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■まえがき
 楽しく充実した一生を送るために「健康」はなくてはならないもの。「足が弱っては長生きできない」ということが生理学的にも証明されていますが、世の中の移動手段が便利になるにつれて、歩く機会が減り加齢とともに「足」は衰えていく傾向にあります。だからこそ、健康を維持していくためには、歩く機会を増やしていく必要があります。
 中高年にとって運動の主な目的は、現在の身体機能を維持することであり、特に、移動能力(歩行・転倒防止能力)、呼吸機能、関節の可動性、ある程度の筋力、平衡機能の維持が重要です。
 
 そこで、B&G財団では、アクア(プール)とフロア(体育館)というエリア別に、「歩く」ことを中心にした楽しい運動プログラムを研究・開発しました。
 本プログラムマニュアルは、中高年が無理なく楽しくできる運動を10回分のプログラムにまとめたものです。指導するにあたっては、参加者の体力レベルやその日の体調を充分に考慮し、プログラムを参加者の状態に合うようにアレンジして実施するようにしてください。
 心身の健康維持・増進には運動が不可欠です。しかしながら、日本では運動不足を自覚している中高年はまだ少なく、運動に対する意識も高いとはいえないのが現状です。本プログラムでひとりでも多くの中高年の方々が運動の楽しさに触れ、その必要性を感じ、より充実した生活ができるようになれば幸いです。
 
ライフサポート運動プログラム
 
アクア編I
 
ライフサポート運動プログラム
アクア運動プログラムとは
■LAプログラムとは
 プールで水中ウォーキングを中心に、音楽体操ストレッチなどを行います。水の中の運動は、水の物理的特性(浮力・水圧・抵抗・水温)を利用して、多種多様な運動を安全に行うことができ、しかも参加者自身が効果を実感できるという特徴があります。
 LAプログラムの中心となる「水中ウォーキング」は、誰でも簡単にできる理想的なエアロビクス(有酸素運動)です。激しい動きのダンスやサーキットとは違い、軽い(ゆっくり、休みながら)運動でも、十分なトレーニング効果が得られるため中高年をはじめ、身体に障害のある方にも有効です。
 アクア運動プログラムでは、加齢による身体機能の低下を十分に配慮して、運動の前に血圧測定や体調チェックを行います。決して、水に潜ったり、泳いだりはしません。プログラムに応じて楽しい音楽を活用し、参加者自身が自然に身体を動かしていけるようにします。
 
■水の特徴と効果
<特徴>
(1)浮力を利用する
 浮力は、体重による体幹や下肢関節の負荷を減少させます。水深により下肢にかかる負荷は異なり、首まで水中につかると体重の約1/10、胸までつかると約1/3、腹部で約1/2、大腿部で約9/10になります。
(2)水圧を利用する
 静止した水中にある物体に全ての方向から均等に加わり、水面からの深さに比例する圧力が水圧です。首や胸までつかり運動をすると、腹部が圧迫され横隔膜は押し上げられます。水中で繰り返し呼吸を行うことは呼吸筋に大きな負荷を与えることになり胸郭の発達を促進します。
(3)抵抗を利用する
 水中で四肢を動かす場合、どの方向にも水の抵抗が働き、これにより負荷を得ることができます。水の抵抗は、部位の長さや運動のスピード、方向などにより増減させることができます。
 また、体を支持し、急速な体位の変化を抑制する働きがあり、関節などに障害のある方でも安全に運動を行うことができます。陸上と同じ姿勢、同じ速度で水中を歩いた場合、体には表面張力や粘性抵抗、渦流などにより、約28倍の抵抗を受けます。水中を1m/secで歩いたときの水の抵抗は、陸上で28m/secで走る力に相当します。
(4)皮膚刺激を利用する
 水中では運動したときの体温上昇が抑えられるとともに、非常に多くのエネルギーを放出します。体温より低い水の中に入ると、熱の放散を防ごうとする働きが生じ、皮膚の血管が収縮します。同時に体温の低下を防ぐため活発な熱生産が行われ、他の血管は拡張し、血液の循環が促進されます。
 プールの水温は30度前後が適当とされています。これは、ふるえを起こすことなく水中にとどまることができること、水温による基礎代謝量への影響がもっとも少なく、ゆったりとしたスピードの運動を続けることが可能だからです。
 
<効果>
(1)浮力を利用したリラクセーションや下肢関節の可動域向上が図られる
(2)抵抗を利用した全身の筋力、筋持久力の強化及び身体の調整力の向上が図られる
(3)水中歩行などの有酸素運動により、呼吸、循環機能の向上や新陳代謝の促進が図られる
 
■プログラム構成
<ウォーミングアップ>
音楽を活用したリズミカルなオリジナル体操や、誰にでも簡単にできるストレッチ体操です。
 
<ウォーキング>
音楽に合わせて水中でいろいろな歩行をします。水の抵抗が身体へ心地よい刺激になります。
 
<ソフトトレーニング>
無理なく楽しみながら行える筋力トレーニングです。
 
<レクリエーション>
誰にでも簡単にできるゲームを行います。参加者の方々が、自然に触れ合う雰囲気を作ります。
 
<クールダウン&リラクセーション>
上昇した心拍数を徐々に下げながら、心身の緊張を和らげていきます。
 
■注意事項
(1)運動の前後に血圧や心拍数を測定したり、体調を確認することで運動を安全に行う
 特に、入水直後は、血圧が急激に変化する場合もあり、参加者の動きや顔色などの変化に注意する
(2)運動経験や体力などには個人差があるので、自分にあったペースで行うようにする
(3)水温は30度前後で、途中であがる場合(休憩、トイレなど)は、体温低下をおこさないようにバスタオル等を準備しておく
(4)運動中は、身体の動き方や動く方向などがよく分かるように、指導する位置や指導法に注意する
(5)次のような場合は運動をしないようにする
・微熱(37度以上)があるとき
・睡眠不足で疲労感があるときや体調不良(風邪、二日酔いなど)のとき
・安静心拍数が100拍以上、最大血圧値が145mmHg以上のとき
・不整脈があったり、異常心電図がみられるとき
・眼や耳に疾患があるとき
・皮膚の疾患があるとき
(6)会員相互がコミュニケーションをとれるように配慮する
 
 中高年は運動への意識を持たせることが大切ですが、コミュニケーションづくりをいかにできるかがより重要になります。指導者は、会員相互が自然にコミュニケーションをとれるように意識的に働きかけてください。







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