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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998年10月号 Voice
これでいいのか周辺事態法
森本 敏(もりもと さとし)(野村総合研究所主任研究員)
 
 日米関係は六〇年代後半、日本の経済力や国際社会における地位が向上して以降、日米経済関係と日米安全保障関係が、いわば、両輪の輪のごとくに作用して進んできた。日米経済関係は、日米両国が世界のGNPの四割を占めるような地位にあれば、いろいろな摩擦や問題が生じて当然である。それは、繊維、自動車、オレンジ、半導体、貿易インバランス、親制緩和など、その時々によって性格の異なったものであった。しかし、日米両国がこうした日米経済関係の摩擦をうまく乗り越えてきたのは、日米両国社会にある草の根からの幅広い信頼関係と良好な日米安全保障関係が、この経済摩擦を補ってきたからである。
 とりわけ、日米安全保障関係は、冷戦期、冷戦後を通じて、米国のグローバルな戦略体制と、アジア・太平洋における国益追求に多大の寄与をなしてきた。米国のアジア・太平洋政策にとって、日米安全保障関係がいかに重要な役割を果しているかについては、米国がくりかえし強調しているところである。
 ところが、いま、この日米安全保障関係は万全でない。むしろ、いままでになくよくない状況であるといってもよいであろう。一九九六年四月の日米共同宣言では、日米両国が取り組むべきいくつかの重要課題を示している。
 その一つが、沖縄基地を含む在日米軍基地の安定的使用を確保することである。しかし、この中心的課題である普天間飛行場返還にともなう海上ヘリポート建設問題は、大田知事の対応によってまったく停滞したままである。
 もう一つの課題が、周辺事態法を含む日米防衛協力ガイドラインのための体制整備である。この問題も、周辺事態法案が四月末に閣議で承認され、国会に提出されたにもかかわらず、本格的な審議が行われずに今日に至っている。平成十年の通常国会終了までに審議されなかったばかりでなく、七月末より始まった臨時国会でも審議が行われそうにない。九月の江沢民国家主席の訪日に気がねしたことがその理由であろうが、参議院で自民党が過半数に至っていないことや、臨時国会における審議日程から見ても難しい状況になったからであろう。
 米国から見ると一九九七年九月にガイドラインが決って一年もたつのに、日本はそのための国内法すら整備できておらず、不満がつのっている状況である。
 さらに、もう一つの課題はTMD(戦域ミサイル防衛)に関する日米共同技術研究計画である。これは、TMDの取得・配備についての決定を行うものではないが、ともかく、日米間で共同の技術研究を今後、最低五年間はやっていこうとするものである。中国はかねてより、これに反対の意思表明をしており、日本政府はなかなか、技術研究計画の承認をくださないでいる。これも中国に気がねしたものであり、米国から見れば、日本は日米同盟をどう考えているのかということになる。
 このように、日米安全保障関係の信頼性を向上するために必要な具体的措置は、日本側の政治的リーダーシップが欠如しているために進展しておらず、米国の失望と落胆をまねいている。とりわけ、その理由が中国との外交関係への配慮のためということになると、日本はいったい、どちらの方向に向いているのかということになる。
 そのなかでも、周辺事態法案の取り扱いについては、米国側に期待があるだけに事態は深刻である。日本としては、できるだけすみやかに同法を成立させる必要がある。本稿は、今後、同法案が本格的審議されるにあたって、その問題のいくつかについて指摘したものである。
新ガイドラインの真のねらい
 日本は憲法の有権解釈上、集団的自衛権を国の権利としては保有するが、これを使用できないとされていることはよく知られている。
 一九五四年(昭和二十九年)に自衛隊法が成立したとき、自衛隊の任務およびその行動基準は、この有権解釈に基づくものであった。一九六〇年に日米安全保障条約改正のための日米交渉もこのような有権解釈に基づいて行われ、条約第五条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動する」こととしている。
 その結果、米国は、この条約上、日本に対する防衛義務を負い、他方において、日本は米国の防衛のために集団的自衛権を行使して行動できないため、この条項は米国の片務的な防衛義務を決めたものと一般にいわれている。
