日本財団 図書館


1994/04/05 産経新聞朝刊
【主張2】朝鮮有事の危機意識高めよ
 
 北朝鮮情勢は、急テンポで緊迫してきたように見える。北朝鮮は、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れを求めた国連安保理の議長声明(三月三十一日)を四日、拒否する姿勢を明らかにした。いっぽうでは、米国防長官がすでに一、二発は現存する可能性が高いとされている北朝鮮の核兵器保有を公式に指摘し、新たに年間十ないし十二発の核兵器を生産できるような核開発計画に着手していることにも言及した。
 これをもって、ただちに戦争のような近未来を想定するのは、いかにも早計である。しかし、わが国の安全保障にとって重大な局面が、確実に、そして予想外の速さで近づいているのは事実である。いまひとつ危機意識が高まらない立法府、政府機関には先を見通した情勢判断を強く望みたい。
 核問題についての北朝鮮の立場は明確である。仮に核兵器を実際に開発しているなら、核戦略態勢が整う前に、自ら開発実態をさらけ出す愚は避けるにちがいない。またもし、伝えられる核兵器開発が、北朝鮮の巧妙なブラフだとすれば、なおさら手の内を見透かされたくないはずである。北朝鮮としては、IAEAに協力するようなしないような手練手管を駆使しつつ、核戦略態勢整備までの時間稼ぎをするか、米国などから経済援助や国際社会での地位確保を引き出したい。いずれにしても、これらは北朝鮮の生存にかかわる命綱であり、したがって、核開発の有無が判明する査察に応じるはずがない。いや応じられないのである。
 ミサイルが届く距離に核開発を急ぐ国があり、その国が隣国を「火の海にしてやる」とののしるようならば、わが国としても応分の備えをしなければならない。たとえば、いずれは必至といわれる経済制裁に際しても、わが国がどのような役割分担をしなければならないか、そのためにはどのような法整備をしておくべきか、準備作業を進めておかねばなるまい。
 またたとえば、朝鮮半島有事が発生したとき、韓国にいる邦人とその他外国人(推定十万人)をどのように救出するのか。政府専用機などの自衛隊機を救出に使えるようにする自衛隊法改正案すら審議されないままたなざらし状態。それに、自衛隊機などを総動員しても、救出対象邦人らの十分の一にも達しない。残りの人たちをどのように救出するかなどは、論議すらされたことがない。有事には振幅が大きい国民性だけに、事前準備は早め早めに整えておかねばならないのである。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION