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平成十四年度日本財団助成事業
近畿圏における高速鉄道を中心とする
新たな交通のあり方に関する調査の概要
(財)関西交通経済研究センター業務部長 樋口 俊助
 
 本調査は、平成十四年度競艇交付金による日本財団の助成金を受けて実施した、近畿圏の新たな高速交通体系のあり方に関する調査事業である。
 近畿圏の高速交通網の整備については、運輸政策審議会答申第十号(平成元年五月三十一日)「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」に基づき進められているところである。答申路線整備によって大規模プロジェクトへの対応や車内混雑率の緩和、質の高い鉄道サービスの提供など、近畿圏全体へ大きな社会経済効果をもたらしており、今後も引き続き答申路線の整備を行っていく必要がある。一方で、少子高齢化社会への移行、大規模プロジェクトの進捗状況、国民の鉄道に対するニーズの変化など、鉄道整備を取り巻く状況は答申当時から大きく変化しており、二十一世紀にふさわしい鉄道整備についての検討が求められるところである。特に、都市地域の活性化、大気汚染や騒音被害をはじめとした環境問題への対応、バリアフリー社会をめざしたシームレスな鉄道整備といった観点から、優れた都市基盤整備として高速鉄道網の整備に対するニーズは一層の高まりを見せている。
 
鉄道を取り巻く外的要因と需要構造
 
 一方、国や地方自治体の財政事情は年々厳しさを増しており、投資に見合った整備効果を見極めつつ、社会的なニーズに沿った鉄道整備を進めていくことが肝要である。
 このため、本調査では、これらの社会情勢の変化や将来の近畿圏の都市構造のあり方、年々増加を続ける自動車交通との適切な機能分担なども考慮しつつ、近畿圏の今後の経済活力と質の高い市民生活を支える新しい高速交通体系のあり方について、十号答申の進捗状況や現状での整備課題の整理等、利用者ニーズの把握や鉄道を中心とする交通政策の方向性、さらに既存ストック活用策、新線計画、需要予測、また、近畿圏における交通ネットワークのあり方等、総合的な調査、検討を行った。
 本調査による成果が、二十一世紀の近畿圏における鉄道を中心とする交通計画の検討に当たって貴重な資料となり、ひいては将来の近畿圏にふさわしい高速交通体系の構築に寄与することを期待するものである。
 
 
鉄道を中心とする交通の現状分析
 
●近畿圏の交通需要の現況
 
☆総人口の伸び率低下、少子高齢化の進展、産業構造の転換等に伴う就業人口の減少等を踏まえ、通勤や業務関連の需要は減少している。
☆一方で、国民の余暇生活時間が増加しており、買い物など私事・自由目的の交通需要は増加している。
☆免許取得者数・自動車保有台数の増加に伴い、郊外地域を中心として自動車利用のウェイトが急速に高まっている。
☆郊外型商業施設や工業・流通系施設の立地を背景に、常住・従業・昼間人口の外延化が進み、需要構造も変化している。
☆一方で都心部においては、人工の都心回帰の傾向が続いている。
☆大阪市域を中心とする鉄道利用者の構造に大きな変化は見られないものの、近年の社会経済環境の変化等を受け、減少傾向にある。
☆運賃や施設のシームレス化やバリアフリー化、また乗車環境の改善を中心とした鉄道サービスの高度化がニーズとして高くなっている。
 
輸送需要(京阪神交通圏)と混雑率
資料:都市交通年報
 
 
●今後の対応の方向性
 
☆交通目的構成や年齢構成、流動の方向が変化しており、交通ニーズに対応した輸送サービスの提供が必要となってくる。
☆近年の人口増加地区は鉄道駅密度の低い地区でもあり、鉄道駅へのアクセス時間の増大やバス交通の定時制確保等が社会的課題となりつつあり、公共交通サービスの改善・向上が必要となってくる。
 
 
運輸政策審議会答申第十号の検証
 
 近畿圏の鉄道整備は、平成十七年を整備目標とする運輸政策審議会答申第十号に基づき行われ、現在までに答申された約二百二十kmの新線計画において約五十%が開業、約二十%が事業化された。これにより「大規模プロジェクト等対応や混雑緩和」についての政策目標はほぼ達成された。しかしながら、一部路線では、いまだに百五十%以上の混雑が続いており、また、都市の郊外化等による混雑の長時間化が進展しているなど、輸送サービスの高度化という政策目標については、課題が残されている。
 一方、混雑が緩和する中で、人口の高齢化が進んでいることなどを背景として、鉄道路線間や鉄道とバス間の乗り継ぎ利便性向上への要請が強まりつつあり、今後は情報機器等を活用した鉄道間やモード間のネットワーク・シームレス化が大きな課題と考えられる。また、答申第十号で掲げられた「計画実現方策」における建設費低減と高齢者や女性の社会進出を見とおした需要喚起策の両面を強力に押しすすめることが、利用しやすく事業性の高い鉄道を中心とする新たな交通ネットワーク形成の実現へと繋がるものと考える。
 
 
今後における鉄道を中心とする交通政策の方向性
 
 答申第十号及び運輸政策審議会第十九号答申「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策」(平成十二年八月)の政策目標の達成状況と課題を踏まえると、通勤・通学混雑の緩和、速達性向上等が進んでいる一方、相互乗り入れ、路線間の連絡性向上、鉄道とバスの連携等の乗り継ぎ利便性の向上、鉄道サービス空白地の存在、広域交通アクセス、一部路線の混雑等の課題が残されている。
 さらに、より長期的な展望に立ち、経済社会の変革に対応するとともに変革を促すモビリティの革新を図るべく、運輸政策審議会答申第二十号「二十一世紀における総合的な交通政策の基本的方向」が平成十二年十月に出され、鉄道に関しては、都市圏において通勤・通学以外の様々な都市住民の移動ニーズに応えるため、混雑率の改善とネットワークの完成を図るとともに、シームレス化の推進により交通機関相互間の乗り継ぎ利便性を高めていくことが二十一世紀初頭における目標として明確にされた。
 これらの状況を総合的に勘案しつつ、将来に想定される社会・経済構造、交通需要動向等を踏まえ、近畿圏において今後官民が一体となって目指すべき鉄道を中心とする交通政策の方向性を規定することが必要である。
 
今後における鉄道を中心とする交通政策の方向性
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