 日米安全保障条約は、これの見返りとして、条約第六条に「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」、米軍が日本の施設区域を使用することができることを規定している。
 この日米安全保障条約の下で、日本は主として、日本の領域内における防御作戦を行い、米国は日本の領域内外における攻勢作戦を担当するという役割分担ができあがった。日米安保条約改定以来、日米間の防衛協力はこのような役割分担の枠組みのなかで行われてきたといえる。
 一方、米国のアジア・太平洋におけるプレゼンスは冷戦末期になり、質、量とも選択的なものとなり、日本の国際社会における役割、地位および経済力が向上するにともなって、日米安全保障体制の下で、日本が米国に対する防衛協力をもっとやるべきであるという意見や圧力が大きくなってきた。その大きな契機は一九九〇年の湾岸危機のときに、米国が湾岸地域までの輸送や補給を日本に打診してきたことや、一九九四年の北朝鮮危機に際し、米国が日米韓三カ国による経済制裁、臨検などの独自対応に日本としても協力してくれるよう求めてきたときに訪れた。
 日米両国は冷戦後における同盟再定義の作業を通じて、日米安全保障関係の信頼性を確保するため、一九七八年に作成した旧ガイドラインを改正することを決めたのも、このような契機によるものである。
 すなわち、新ガイドラインは日米両国が同盟国として協力すべき広範な枠組みを定めるものであったとはいえ、その真のねらいは、アジア・太平洋において活動する米軍に対し、日本がその憲法上の枠組み内で、日本の領域外であっても武力行使にあたらない諸活動、とりわけ後方支援活動に乗り出すことによって日米安全保障体制の信頼性を向上させようとすることにあった。
 他方、ガイドラインはあくまで活動の指針であり、日米両国の立法上の措置を必要とするものとしなかったのは、このガイドラインを日本側で国会承認事項としたくなかったからにほかならない。しかし、指針の実効性を担保するためには、日本側として立法上の措置が必要であることは明白であり、したがって、日本は速やかに国内法の整備を行うことが迫られたのである。
周辺事態とは何か
 一方、日本の国内法は、そのほとんどが平時法であり、したがって、このガイドラインの実効性を確保するに最も望ましい国内法とは、いわば、緊急事態法ともいうべきものであった。この緊急事態法には有事および周辺事態並びにその恐れのある場合の準備や平常時から行うべき国家の行動規準が含まれるべきものである。
 ところが、新ガイドラインができたときの国内政治情勢は、このような法体系を整備することができるような状況にはなかった。とりわけ、自民党と社民党、さきがけの連立政権のもとで、このような法律が整備できるはずがない。そこで、順序としてまず、周辺事態に対応するための法律と有事法制とを切り離して、まず、周辺事態に対応するための法律にとりかかることとしたのである。
 その際、この法体系のなかに、いかなる事態への対応を盛り込み、その結果、どのような法律の形にするべきかについて、いろいろな議論が行われた。
 ガイドラインには日米両国がおのおの主体的に行う活動として、(1)避難民救助(2)捜索・救助(3)非戦闘員退避(4)船舶検査の四分野を決めている。さらに、米軍に対する日本の支援として(1)施設の使用(2)後方地域支援の二分野を決めている。
 周辺事態法案には結果として最初の四分野のうち(2)捜索・救助と(4)船舶検査、いわゆる臨検、ならびにあとの二分野のうち(2)後方地域支援の合計三つの分野の活動が盛り込まれることになった。
 どうして、このようなことになったのであろうか。論理的には、現行法の改正ではカバーできないそれぞれの分野について別々の法律を設定することが望ましいという考え方もあったであろう。しかし、一つの法律のなかに機雷除去などの日米共同対処を含め、あらゆる分野の活動を包括的に入れるべきであるという法制局のような立場の考え方もあったであろう。他方、官邸の意見は、連立政権の枠内で、あまり、包括的な法律をつくることには反対であったといわれる。いわば、いろいろな立場をとる者の妥協案として、周辺事態法案の内容が設定されたと見るべきである。
 しかし、その結果、捜索・救助、臨検および後方地域支援という活動が周辺事態法案に入ったため、これらの活動に関する行動規準が周辺事態という枠のなかに閉じ込められたということになる。すなわち、日本が周辺事態と認定するような事態でなければ、捜索・救助や国連の経済制裁の実効性を担保するための臨検活動に参加できないということになる。しかしながら、捜索・救助とか臨検というわが国が主体的に行う活動は、日本が周辺事態であると認定するしないにかかわらず、人道的見地から、あるいは国際社会に対する貢献として行うべきものである。そこで、そもそもこの法律の名称を周辺事態法というものにする必然性があったのかどうかという疑問がわくのである。
