日本財団 図書館


2・4 レーダーの距離分解能
 レーダーの距離分解能とは、自船から見て同一方向にある2つの物標が前後に並んで存在するとき、これらの物標が距離的にどのくらい離れていれば、PPI映像の上で2つの輝点として分離して識別できるかという能力である。これは主として、パルス幅によって決まる。前節(2・3)の(1)で述べたように、アンテナから出た電波はパルス幅で定まる長さのパルストレーンとなって飛んでいくので、2物標の前後の距離がそのパルストレーンの長さの半分以下であると、両者からの反射波はつながって分離できないが、パルストレーンの長さの半分以上であれば反射波は分離して2つの物標であると見分けられるからである。すなわち、もしパルス幅が0.25μsであれば、パルス幅による距離分解能は37.5mである。図2・7参照。
 次にPPI用ブラウン管の最小輝点によっても左右されることは、前節(2・3)の(2)における説明と全く同じである。
 
図2・7 レーダーの距離分解能の説明
 
 レーダーの方位分解能とは、2つの物標が自船から見て等距離にあって左右に並んで存在するとき、これらの物標が角度的にどのくらい離れていれば、PPI映像の上で2つ輝点として分離して識別できるかという能力である。
 これは主として、アンテナから発信される電波の水平方向のビーム幅によって決まる。レーダーでは物標の方位を測定できるように電波を細かく絞って、物標を探知するようにアンテナを回転させているが、この細さの程度を表すのがアンテナのビーム幅であり、電力の半値幅で表す場合が多い。すなわち図2・8のようにレーダーのアンテナから発信される電波の強さを測定した場合に、正面の最も強い値の半分の強さ(電力にして3dB下がった値)になる左右の点の間の角度幅である。
 1つの点物標でもレーダーの画面上では、ビーム幅に等しい横幅を持った映像として表されるから、横に並んだ2つの物標はビーム幅より大きく離れていなければ分離して見分けることができない。また、距離分解能の場合と同じく、PPI用ブラウン管の最小輝点によっても影響される。近距離にあっては輝点ができただけでも、その横幅の方がビーム幅より大きい場合がある。
 
図2・8 レーダーの水平ビーム幅
 
 さらに、ビーム幅で決まるといってもある標準的な値であって、近距離の反射の強い物標では、感度を適正に調整しなければ横幅広く反射を表し、サイドローブで反射が表されて左右90度方向にも映像(これをサイドローブ偽像という)が表示され、更にはもっと強く反射が表されるようになると、円筒状に映像がつながってしまう場合さえある。
 
 PPIスコープではAスコープと違って、表示された映像の鮮明度が問題となる。1つの物標を輝点として表す場合、その物標から帰ってくる反射パルスの数が多い程ブラウン管の蛍光面に貯えられるエネルギーが増大してよく光ることとなる。この数をヒット数というが、アンテナが1回転(これを1スキャンという)する間に物標に当るパルスの数は、次の(2・6)式のMで与えられる。
 
 
 ただし、Nはアンテナ1回転の間のスイープの本数
θはビーム幅(度)
mは1秒間に発信するパルスの数(パルス繰り返し数)(パルス繰り返し周期の逆数)
tはアンテナが1回転する秒数(アンテナ回転速度)(60÷アンテナ回転数)
 例えば、ビーム幅が2度、パルス繰り返し数が1000、アンテナ回転速度が3秒(アンテナ回転数1分間20回)とすれば、ヒット数は1000×3×2÷360=16.7となり、アンテナ回転速度が4秒(アンテナ回転数1分間15回)とすれば、1000×4×2÷360=22.2となって、鮮明度が改善されることになる。
 
付録1(2・4)式の証明
 附図1により、R12=(Hs-He)2+R2、R22=(Hs+He)2+R2が得られる。
 ここで、R>>(Hs+He)>(Hs-He)であるから、
R1≒R+{(Hs-He)2/(2・R)}及び
R2≒R+{(Hs+He)2/(2・R)}と置くことができるので、
経路差R2-R1は次のようになる。
 
附図1 経路差(R2-R1)の説明図
 
 R2-R1≒{(Hs+He)2-(Hs-He)2}/(2・R)}≒2・Hs・He/R
従って、位相差βは次の式で与えられる。
 β=(R2-R1)・2・π/λ≒(4・π・Hs・He)/(λ・R)
ここで、Er=ρ・Eo・e-jα
ただし、α=φ+βであり、ρは海面での反射係数、φは反射点での位相移動、βは経路の差による位相差である。
これにより、Et=Eo+Er=Eo+ρ・Eo・e-jαが与えられる。
ここで、Et=F・Eoと表すとすれば、
 F=Et/Eo=|1+ρ・e-jα|=1+ρ2+2・ρ・cosα
であり、海面において完全反射するとすれば、ρ≒1であって
 F=2+2・cosαとなる。
また、φ=180°=πであるとすれば、F=2+2・cos(π+β)となり、
三角関数の公式からF=2・sin(β/2)を得る。
これに上のβの値を入れると、
 F=2・sin{2・π・Hs・He/(λ・R)}となる。
これは電圧の比であるから、電力の比はこの2乗であって、
 F2=4・sin2{(2・π・Hs・He)/(λ・R)}を得る。
これが(2・4)式に入っているのである。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION