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はじめに
 低迷が続く経済情勢に加え、地方分権、構造改革の進行など、近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化し、厳しさを増してきている。したがって、都道府県、市区町村、広域市町村圏などは、新たな施策づくりにおいてはアウトソーシングや広域的共同処理などを従来以上に追求せざるをえなくなっており、既存の施策についてもたえず見直し、行財政のスリム化に努めることを求められている。また、ここ数年、全国各地で、合併への模索がなされているところであるが、市町村合併特例法の期限切れまで一年を残すだけとなっている。以上のような状況のもと、自治体は、個性豊かで活力あふれる地域形成に向け、地域資源の活用や住民とのパートナーシップを基本理念とし、地域づくり・まちづくりに懸命に取り組んでいるところである。
 当機構では、自治体が直面している諸課題の解決に資するため、全国的な視点と個々の地域の実情に即した視点の双方から、できるだけ多角的・総合的に課題を取り上げ、研究を実施している。本年度は、7つのテーマを具体的に設定し、取り組んだ。本報告書は、このうちの一つの成果を取りまとめたものである。
 現在、全国には40万人以上の知的障害者が生活しているが、自立した生活を営むための住宅や施設は、地域社会に十分に確保されていないのが現状である。ノーマライゼーション社会の進展とともに、地域社会のなかに知的障害者の居住環境を確保することは、あらゆる自治体が抱える共通の課題となっている。
 本研究は、千葉県を調査対象地として、知的障害者が地域社会のなかで自立した生活を営むための居住環境のあるべき姿、可能性について、知的障害者の生活の場である生活ホーム、グループホームを中心に調査、検討したものである。
 本研究の企画及び実施にあたっては、研究委員会の委員長、委員及び幹事各位をはじめ、関係者の方々から多くのご指導とご協力をいただいた。
 また、本研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて、千葉県と当機構とが共同で行ったものである。ここに謝意を表する次第である。
 本報告書がひろく自治体及び国の施策展開の一助となれば幸いである。
 
平成16年3月
 
財団法人 地方自治研究機構
理事長 石原 信雄
序章 調査の概要
1 研究の背景
 千葉県には、平成15年3月末現在、知的に障害を有する人(以下、「知的障害者」という)が、約2万2,000人在住している(知的障害名簿搭載者数)。このうち、18歳未満の知的障害児は6,000人、18歳以上の知的障害者は1万6,000人となっている。18歳以上の知的障害者の居住場所をみてみると、在宅で生活をする人は約1万2,600人、知的障害者入所施設(知的障害者更生施設、知的障害者授産施設)で生活をする人は約3,400人となっており、在宅で生活する知的障害者が全体の約8割を占めている。
 在宅で暮らす約1万2,600人の知的障害者の多くは、自宅で家族とともに同居しており、父母等から生活上の支援・援助を受けて生計を維持しているが、就業等により一定の経済性・自立性を確保している知的障害者のなかには、家族に依存するのではなく、社会の一員として自立・独立した生活を希望している人が少なくない。しかし、家庭以外に知的障害者の生活の場となる住宅・施設は地域社会に必ずしも十分に整備されておらず、こうした一般的・基本的な知的障害者の意向が充足できない社会環境にある。
 また、約3,400人が生活する知的障害者入所施設は、本来は適切な指導・訓練を通じ、入所者の社会復帰を図ることを目的に設置されているが、入所者の生活の場が地域生活へ移行するケースは少なく、在宅での生活が困難になった知的障害者の「ついの住みか」となっている現実がある。こうした問題の背景には、施設入所者の退所後の生活の場が、地域社会に確保されていないことが指摘されている。
 これらの問題を解消するためには、地域社会に知的障害者の新たな居住環境を確保することが課題となっていたが、千葉県では、「知的障害者に対して、居室等を提供し、日常生活及び社会適応に必要な各種援助を行い、社会参加の促進を図ること」を目的とした知的障害者生活ホーム(以下、生活ホームという。)制度を昭和61年に創設し、平成15年現在、74ヶ所、330人分が整備されている。また、国でも、「知的障害者の自立生活を助長する」ことを目的に、平成元年に知的障害者グループホーム(以下、グループホームという。)制度を創設し、平成15年4月現在、千葉県内には35ヶ所、162人分が整備されている(千葉市、船橋市を含む)。
 平成15年度からスタートした支援費制度では、地域生活を支援する各種のサービスを障害者自身が選択できることから、施設ではなく地域で生活を希望する知的障害者が増加することが見込まれ、国の「新障害者プラン」でも、今後5ヵ年間(平成15年〜19年度)に、全国に新たに3万400人分のグループホームを整備することが計画されている。千葉県内の生活ホーム・グループホームで自立した生活を営む人は、平成15年現在で約500人と、現時点では知的障害者の約4%にとどまっているが、今後は、生活ホーム・グループホームを生活の場として、地域社会で自立した生活を希望する人が増大することが考えられる。
2 研究の目的
 本研究では、下記の5項目を研究の目的とした。
 