 周辺事態法案のなかで、最もやっかいな問題は周辺事態の定義に関するものである。法案第一条によれば、周辺事態とはわが国周辺の地域におけるわが国の平和および安全に重要な影響を与える事態と説明されている。ガイドラインのなかにも同様の説明が行われており、周辺事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したものであると強調されている。
 問題は、このような説明が論理的に正しいものであるとしても、実際にどのような地域でおこる事態を想定しているのかという問題が起ることである。まさか、アイルランドやコソボの事態まで周辺事態に含まれるとは誰も想定しないであろう。他方、朝鮮半島情勢が入ることは誰も疑わないだろう。それでは、中東・湾岸はどうか、インド洋はどうか、インドシナや南シナ海は含まれるのか、といった疑問が生じてくる。
 そもそもガイドラインの主旨とは、日米安全保障条約に基づいて、アジア・太平洋の平和と安定のために活動する米軍に、後方支援を行えるようにするということであったはずである。周辺事態が地理的概念でないとしても、これを地政学的に想定した場合、日米安全保障条約第六条に規定する極東とどのような相関関係になるかということは、周辺事態という概念を理解するときに、最もわかりやすい判断基準となる。
 これにはいくつかの考え方があるが、代表的なものを分類すれば、第一は、周辺事態は極東より広いというものであり、第二は周辺事態は極東より狭いというものである。第三は周辺事態と極東は別の概念、領域であるが、その多くが、オーバーラップしているというものであり、第四は二つの概念は地理的に同じことであり、たんに別の角度からとらえたものであるという解釈である。これらのうち、どれが日米同盟の信頼性を強化することになるかということが重要な判断基準であるべきである。
 他方、中国が周辺事態には台湾が含まれるのは受け入れがたいという批判をしはじめたために、周辺事態の解釈が日本の内政上の問題に発展したことは遺憾である。周辺事態法はあくまで、日本の国内法であり、どのように解釈するかは、日本の専管事項である。そもそもは、日米安全保障条約をめぐる議論のなかで、極東および極東周辺という定着した概念があるのに、周辺事態という概念をガイドラインに持ち込んだことに問題の発端があるのであり、今頃になっていってみてもせんなきことではあるが、こうした新たな概念を導入したために台湾が入るとか、入らないとかいった疑念を周辺諸国にもたれるようなことになったとしか言いようがない。
 周辺事態が日本の平和および安全に重要な影響を与える事態というのであれば、それはその都度、判断されるべき問題であり、一様に地理的に明示できないことは当然であるが、台湾や朝鮮半島はいうまでもなく、北東アジアにおいて発生した重大な事態が日本の平和および安全にとって無関係であるはずがない。
 むしろ、アジア・太平洋の平和と安定のために活動する米軍に対し、必要な協力をすることが日米安全保障体制の信頼性を高めるということであれば、当然のこととして、日本はこれに対応できなければならない。ガイドラインには「日本は、日米安全保障条約の目的の達成のため活動する米軍に対して、後方地域支援を行う」と規定しているのは、そのことを意味する。この場合の支援の範囲が、日米安全保障条約にいう、極東および極東周辺より狭いとはとても思われない。
 日米安全保障条約上の極東とは、米軍が日本に駐留することに係る概念であり、ガイドラインの周辺事態とは、日本が必要に応じて米国に支援するべき事態を示した概念である。この双方は、本来、異なる側面をもつ概念であるが、日米安全保障条約の目的に合致すべきものであるという点は一致する。その一致する点を地理的に考えれば、その範囲が極東および極東周辺を含めた範囲であることは当然であり、それでこそ日本は米軍に対し、十分な協力ができることになるのである。
周辺事態への実際の対応
 周辺事態法案によれば、周辺事態に際し、後方地域支援、捜索・救助、臨検を行う際、基本計画を策定し、これを閣議決定したのち、国会に報告することとなっている。
