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2・7 特殊な映像
 レーダーは電波の眼といわれているように物標の検知に電波を使っているから、電波を反射する物標があれば海面の波でも雨でもすべてレーダーの画面に現れて、陸地や他船という航海上必要な映像を乱したり隠したりする。また、反射の強い部分だけが現れて、実態と異なる形を見せて惑わすことも多い。次にこれらの映像について、実際にそこに物があって、それが惑わすもとになるような場合を誤りやすい映像として2・7・1に説明し、そこにはなにも物標がないにもかかわらず、映像が現れる場合を偽像として2・7・2に説明することとする。
 
(1)海面反射
 海面が波立っているときは海面からの反射があり、その中にいる小舟の反射を隠してしまう。また、海面反射と漁船の群れとの区別もつかなくなる。
(2)雨雪反射
 雨の降っている区域は、雨が弱いときはボーッと雲のように見え、雨が強くなると、はっきりとした島のような映像ができる。しかし、これらの雨の映像は時間的に変化するので、よく見ているとその場所が移ってくるし、形も変ってくるので大体判別することができる。ただ、この雨域を通り抜けた電波は減衰して弱くなり、普通だったら映像として現れる船や浮標等の映像が現れなくなることもあるので注意が必要である。
 雪の場合は一般に雨よりもその影響が弱いが、自船の周囲に雪が降っている場合は、雨とは少し違った反射を現し、他船の映像を隠したり、電波を弱める影響がある。
(3)潮目
 潮目は波立ちの状態が違っていたり、浮遊物が集っていたりして、一寸見ると海岸線に似た紛らわしい映像を現すことがある。
(4)砂じん
 ペルシャ湾を航行する船からの報告によれば、砂じんも陸地や島と間違うような映像となることがあるということである。
(5)送電線
 海峡を横断して張られている送電線は、その海峡を通航する船舶にとって非常に都合の悪い映像を表すものである。図2・9のように送電線は船からの垂線の足にあたる点だけが反射が強く、そこだけが輝点となって現れる。したがって、船がその送電線に近づくにつれて、岸から出てくる小舟がちょうど船にぶつかるように水路の真中を横切って近づいてくるように見えるからである。送電線が船の航路に対して斜めになっているときには、この現象に注意する必要がある。
 
図2・9 送電線の映像
 
(6)背面区域
 レーダーの電波は、3cmとか5cmとか10cmというように波長の短い電波なので、光と同じように物標の背後に回りこむことはできない。そこで、自船のマストやデリックポストの背後に物標が隠れたときは探知できなくなり、その船の映像は消えることになる。また、島も自船から見える部分だけとなって、その形は海図とは違って見えるから注意しなければならない。
(7)位置の変化が速い物標
 位置の変化の速い物標は、スイープが一回転するたびに、現れる物標の映像の位置が離れて、飛び飛びの点列となる。例えば、航空機が水面近くを飛行しているときや、飛行艇はこのような映像を現す。
 
(1)サイドローブによる偽像
 反射の強い物標が近距離にある場合、自船のレーダーのサイドローブで探知してしまうことがある。この場合は、その物標と距離は同じでも、方位はメインビームの方向に映像が現れるので約90°違った位置に現れ、図2・10のように全く物標のない場所に偽像として現れる。
 
図2・10 サイドローブによる偽像
 
(2)多重反射偽像
 自船の正横方向に他船が近づいた場合や、他船からの反射電波が自船の横腹に当たって再び他船に行き、また反射して帰ってくると、電波が自船と他船との間を往復することになる。すると、図2・11のように他船の映像の背後の方向に、距離は他船との距離の2倍、3倍等の場所に偽像が現れる。
 
図2・11 多重反射による偽像
 
(3)自船の構造物が鏡となる場合
 自船の煙突やマストがレーダーの空中線に近いときには、レーダーから出た電波が一度煙突などに当たって他船に行き、その他船で反射した電波が再びその煙突などに当たってから受信される場合がある。このような場合は、図2・12のようにレーダーの空中線からみて、煙突等の鏡となった構造物の方向で、距離は自船から他船までの距離と殆んど同じ場所に偽像が現れる。
 
図2・12 自船の構造物が鏡となる場合の偽像
 
(4)自船以外の構造物が鏡となる場合
 陸上の構造物や、海上に架けられた橋などが鏡となって、付近にある物標の偽像を鏡となった構造物の後方に現す場合がある。陸上の構造物が鏡となる場合には、偽像はその背後の陸地の映像の中に生じるから問題とはならないが、図2・13のように海上に架けられた橋が鏡となる場合には、方向はその橋の反射点の方向で、背後の海域に、距離は構造物と実像との距離とを加えた距離に偽像が現れて、あたかもそこに物標があるように映り、航行上の障害として現れることがある。
 
図2・13 自船以外の構造物が鏡になる場合の偽像
 
(5)第二、第三の掃引偽像
 通常レーダーの電波は直進するので、レーダー水平線内の物標しか探知しない。しかし、時として地表に沿って相当遠くの物標にまで到達して、その反射像を現すことがある。このとき、例えば100海里や200海里もの遠方の物標から反射して帰ってきた場合には、その反射波はすでに次の発信パルスが出てから、あるいは次の次の発信パルスが出てから帰ってくることになり、これを第二掃引偽像あるいは第三掃引偽像という。
 自船のパルス繰り返し数が1,000ppsであるとすると、パルスが発信される間隔は1msであって、これは約81海里を電波が往復する距離となる。そこで100海里の物標から反射してくれば、100-81=19で約19海里のところにその物標があるように偽像が現れ、もし200海里の物標から反射してくれば、200-(2×81)=38で約38海里のところで、方向はその物標の方向にそれがあるように偽像が現れることになる。
(6)他のレーダーによる干渉波の偽像
 自船にある他のレーダーの発信電波や、他船のレーダーの発信電波の周波数がほとんど同じである場合には、これを受信することになる。この場合の偽像は、その方向はその他船の方向で、パルス繰り返し数が近ければ、渦巻き状の点線となり、パルス繰り返し数が違うと画面上は点々と不規則に現れる雑音となる。しかし、いずれにしても、これらの点は一本のスイープの上の一点として光り、エネルギーの蓄積がないので淡雪のように消えて残像を残さず、それ程重大な障害とはならない。
 
(問1)レーダーの基本的な性能を五種類列挙し、それぞれについて簡単に説明せよ。
(問2)レーダーの偽像を五つ列挙せよ。
(問3)レーダーにおいて誤りやすい映像を五つ列挙せよ。







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