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海外運輸 2003年4・5月
トピックス
1. インドの「デリー高速輸送システム建設計画(IV)」他(円借款)について
 我が国政府は、インド政府に対し、総額1,112億3,900万円を限度する額の円借款を供与することとし、このための書簡の交換が、3月28日に行われた。
 平成10年5月のインドによる核実験以降、日本政府はODA(政府開発援助)大綱に基づき、インドに対して経済措置を実施し、新規円借款の供与を停止していたが、同経済措置は、平成13年9月の米同時多発テロ事件後のインド政府のテロ防止活動への協力を踏まえて、同年10月に停止された。以後、両政府間で新規円借款供与について検討がなされ、対インド海外経済協力業務実施方針として、(1)電力・運輸などの経済インフラ、(2)貧困層が裨益する地方開発、(3)特に都市部で劣化が顕著な環境改善を重点分野とした。今次調印する円借款は、経済措置停止後、日本の対インド支援の新しい方針を反映する初めてのものである。
 
 なお、今般の円借款の供与対象案件のうち運輸関連案件の概要は次のとおりである。
 
(1)「デリー高速輸送システム建設計画(IV)」(供与限度額:340億1,200万円)
 
背景と必要性
 インドでは近年、産業構造の高度化に伴い、大都市へ人口が集中したほか、自家用車の普及が急速に進んだため、大都市の交通混雑が激化し、公共交通機関の整備の遅れが問題となっている。また、自家用車の増加に伴い、排気ガス等による交通公害の発生などの環境問題が深刻になっているが、今後も自動車の増加は避けられず、環境保全対策の検討が急務となっている。インドでは、鉄道は従来から長距離輸送に重点が置かれてきたことから、デリー市においては、郊外と市の中心部を結ぶ近距離鉄道や市内の鉄道網が整備されていない。そのため、交通手段はバスや自家用車に頼らざるを得ない状況となっており、増加する自家用車のため、道路は慢性的な渋滞になっている。かかる状況下、交通混雑を緩和すると共に環境への負担が少なく、時間に正確で効率的な大量高速輸送システム構築が必要とされている。
 
目的と概要
 本件は同国の首都デリー市に、地下鉄及び高架・地上鉄道による総延長約245kmの大量高速輸送システムのうち約62km分を建設(昨年12月末に既に一部区間は開業)することにより、デリー市の都市機能を向上させ、交通混雑の緩和と排気ガスなどの交通公害減少を通じた都市環境の改善を図ることを目的とするものである。本件実施により、交通混雑の緩和と排気ガスなど都市交通公害減少に寄与し、デリー市の都市機能を向上させる上で大きな役割を果たすことが期待される。
 
(2)「アジャンタ・エローラ遺跡保護・観光基盤整備計画(II)」(供与限度額:73億3,100万円)
 
背景と必要性
 インド観光セクターの開発は未だ十分ではなく、観光関連インフラストラクチャーの絶対的不足、観光対象地域における貧困の存在、遺跡・遺産の保護活動が十分でない点などが開発制約要因となっている。
 本件の対象であるアジャンタ・エローラ(世界遺産登録)の両石窟寺院遺跡を始めとするマハラシュトラ州北部の文化遺産・遺跡は、雨水浸透などの影響から、洞窟保全・岩盤保護・壁画保護等が必要となっている。特に、アジャンタ石窟の壁画は近年劣化が進んでおり、適切な対応が急務である。
 この地域は夏季には摂氏40度を超える猛暑になることもあり、来訪者が安心かつ快適に遺跡を見学し、遺跡への造詣を深めるための施設(ツーリストセンター)の建設が必要であるほか、遺跡に到達するまでの道路整備、空港施設が不十分であるため、観光客増加や国際線の就航に対応しきれていない状況となっている。
 
目的と概要
 本件はマハラシュトラ州のアウランガバード郡にあり、ユネスコから世界遺産に認定されているアジャンタ・エローラ及び周辺の石窟寺院群と自然環境を保護・保全し、空港施設改良等のインフラ整備と来場者の管理・誘導を行うと同時に、観光の質的向上のための人材育成を含むツーリストセンターの建設・運営などの総合観光開発を実施し、地方開発を推進することを目的とする。本件実施により、遺跡保護、周辺の自然環境改善、地域経済の活性化、周辺住民の生計向上、外貨獲得が期待される。
 
円借款の供与条件は次のとおりである。
 
案件名 金利/年(%/年利) 償還期間/据置期間 調達条件
デリー高速輸送システム建設計画(IV) 1.8% 30年(10年の据置期間を含む) 一般アンタイド
アジャンタ・エローラ遺跡保護・観光基盤整備計画(II) 1.8% 植林およびマイクロクレジット部分(本体) 年0.75 30年(10年の据置期間を含む) 植林およびマイクロクレジット部分(本体) 40年 一般アンタイド
 
 今回の円借款の供与により、これまでに我が国がインドに供与した円借款の総額は、3兆1,173億4,500万円となる。
 
2. フィリピンの「スービック自由港環境整備計画(II)」(円借款)について
 我が国政府は、フィリピン共和国政府に対し、総額134億100万円を限度とする円借款を供与することとし、このための書簡の交換が3月28日行われた。
 今回の円借款は、我が国の対フィリピン国別援助計画(1999年8月策定)に言及されている重点分野(持続的成長のための経済体質の強化および成長制約的要因の克服、格差の是正(貧困緩和と地域格差の是正)、環境保全および防災対策)における支援の一環として実施するものである。
 なお、今般の円借款の供与対象案件のうち運輸関連案件の概要は次のとおりである。
 
「スービック自由港環境整備計画(II)」(供与限度額:9億9,100万円)
 
 1992年に米国からフィリピンに返還されたスービック米海軍基地跡地は、同年制定された基地転換法(共和国法第7227号)により周辺自治体と共にスービック特別経済自由港区に指定された。この特別経済区ではスービック湾都市圏開発公社が周辺自治体と協力し、国際的な工業・商業・金融・観光センターを開発すべく整備を進めている。本経済区を一大産業都市として樹立するためには、今後の投資拡大及び人口増加に対応する社会インフラ(廃棄物処理、上下水道設備)の整備が必須である。国際協力銀行が本事業フェーズIにて既存衛生埋立処分場の改修を実施したが、その処分場も2006年には容量に達する見込であり、同じくフェーズIにて策定した詳細設計に基づいて、速やかに新規の衛生埋立処分場を整備する必要がある。
 本件は、スービック特別経済自由港区において、新規衛生埋立処分場の建設を行うとともに、これにより可能となる既存衛生埋立処分場の安全な閉鎖を行うことにより、同区で発生する固形廃棄物の適切な処理を促進し、同区内の生活環境・衛生状態の向上に寄与する。また、こうした社会インフラが整備されることにより、同区への投資拡大をも期待することができる。なお、本計画第1期分として、1997年に円借款10億3,400万円を供与済みであり、本件はその後続案件である。
 円借款の供与条件は次のとおりである。
(1)金利:年0.75%
(2)償還期間:40年(10年の据置期間を含む)
(3)調達条件:一般アンタイド
 
 なお、今回の書簡の交換により、我が国のフィリピン共和国に対する円借款の総額は、2兆241億3,900万円となる(交換公文ベース)。







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