 このことは、まず、周辺事態を認定する手続きは、基本計画を閣議決定することによって行うということを意味する。この場合、周辺事態の認定を閣議決定によることが適当であるのかどうか、安全保障会議の機能をどう位置づけるかという問題があり、また、周辺事態の認識について、日米間でいかなる場でどのように調整するかという点が不分明である。
 また、このような場合に、内閣に本部が設置され、総合的な統制・調整機能が発揮されなければならないことは明白であり、そうであれば、この基本計画に基づき諸活動が実行される際、内閣の機能や責任・権限をもっと明確に示すべきである。また、基本計画が閣議決定だけで国会承認でなくてもよいのかどうかという問題もある。この国会承認問題は、おそらく、この法案を作成する過程で野党と取引する材料として現行法案の規定ができたのではないかと思われる。いずれにしても、周辺事態に対応する際、捜索・救助のように、時間的いとまがない場合もあり、基本計画を事前に国会承認とすることは、必ずしも現実的ではない。
 他方、公海上における後方地域支援は、憲法解釈上、ギリギリのラインになる可能性もあり、基本計画は閣議決定され、実施後、ある一定期間内に国会承認の手続きを得ることは、合理的な考え方であると思われる。その期間をどのように設定するかは、事態と対応の相関関係によって決められるべきであると考えられるが、通常の場合はたとえば、三十日から六十日のあいだといった考え方もできる。もちろん、国会承認が得られない場合には、基本計画の修正や活動の一時停止あるいは中止といった措置をとれるようにしておく必要がある。
 この法案は捜索・救助、臨検および後方地域支援の活動について実施要領を定めているが、この場合、周辺事態となる恐れのあるような状況下で、そのための準備を行う権限と責任を明確にしておくことも必要であろう。その場合、情報機能・活動を強化するための方策が明示されていることも重要である。
 さらに、捜索・救助についていえば、「周辺事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者」の捜索・救助を行うこととなっているが、捜索・救助の対象者をどのようにして認定するかという問題が生じよう。また、本来、捜索・救助活動は時間的いとまがないことが多く、同法六条に基づいて基本計画を閣議決定し、実施要領を定めて内閣総理大臣の承認を得るいとまがない場合、どのようにするのかという方法を担保しておく必要があろう。
 また、船舶検査、いわゆる臨検は国連安保理決議に基づいて経済制裁などの措置を実効ならしめるための活動であり、これに参加するわが国の活動は本来、周辺事態とは関係がない場合もあり、このような国連活動を周辺事態法のなかに規定することには無理がある。さらに、臨検を行うに際し、その実施区域を指定することとしているが、その実施区域は他国の活動と混合しないよう区別して行うこととなっており、したがって、臨検を行う際の活動に日米協力はありえない。
 にもかかわらず臨検を実施することを周辺事態法案のなかに含めた理由は、たとえ実施区域が米国と別のものであったとしても日本がこうした活動に参加することがひいては広い意味で日米協力に貢献するとの判断に基づくものと思われる。他方、このように実施区域を指定して臨検活動を行うこととしたのは、かかる行動が「戦闘行動が行われている地域とは一線を画される」公海およびその上空において行われることを担保するためにとった処置である。
 しかし、ガイドラインを見れば明らかなごとく、これは、捜索・救助や後方地域支援を行う場合の要件であって、臨検にはなじまない。臨検を行う区域は国連のもとで各国と調整しつつ指定されるべきものであって、国内法によって行うべきものではない。いずれにせよ、臨検といった国連協力を法律のなかに書き込んだのは、そうしなければ法的根拠がないからであるが、直接の日米協力活動にはあたらないこのような活動を周辺事態法のなかに含めたことには、すっきりしないものがある。
周辺事態法の諸問題
 有事法制の同時作業を
 すでに指摘したとおり、ガイドラインの実効性を担保するための法整備として、まず、周辺事態法にとりかかり、次に、有事法制へと段階的に進むという手順をとることとされている。
 したがって、周辺事態法は、次にくる有事法制へとつなげるものになっていなければならない。この場合、有事法制とは、日本有事に際して、国家としていかなる対応を行うか、その場合の日米協力をどのように行うかという点での基本的な方針と要領を規定する国内法である。そのなかには、国家として有事に際しての基本的な対処方針、基本計画の作成、承認、実行の手続きおよび基本要領、総理大臣から国民に至るまでの責任と義務などが規定されることになるであろう。
