線は、主に次に示すMIL規格に基づくものである。
 
・MIL-C-22759(SPEC 55電線)
・MIL-W-81044(SPEC 44電線)
・MIL-C-17(RG同軸電線)
・その他
 
 同軸電線を除いて、これらの航空機用電線は、フッ素樹脂(以下、テフロンという。)絶縁電線が主流であり、単心電線(導体は軟銅より線)もしくは単心電線を必要本数束ねた多心電線であり、シールド編組が施される場合があるが、すべてシース(外部被覆)のないタイプである。(盤内および機器内配線用電線を使用しているとも考えられる。)
 テフロン電線は、耐熱性および機械的特性にすぐれた電線であり、薄肉絶縁体とすることができるため、航空機用として、小型・軽量化の面から最適のものと考えられている。しかし、テフロン電線は、分解温度以上に加熱されると、毒性の強いフッ化水素ガスが発生するので、注意が必要である。
 MIL規格の電線はすべて、米国国防総省の認定品であり、認定品以外の電線は使用できない。日本国内でMIL規格認定品以外の電線を使用する場合は、国土交通省航空局の承認が必要となる。従って、日本国の航空会社において、主として補修用として使用している電線は、現状ではほとんど海外メーカーから輸入されている。
 海外の電線メーカーとしては、レイケム社を代表として、MIL認定を取得している多数のメーカーが考えられる。
 
2.4.2 航空機における損傷を受けやすい箇所の保護状況
(1)貨物区画
a. 調査結果
・調査対象機(写真2.4.1参照)における貨物は定型のコンテナで、搬出入経路も機械的に定められている。
・単心の絶縁電線をビニルバンド等で束ねて布設している(写真2.4.2参照)。
・電路の大部分は、機械的損傷を受けない場所に設置され、特別な保護は施されていない(写真2.4.1参照)。ただし、貨物搬入扉部では電路保護が施されていた(写真2.4.3参照)。
 
写真2.4.1 貨物区画(上部)
 
写真2.4.2 貨物区画(下部)
 
写真2.4.3 貨物搬入扉
 
 また、貨物区画ではないが、ジェットエンジン近傍のように外囲条件の厳しいところでも電路保護が施されていた(写真2.4.4 ジェットエンジン近傍の電線参照)。
b. 船舶へ活用できそうなこと
 航空機の設計・製造のKey Wordは単心ケーブル採用に代表されるように「軽量化」であり、船舶へ活用できそうな項目は見当たらなかった。
 
(2)居住区
 調査対象機が貨物機であり、該当区画がなかった。
 
2.4.3 電線布設時の引張り方法
 航空機における電線布設工事は、電線の種類や作業手順、布設要領、配線のルーティング等あらゆることが全て図入りのマニュアル(Wiring Diagram Manual)に記載されており、これに従って配線作業が行われている。
 機体内に敷設されている電線は、船用電線とは異なり軽量化のために単心線が用いられている。このため電線径が小さい。また、布設されている線のほとんど全てに単心ケーブルが用いられており、電線自身に引張り耐力が無いようである。このような事情から、航空機の電線布設工事時における留意点は、「引っ張らない」ということが第一となっているようである。そして、ハーネス化したケーブル束線を押さえ込む固定方法が採用されていた。また、配線作業は全て人力にて慎重に行われている。
 航空機の電線布設工事に関する調査によって明らかになったことは以下の通りである。
 
(a)航空機においては、電装工事の合理化よりも、軽量化のための工夫が随所になされており、船舶電装工事の合理化とは電装工事そのものへの視点が異なっている。
(b)航空機で使用されている電線のほとんどが細い単心線であるため、電線を引っ張るという作業プロセスは存在しない。
(c)航空機電装工事で用いる電線と船舶電装工事で用いる電線の構造が大きく異なるため、工事方法そのものに参考すべき点は無い。







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