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(6)分析及び観測項目と方法
 
 表II.2.3.3-4には、分析及び観測項目と方法の概略を示した。
 
表II.2.3.3-4 分析及び観測項目と方法の概略
区分 分析・観測項目 分析・観測方法
生物項目
(バラスト水性能(排出)基準対応および動植物プランクトンは米国ワシントン州暫定承認基準に対応)
80μm以上の正常な動植物プランクトン数 顕微鏡観察(後述(7)2)船外作業内容参照
80μm未満10μm以上の正常な動植物プランクトン数 顕微鏡観察(後述(7)2)船外作業内容参照
海水中の病原性コレラ菌(O1およびO139) 平板培養法
動物プランクトン1g(湿重量)中の病原性コレラ菌数(O1およびO139) 平板培養法
大腸菌数 平板培養法
腸球菌数 平板培養法
生物項目 (基準対象項目外) 全菌数 直接計数法
従属栄養鞭毛虫数 直接計数法
水質
(米国ワシントン州暫定承認基準
対応)
水温 水質メータ(HOTIBA,U-21XD)による測定
塩分
pH
溶存酸素
濁度
導電率
密度
吸光度
(UV254,480,630,645,663,665,750)
吸光光度計(Thermo Electron, Genesys 10UV)による測定
TOC(全有機炭素) 燃焼酸化―赤外線法
粒子サイズ組成 コールターカウンター(コールター,マルチサイザーII)による測定
 
 また、以下には動植物プランクトン以外の項目に関する詳細な分析・測定方法を示した。 なお、動植物プランクトンに関しては、(7)2)船外作業内容で後述している。
 
 
 分析は、各港湾における採水試料を冷暗状態で速やかに実験室に持ち帰り、次の培養試験で行った。
 
コレラ菌:
 試水を6000rpmで30分間冷却遠心し、得られた沈渣を少量の上澄液で再懸濁した。 この濃縮液を各0.2mlずつ5枚のTCBS寒天平板培地に塗抹し、37℃で18〜24時間培養した。 TCBS寒天平板培地上の黄色細菌集落を釣菌した。 釣菌した細菌集落に対し生化学的性状試験及びそれぞれの抗血清を用いた凝集反応試験を行い、凝集したコロニーを計数した。
 
大腸菌:
 試水200mlを6000rpmで30分間冷却遠心し、得られた沈渣を少量の上澄液で再懸濁し100倍濃縮とした。 この濃縮液1.0mlを滅菌シャーレにとり、あらかじめ滅菌し45〜50℃に加温した合成酵素基質培地(MAGENTA-GAL、X-GLUG添加)を15〜20ml注ぎ混釈した。 培地が凝固した後にシャーレを倒置し、35〜37℃で20±2時間培養した。 培地上に形成された青色の細菌集落を大腸菌として計数した。
 
腸球菌:
 試水200mlを6000rpmで30分間冷却遠心し、得られた沈渣を少量の上澄液で再懸濁し100倍濃縮とする。 この濃縮液を各0.2mlずつ5枚のM-エンテロコッカス寒天平板培地に塗抹し、36±1℃で48±3時間培養した。 M-エンテロコッカス寒天平板培地上の薄赤から暗赤色細菌集落を釣菌した。 ブドウ糖寒天平板培地により36±1℃で48±3時間培養した後、生化学的性状試験を行い計数した。
 
 
 分析は、各港湾採水における試水10mlの海水をグルタールアルデヒドで固定して冷暗保存し、実験室内に持ち帰った後に実施した。 全菌数及び従属栄養鞭毛虫の計数は、保存した試料をDAPIで染色し、落射蛍光顕微鏡を用いて行った(直接計数法)。
 
 
 表II.2.3.3-5には、水質メータによる測定方法を示した。
 測定は、船上での実験実施中に行い、各試水に水質メータ(HORIBA製、U-21XD)のセンサーを挿入し、表示される値を読みとった。
 