 周辺事態法案には、少なくともそれにつながる基本事項が規定されているべきである。とりわけ、周辺事態法案のなかに、周辺事態に対応すべき国家の基本方針、総理大臣の責任と権限、非常時において総理大臣が行うべき権限の強化、内閣の責任と権限、日米間の調整と統制のための権限、地方公共団体や一般国民が協力すべき場合の枠組み、その場合の実施要領や協力した国民の身分保証などがもっとはっきりとした形で規定されるべきである。
 そうすれば、この法律は周辺地域に発生した事態であるとはいえ、日米協力を含め、国家として緊急に対応しなければならない場合の基本的なあり方を示したものとなる。そして、それは、次にくる有事法制の基礎的な要件を示しうるのである。
 いずれにしても、周辺事態法が成立しなければ有事法制の作業にとりかかれないというものではない。周辺事態法を有事法制の足がかりにできるような内容にしつつ、さらに、並行して有事法制の作業に着手すべきである。ただ、この法律は国家行政機関のほとんどがかかわる作業であり、一貫した方針に基づいて国家の総合機能を発揮しなければならないような内容であるので、総理大臣が自ら作業開始を命じ、総理府内閣による強いリーダーシップと総合調整が必要となる。
 また、作業を行うにあたって、有事に際し、国家がいかなる対応をすることが国家と国民の安全と繁栄を最も効率的に確保できるかを勘案しつつ、その際、国民の権利、義務を憲法の下でどのように規定するかに留意する必要があろう。
 日米協力協定の締結が本来の姿
 周辺事態法は、あくまで日本の国内法である。しかし、同時に、日米協力ガイドラインに基づく日米協力の実効性を確保するための法的枠組みである。この二つの要因を最も効率的に達成するための手順は、まず、ガイドラインに基づいて日本有事に際して日米協力のあり方を規定する共同作戦計画と、周辺事態に際して、日米協力のあり方を規定する相互協力計画の基本的枠組みを策定することである。この作業は、日米両国の当局者間ですでに開始されている。
 この二つの計画が決るのには、まだ、少し時間がかかるであろう。いずれにせよ、この計画によって、日米両国が行うべき役割分担と双方の協力の枠組みができあがる。次に、これらの計画に基づいて日米協力協定を締結することである。この協定は、緊急時における日米協力のあり方を決める基本協定である。
 この協定を国会で批准するために、日本が国内法として規定するべきものが、いわば、緊急事態法である。これは、日本有事と周辺有事ならびにその恐れがある場合に、国家として対応すべきあり方を示すものである。
 このような順序が望ましいとすれば、現在まで政府・与党がとった手順は、まず、周辺事態法案を作成し、これではカバーできないものを自衛隊法など一部改正を草案し、次いで、これに基づく日米協力を行うためのACSA(日米物品役務相互提供協定)の一部改正を行い、さらに、共同作戦計画と相互協力計画の日米協議にとりかかっている。
 これでは順序が逆ではないか。周辺事態法によって担保されないような日米協力分野が、相互協力計画をつくる段階ででてきた場合に、どうするのか。
 何よりも問題と思われるのは、周辺事態法に基づき、日本が米国に支援しうる内容が法律によって担保されるとしても、それをACSAの改正によって日米協力の枠組みにすることには無理がある。ACSAはもともと、物品や役務を日米両国間で平時に相互に融通する財産管理上の手続きを決めた協定である。これを、周辺事態に広げたところで、ガイドラインに基づく日米協力の内容が改正されたACSAによってすべて包含されるとは思われない。
 とくに、日本が米国に対し一方的に支援する内容の改正はACSAの相互提供という原則になじまないのである。また、ACSAは国防総省所管の協定であるため、非戦闘員退避(いわゆるNEO)のように国務省が所管する活動は入らないし、捜索・救助、臨検なども本来は、ACSAといった物品や役務を相互に提供する協定にはなじまない。結局、日米協力協定という日米両国政府間の合意をつくるのが、本来の姿ではないのかという疑問が残るのである。
 武器使用についての二つの疑問
 周辺事態法案は武器の使用について、捜索・救助や船舶検査の活動を命じられた自衛隊が武器を使用する際、当該活動の実施を命じられた自衛隊の自衛官は「その職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する者の生命又は、身体の防護のため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ、合理的に判断される限度で武器を使用することができる」旨を規定している。
