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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1995/12/05 産経新聞夕刊
有名無実のPKO法部分凍結 「不作為犯」に近い政府方針
編集委員 牛場昭彦
 
 「犯罪を犯す」ということは普通、刑罰の対象になる行為をすることを意味するが、なかにはやるべき行為をやらないことが犯罪を犯したことになる場合もある。これは「不作為犯」と言われており、例えば母親が乳飲み子に乳を与えず死亡させた場合などがそれに相当する。制定後三年たったら行われることになっていた「国連平和維持活動協力法」(PKO法)の見直しを先送りしたままで自衛隊をゴラン高原に派遣しようとしている政府のやり方は、まさしくこの「不作為の犯罪」を犯そうとしているのに等しくはないだろうか。
 PKO法ができて以来、この三年間で自衛隊はカンボジア、モザンビークでのPKO、ザイールでのルワンダ難民救済活動と都合三回海外に派遣された。
 これらの活動を通じて明らかになったことは、この法律は実際のPKOとは遊離しており、順守することは不可能であるばかりか、守っていたのでは危険でさえあるという点だ。
 わけても最大の問題点が、同法二四条の武器使用に関する規定であることは、改めて言うまでもない。
 そもそも、PKOに派遣される軍隊は戦うための部隊ではない。これまでの活動では自衛隊が武器を使わざるを得ないような事態が一回も起きていなのも事実だ。だが、「過去になかった」ということは「将来もない」という保証には全くなり得ない。
 現に中東地域ではイスラエルの首相がユダヤ人青年に暗殺されるというこれまでには考えられなかったようなことが起きているし、「地震はない」と高をくくっていた関西地区が大地震に見舞われたのは、ついこの間だったではないか。
 武器の使用を個人の判断にゆだねるなどといったいい加減な状態の中で事が起きれば、部隊が大混乱に陥り自衛隊員に犠牲者が出る恐れがあるだけでなく、他国の軍隊にも迷惑が及ぶ可能性もある。自衛隊を出す以上、そうした事態が起きないよう必要な措置を取っておくというのは政治の最小限の責任ではないか。
 派遣される隊員たちが「万一の場合は、後で法廷に立たされても軍人としての行動を取る」という覚悟でいることは今や“公然の秘密”になっているが、武装集団をそこまで追い込んでいる政治の“不作為”は、もはや「犯罪的」だと言っても過言ではない。
 PKO法で定められた業務の内、PKF(平和維持軍)にかかわるとされている分野を凍結するという政策が、いかに現実と遊離しているかもこれまでの活動で完膚なきまでに実証された所だ。
 もともとPKOの業務を机上で勝手に細かく分類し、これとこれはPKFの仕事だからわが国は実施できない−などと主張してみてもPKOの現場では通用しないのではないかという指摘は当初から出ていた。
 果たせるかな、最初のカンボジアにおける活動から政府は法律にもとづく実施計画、実施要領の再三にわたる変更を余儀なくされたのは周知の通り。ついには「情報収集」に名を借りてPKF(平和維持軍)業務であるとして禁止されていたはずの「武装パトロール」(巡回)まで実施を余儀なくされ、ザイールではこれまたやらないことになっていた「救出」を「輸送」名目で自衛隊はやっているのだから、PKF部分の凍結を解除するもなにも、実際上凍結状態などとうに存在しなくなっているのである。
 となれば、次の派遣前に政府がやるべきことは、まず武器使用の原則を改正し、現場ではすでに有名無実化している規制枠を取り払い、“国際基準”に合わせるよう法を見直すことであることは明確なはずだ。
 にもかかわらず、政府は関係各省庁に見直しを検討するよう形式的に指示しただけでせっかくの機会を取り逃がしたばかりか、逆に社会党の強い意向を受け、ゴラン高原のPKO(UNDOF)には(1)武器、弾薬、武装要員の輸送は行わない(2)共同訓練には参加しない−という新たな枠をはめようとしたのである。
 輸送を担当する自衛隊が「武器等は運べない」などと言い出せば、それこそ仕事にならない。防衛庁と自民党が押し返し、結局(1)については“通常業務としては”という文語が加えられ、(2)についても“武器使用の原則に抵触する恐れのある共同訓練”と修正されたのだから、一見規制はかなり緩和されたように見えるが、実はこうした目先の小細工がかえってより重大な問題を引き起こしかねないことが見逃されている。
 「武器は運ばない」と言っておきながら「通常業務としては」というのだから、「通常ではない業務だ」という名目を付ければ「何でも運べる」ということになってしまう。武装パトロールを「情報収集」、「救出」を「輸送」と言い換えれば、実質的な法律違反であっても罪を問われないというやり方が、ここでは初めから認められているも同然なのだ。これがやがて「法はあっても、名分さえ立てば何でもあり」ということになっていく恐れがないと言い切れるかどうか。
 やるべき時にやるべきことをやらなかった責任者の怠慢が、やがて大きな災禍をもたらした例は、世界の歴史上枚挙にいとまがないほどあるのだ。
(うしば・あきひこ)
 
 
 
 
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