(1)在宅の知的障害者の居住環境等の把握
(2)生活ホーム・グループホームに係る現況の把握
(3)知的障害者の自立した生活の確保の観点からみた生活ホーム・グループホームの問題点・課題の整理
(4)居住環境確保の観点からみた生活ホーム・グループホームのあり方の検討
(5)生活ホーム・グループホームを核とした地域福祉モデルの提案
 
(1)在宅の知的障害者の居住環境等の把握
 知的障害者の基本的な生活拠点は在宅であるとの認識に立ち、現在、在宅で生活する千葉県内の知的障害者の居住環境、今後の生活意向等についての現況を把握する。
 
(2)生活ホーム・グループホームに係る現況の把握
 平成12年に千葉県生活ホーム連絡協議会が実施した「千葉県生活ホーム・グループホーム実態調査」の研究成果を活かしつつ、知的障害者の生活場所としての生活ホーム・グループホームの現況の把握に加え、生活ホーム・グループホームの地域社会のなかでの位置づけや周辺地域との関わりの現況についても把握する。
 
(3)知的障害者の自立した生活の確保の観点からみた生活ホーム・グループホームの問題点・課題の整理
 (1)、(2)を踏まえ、知的障害者の「自立した生活の確保」の観点から、生活ホーム・グループホームの問題点・課題を整理する。
 
(4)居住環境確保の観点からみた生活ホーム・グループホームのあり方の検討
 地域社会における生活ホーム・グループホームの役割が増大していくことを踏まえ、知的障害者が、生活の場として生活ホーム・グループホームを捉え、利用することができるよう、居住環境の確保の観点から、生活ホーム・グループホームのあり方を検討する。
 
(5)生活ホーム・グループホームを核とした地域福祉モデルの提案
 知的障害者の生活の拠点としての生活ホーム・グループホームを核に、地域社会とのかかわりや社会的支援のあり方など、地域福祉モデルの提案を行う。
3 研究の視点
(1)利用者の生活的視点から、生活ホーム・グループホームの役割を検証
 生活ホーム・グループホームの役割は、地域社会のなかでの生活上の基盤を保障することにある。既存の生活ホーム・グループホームが所期の目的を果たしているかについては、利用者の生活的視点から、検証する必要がある。このため、利用者の日常生活において、生活ホーム・グループホームがどのような基盤・位置づけとなっているのかを検討することとした。
 考え方としては、これまでの障害者福祉では、利用者の基本的な生活を構成する睡眠、身の回りの世話、食事などの一次活動と就業・就学といった二次活動の一部を中心に支援を行ってきたが、本研究では、障害を持っていない人と同様に、余暇・レクリエーションも含めた三次活動の領域も重視し、こうした活動への支援について生活ホーム・グループホームが果たす役割等について調査・検討を行った。
 
生活時間の考え方(参考)
 
(2)「健康福祉千葉方式」による地域環境の検証
 生活ホーム・グループホームを対象としたこれまでの調査が、主として利用者と世話人の実態といった施設中心の視点によるものが多かった。
 しかし、生活ホーム・グループホームを拠点に、利用者の生活がどのように形成されているのかについては、地域社会との関係や他のサポート(人・組織)の現状、行政との関わり方など、地域環境を視点とした調査の必要性も高くなってきている。
 千葉県では、健康福祉の検討にあたり、当事者の視点にたち、分野や主体の垣根を超えた、地域主体の総合的な計画や施策づくりを行う「健康福祉千葉方式」を導入しており、本研究においてもこの方式により、生活ホーム・グループホームが置かれている地域環境の検証を行った。
 
「健康福祉千葉方式」による本研究での調査の考え方
生活ホームをとりまく地域環境の検証と新たな支援のための地域福祉モデル







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