 この武器使用について、二つの疑問が生じる。第一は、この法案の規定は、改正前の国際平和協力法第二十四条と同じ趣旨の規定になっている。すなわち、この法案ではあくまで、自衛隊員個人の判断によって武器を使用することとなっている。しかるに、自衛隊が部隊として活動するときに、武器使用を自衛隊員個人の判断にゆだねたのでは、武器使用に統制がとれず、かえって危険な事態や混乱を招くこともありうるので、前回の通常国会において自衛隊員の武器使用を「上官の命令による」ものとするよう国際平和協力法の改正が行われたところである。
 しかも、国際平和協力法は武器使用があまり予想されない分野のPKO活動に参加する場合の規定である。周辺事態法に基づく活動は、周辺地域において緊急事態が発生している状況下で、いろいろな活動に従事するのであって、少なくとも改正された国際平和協力法にある武器使用ができるようになっていなければならない。
 とくに、船舶検査活動は、相手船舶による武力行使などの抵抗が予想され、このような事態に対して活動する自衛隊が武器使用を隊員個人の判断にゆだねることとしている同法案の趣旨は明らかに合理的ではない。
 第二は、周辺事態法は、捜索・救助と船舶検査の二分野に従事する場合の武器使用について規定しているが、後方地域支援については何の規定もないことである。これは、後方地域支援には武器を使用する場合がありえないから、規定する必要がないということのようである。これはとんでもないことである。後方地域支援が、いかに後方地域で行われるにせよ、周辺地域に何らかの事態が発生しているときに、輸送、補給などを公海上で行なっているわが方の船舶などに、阻止、妨害、奪取、略奪などが行われるはずがないと考えること自体が非現実的である。こうした後方地域支援こそ、最も、相手の妨害を受けやすい活動であり、むしろ、捜索・救助などより、はるかに武器使用の蓋然性が大きいといわねばならないであろう。
 国民に「協力を依頼する」
 新ガイドラインが旧ガイドラインと最も異なる性格をもつ点は、旧ガイドラインが米軍と自衛隊の共同活動の基準を示したものであったことに対し、新ガイドラインは日米両国の広範な協力の枠組みを規定したものであることにある。
 すなわち、新ガイドラインでは自衛隊だけではなく、各省庁、地方公共団体および一般国民の協力が必要に応じて求められている点にある。
 この点を法律上担保しようとしているのは周辺事態法案第九条である。九条第一項は、関係行政機関の長が法令および基本計画に従い地方公共団体の長に対しその有する権限の行使について必要な協力を求めることができることとなっている。また、一般の国民に対しては、九条第二項において、関係行政機関の長が「国以外の者に対し必要な協力を依頼することができる」こととなっている。
 地方公共団体の長に対しては、「協力を求める」のであるから、結局のところは強制力を有しているが、一般国民に対しては、「協力を依頼する」のであり、必ずしも強制力を有していないと解される。しかし、それでは地方公共団体や一般国民にいかなる協力が求められたり依頼されたりするのかという点については明確でなく、すべては基本計画によって決められることとなる。
 この基本計画は、同法案第四条において、後方地域支援、捜索・救助、船舶検査活動および各省庁が所管する活動が含まれることになり、きわめて広範にわたる。これらのうち、自衛隊が行う活動については同法の別表に明示されており、それは、たとえば、補給、輸送、修理、整備、医療、通信などである。これだけの内容と分野の日米協力を自衛隊が行うのに、自衛隊法の任務を改正しないのは、納得できない。やはり、これは、自衛隊法上の主任務の一つとして規定する必要があろう。
 一方、地方公共団体および一般国民に求められる協力の内容は、この範囲を超えたものになるとは思われないが、そうであれば、同法第九条のなかにたとえば、物品、資材や役務の提供、輸送などといった協力活動の基準が示されることが望ましいと思われる。地方公共団体や一般国民にとっては、そのほうが同法を理解しやすくなり、また、いかなる協力が求められるのかが分って、安心するのではないかと思われる。
◇森本敏(もりもと さとし)
1941年生まれ。
防衛大学校卒業。
外務省・安全保障政策室長、野村総合研究所主任研究員を経て、現在、拓殖大学教授。
 
 
 
 
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