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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2004年4月号 Voice
私の自衛隊改造計画 自衛隊を国防任務から解き放て
佐瀬昌盛(させまさもり)
(拓殖大学海外事情研究所所長)
 
 自己宣伝めいて気がひけるが、私の職場・拓殖大学では、国際協力学研究科(大学院)が発足、安全保障専攻でわが国初の「安全保障」の修士号が出せることになった。社会人が主対象だが、応募状況はよい。他方、私が所長を務める海外事情研究所は二年前に国際塾「安全保障と危機管理」講座を始めたが、これも聴講者は二年続きで満員札止めだ。昨今の国際情勢により、安全保障を体系的に学びたいとの欲求が顕著に強まっているのは、なんら異とするに足りない。
 だが、問題はある。長年の怠慢が原因で、政治も国民も安保問題を地道に、かつ時代適合的に考えることが不得意になっている。防衛庁、自衛隊にも突如、マスコミの強烈な照明が当てられることはあっても、その日常が理解されているとはとうてい思えない。識者にも思いつきや観念的思い込みの発言が多い。
 卑近な例では、自衛隊とは別組織の「国連待機部隊を創れ」という声がある。「国連」を謳うのは本気か。国連安保理は機能するときと、しないときとがある。いや、依然として後者の場合のほうが多い。とすれば、その「国連待機部隊」は、出番よりも文字どおり「待機」主務のムダ組織になる可能性が高い。これは、安保理の限界を見ない観念的国連中心主義の後遺症からくる思い違いだろう。
 他方、「別組織創設」論に反対する政府与党や防衛庁側にも、世間の無理解を解消しようとする積極的意欲が足りない。たとえば、「危険地」イラクヘの自衛隊派遣についても、「自己完結性をもつのは自衛隊だけだから」との説明がなされる。この説明はウソではない。だが、十分でもない。なぜかといって、国内の駐屯地ごとの自衛隊が自己完結性をもつわけではないからだ。けれども、右の説明を聞くと、国民の過半数はどの駐屯地にも自己完結性があると思い込む。ウソだと思えば、国民に一人ひとり尋ねてみなさい。
ドイツ軍に学べ
 自衛隊には全体として自己完結性がある。だが、イラク派遣部隊にそれをもたせようと思えば、各地の駐屯地から適性パーツを取り寄せて「自己完結性」を組み立てなければならない。システムとしてはそれでよい。だが、それは大変な作業なのだ。とくに自衛隊は海外任務専念組織ではなく、「国の防衛」を片時も忘れるわけにはいかない。だから、昨今のように海外任務の頻度、規模が大きくなると、自衛隊にはそれに見合った増員が必要なのである。その旨を政府、防衛庁は率直に国民に訴えるべきだ。
 参考になるのは最近のドイツでの議論だ。国防相が最近述べたように、安保環境好転のためドイツ軍は国防任務からほぼ解放され、国際協調介入派遣に専念する(ただし、そのための能力改造に成功すればの話だが)。うち、国際法上合法な武力行使にまで踏み込む「介入兵力」カテゴリーはわが国には適用できないが、いわゆるPKF、PKOに当たる「安定化兵力」カテゴリーは参考になる。これになんと七万人が計上されている。瞬間風速的には一万人程度の対外派遣でも、期間、地域、交代等を考えるとその七倍程度の「安定化兵力」が常時必要と見られているのだ。これがいわば妥当な国際的基準である。そういう事実をわが国民ももっと知るべきなのだ。
 与えられた紙幅で自衛隊改造につきいえることは知れている。国の姿としては集団的自衛権に関する欠陥的な政府解釈の是正とか、武力攻撃事態安全確保法(いわゆる有事法制)と表裏一体の国民保護法制の早期制定とかの大宿題があるが、自衛隊そのものの各論的改造は、海外任務に関連して連発される特措法による対応を別とすれば、私見ではまずまず進んでいる。海外任務の特措法的処理はやめるべきで、やはり基本法が必要である。場当たり的対応では積み残される問題、たとえば海空の長距離輸送・補給能力などの問題も、全体的視野のなかではおのずから鮮明化しよう。
 だが、最後に戻ってくるのはやはり、防衛庁、自衛隊の対国民発信能力改造の必要である。新しい海外任務の重視で増員の必要は明白なのに、右に見たように、それを語る声があまりにも遠慮がちなのはその一例。ほかにも類似例は多い。たとえば、「防衛庁の省移行を巡る議論」というのがある。これは多年の政治的宿題である。だが、防衛庁最重要の出版物たる『日本の防衛』(『防衛白書』)では、それがどう記述されているか。この課題への言及は平成十四年版、十五年版で見られるようになったが、一般読者がそれを読んで分かるのは、三年前に議員提出された防衛省設置法案が依然として継続審議扱いだということだけ。庁が省になれば何がどう変わるのかは皆目、説明されていない。『Voice』読者にだって分かるまい。この遠慮体質の改造が、制度的改革に劣らず重要である。
佐瀬 昌盛(させ まさもり)
1934年生まれ。
東京大学大学院修了。
成蹊大学助教授、防衛大学校教授、現在、拓殖大教授・海外事情研究所長、防衛大名誉教授。
 
 
 
 
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