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1995/08/10 産経新聞朝刊
【主張】PKO法の見直しを急げ
 
 自衛隊が海外で貢献する糸口になった、いわゆるPKO法(国連平和維持活動等に対する協力に関する法律)が施行されてから十日で丸三年になった。制定されるに当たっては、社会党が牛歩戦術を演じるなど紛糾したが、ひとたび自衛隊の海外活動が軌道に乗ると、与野党ともPKOへの関心が薄れたらしい。三年を経過したら、法律の実施状況に照らして在り方の見直しをする、という付則があるにもかかわらず、見直しへの腰は重い。
 PKO法見直しの焦点は、法律に規定されている自衛隊の業務のうち、凍結されている紛争停止状況の監視など六項目(いわゆるPKF業務)の解除と、武器使用規定の明確化である。なかんずく、直接生命の危険に結びつく武器使用規定については、一刻も早く見直さねばなるまい。
 現行法では、武器使用は正当防衛に限られ、それもやむを得ないと認める相当の理由があり、なおかつその事態に応じ合理的に必要と判断されるときだけ許される。「やむを得ない」とか「合理的に必要」の基準が明らかでないのだから、その場に遭遇した自衛官は一瞬判断に迷うのではないか。あとでやむを得ないケースではなかった、と判定されると、武器使用した当の自衛官は刑法で罰せられるのだから。そしてまた、その一瞬のためらいが、当事者の生命を危険に陥れる可能性が多分にあるのだ。
 多少ともリスクを背負ってこれから海外で活動しようとする自衛隊にとっては、活動の根拠である法律に一点の疑念もあってほしくないのは当然である。また、国の代表として派遣される自衛隊に、いざの場合の対処方法を明確に指示し、現地部隊が安心して活動に当たれるような環境をもうけるのは、送り出す側、すなわちシビリアン・コントロールの務めでもあるだろう。
 部隊行動としての武器使用の解釈もあいまい至極だが、かくも解釈の幅がある文言のままにしているのは、武器使用が「集団的自衛権」と受け取られるのを避けたいとするからである。しかし、わが国が国際貢献のために自衛隊を海外へ送ろうと決心した以上、部隊としての武力行使も覚悟していなければウソである。国連憲章は、その五一条で集団的自衛権を認めている。わが国も従来の解釈を改め、国連の活動に関連した武力行使は憲法上も可能だとの立場を定着させるよう努力すべきである。シビリアン・コントロールの大事さを強調するなら、その義務もまた果たさねばならないのである。
 
 
 
 
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