表II.2.3.3-5には、水質メータによる測定方法等
項目 単位 測定原理
水温
(Water Temp)
サーミスタ(Thermistor)と呼ばれる、温度の変化に従い抵抗値が大きく変化する熱に敏感な抵抗体(Thermally Sensitive Resistor)の性質を利用し温度を測定する。
測定範囲:0〜55℃、分解能:0.01℃
塩分(Salinity) PSU ある水温における導電率と塩分濃度の間には、一定の関係があり、導電率と水温を測定し演算することで相当する塩分濃度を求める。
測定範囲:0〜40 PSU、分解能:0.1PSU
PH pH 試水中に存在する水素イオン(H+)濃度をガラス電極により測定する。ガラス電極法とは、ガラス電極と比較電極の2本の電極を用い、この2つの電極の間に生じた電圧(電位差)により、試水のpHを測定する。
測定範囲:pH0〜14、分解能:0.01pH
溶存酸素量
(Dissolved Oxygen)
mg/l 酸素透過性隔膜を通過してきた酸素により、酸素透過性隔膜と密着した銀では還元反応、鉛では酸化反応が生じ、2者間の回路に酸素量に応じた電流が流れることを利用し測定する。
測定範囲:0〜19.99mg/l、分解能:0.01mg/l
濁度(Turbidity) NTU 試水中にある濁度成分により散乱した光と、透過した光の比率に基づいて測定する。
測定範囲:0〜800NTU、分解能:0.1NTU
導電率
(Conductivity)
S/m 2電極間を流れる電流の流れ易さを利用して測定する。
測定範囲:0〜9.99 S/m、分解能:フルスケールの0.1%
密度 σt 海水の密度σは、1.000〜1.031の間にあり、便宜上1を減し1000倍した値をσとして表す。水温と導電率の換算により測定する。
測定範囲:0〜50σt、分解能:0.1σt
 
 
 測定は船上での実験実施中に行い、各試水を吸光光度計(Thermo Electron製、Genesys10UV、光源キセノンフラッシュ、波長範囲190〜1100nm、精度±1.0nm)を用いて各波長(254、480、630、645、663、665及び750nm)のUVを試水に照射して行った。
 波長254nmの紫外線(UV)吸光度は、米国ワシントン州の暫定承認方式にしたがって行った。 また、この波長の吸光度測定結果は、酸性法の化学的酸素要求量(以下CODMnという)と良好な相関関係(R≧0.98)のあることが知られている。 CODMnは、日本国内で湖沼や海洋を対象に、有機物量の指標項目として広く分析されている項目である。 つまり、波長254nmの紫外線(UV)吸光度を測定することは、試水中における有機物の動態が把握できることになる。
 その他の波長における吸光度は、海洋調査などで行われている波長を参考とした。 いずれも生物の色素を指標する吸光度である。
 測定方法は、まず蒸留水によりブランク測定を行いゼロ校正し、次に採水した試水を石英セル内に満たし、吸光光度計により各波長における吸光度を測定した。
 
 
 全有機炭素(TOC)は、各港湾における試水を褐色ガラスビンで冷暗保存して実験室に持ち帰り、燃焼酸化-赤外線式法により測定した。
 TOCは、試水中に存在する生物由来の全有機炭素量を示すものである。
 TOCは、試水中の"全炭素量"と"無機炭素量"を求め、その差(全炭素量-無機炭素量=有機炭素量)により求めた。 分析方法は、次のとおりである。
 
図II.2.2.3-6 TOC(全有機炭素量)の測定方法
 
 
 粒子サイズ組成は、粒径が1〜80μmの粒子数を対象にした。
 分析は、コールター原理(電気抵抗法)によって粒子を測定するコールターカウンター(コールター社製、マルチサイザーII、アパチャー径:50μm、100μm、140μm、測定範囲1〜80μm、分解能:アパチャー径の2〜60%)を用いて行った。
 コールターカウンターによる分析原理は以下のとおりである。
 アパチャー・チューブのアパチャー(細孔)の両側に電極を置き、試水を通して両電極間に電流を流す。 試水中の懸濁粒子がアパチャーを通過する際、粒子体積に相当する両電極間の電気抵抗に変化が生じる。 このときの抵抗変化量は、アパチャーを通過する粒子の大きさ(体積)に比例する。 この抵抗変化を電圧パルスに変換し、これを増幅、検出して粒子の計数とサイズ測定を行う。
 なお、コールターカウンターは、粒子の体積変化量(3次元)に基づいてサイズ測定を行っているため、2次元変化量に基づく光学的測定法よりはるかに高い測定精密度が得られる。







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