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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/06/09 読売新聞朝刊
[動き出した有事協力](上)グレーゾーン “線引き”政治に重い責任(連載)
 
 日米同盟を実りあるものにする「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直しの中間とりまとめが七日(日本時間八日)公表された。一九七八年以来十九年ぶりの見直しで、政府は今秋の正式策定に向けて、国内調整に本格的に乗り出す。しかし、集団的自衛権か個別的自衛権かなど憲法解釈があいまいな「グレーゾーン」は多く、調整の難航が予想される。政局も絡みながらの複雑な展開になりそうだ。
 七日、ハワイで行われた日米防衛協力小委員会(SDC)の終了後、拍手がわいた。「経済協議も含めてこれまでの日米協議ではなかった光景」(米国政府筋)だが、そこには「真の同盟国として今度こそ有効なものを」という米国の熱い期待が注がれていた。
 中間とりまとめの焦点はなんといっても、「グレーゾーン」の項目の扱いだ。橋本首相はこの三週間、何度も外務省や防衛庁に「日米両国が発表する以上、きちんとした論理構成で考えないといけない」と強調した。首相の脳裏にあるのは、集団的自衛権行使など憲法解釈は変えない一方で、米国の要請も踏まえ、いかにしっかりした実のあるものを作るか、という“二律背反”ともいえる難題に回答を出すことだった。
 その一つが、後方地域支援の地理的範囲で、「公海」での日米防衛協力も可能という判断を下した点だ。外務省筋も「非常に合理的範囲だ」と自画自賛する。
 これまで政府は、「極東の平和と安全のために出動する米軍と一体をなすような行動をして補給業務をすることは憲法上違法」(五九年三月、林修三内閣法制局長官)などのように、自衛隊の活動が米軍の戦闘行動と一体とみられるものは集団的自衛権行使にあたり憲法上認められないとしてきた。
 これに対し個別的自衛権は「自衛権の行使に必要な限度内での公海・公空に及ぶことができる」(六九年十二月の政府答弁書)としており、今回の中間とりまとめは、日本周辺事態を日本の危機、つまり個別的自衛権の範囲としてとらえていくことを鮮明にしたといえる。
 しかし問題は、危機の態様を地理的に分類してもなお、有事の際どう有効に機能するかなど議論の余地が残ることだ。とくに米軍への後方地域支援で、米側の要請が強いのは、機雷掃海や米軍艦船への補給、米軍家族など避難民輸送などだ。そのうち機雷掃海は、九一年湾岸戦争の際、戦争終結時の「平時」に限定して派遣し、国際的に高い評価を得た。中間とりまとめは、この実績を一歩進めて平時のみならず、公海上なら有事の際も派遣可能との判断を下した。だが、本当に憲法解釈問題がクリアされたのかどうか。
 実際、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核兵器開発疑惑に対する経済制裁問題が起きたとき、対応策を検討した石原信雄官房副長官(当時)は「海上封鎖など一種の戦闘状態の際に掃海活動は果たしてできるかどうか。それは集団的自衛権の行使を禁じた憲法に抵触するのではという問題があり、内閣法制局は慎重論で、そのあたりがいまだに整理されていない」と指摘する。有事派遣となれば「放棄している交戦権との抵触も出る」(社民党筋)との指摘すらある。
 これは、米軍艦船などへの補給、国際社会による経済制裁の実効を高めるための臨検(中間とりまとめでは「船舶の検査」)などにもいえることだ。補給でいえば、日米物品役務相互提供協定(ACSA)締結で十五分野の相互提供が可能になったが、あくまで「平時」であり、有事の際はできない。このため米国と北大西洋条約機構(NATO)との間の「有事相互支援」(CMS)のように有事版ACSAを、という声が政府・自民党にあり、中間報告も、「相互支援計画」策定という形で示唆したが、具体策は今後の調整次第だ。
 そもそも「日本周辺事態」という範囲自体、あいまいさを残す。とりわけ機雷掃海では「首相はペルシャ湾への派遣にこだわっていた」(防衛庁筋)といい、日米安保条約の範囲である「極東の範囲」を越え、湾岸も視野に入れている可能性もある。たしかに首相は、イラン・イラク戦争時、運輸相として、海上保安庁の巡視船派遣を主張、人的貢献に積極的だった経緯があるが、これは日米安保体制の実効性の範囲はどこまでかという論議に及ぶ可能性もある。
 一方、「グレーゾーン」は集団的自衛権行使の問題にとどまらず、邦人救出、避難民輸送などにもいえる。当初、米軍家族など避難民輸送の際、朝鮮半島内で搬送することも盛りこまれていたが、最終案では消えた。政府は「日米両国の調整がつかなかったため」(外務省筋)とするが、やはりネックになるのは、相手から武力攻撃を受けたときにどこまで応戦できるかという問題だ。政府は一応、海外で禁じるとする武力行使と武器使用とを区別して、護身のための武器使用は可能とし、国連平和維持活動(PKO)の際もその論理を援用している。もちろん、部隊単位では武力行使になるという憲法上の建前はあるものの、国際軍事常識では個人単位ではかえって危険で部隊単位の行動が必要なのに、PKOを含めてそうなっておらず、武器は拳銃(けんじゅう)など小火器だけで実効性の面からも疑問は多いのに、不問に付されたままだ。
 このため、海外での武力行使がどこまで許されるか、その範囲についての明示が求められるが、おかしいのは「政治決定は内閣、政治が決めるはずなのに、内閣法制局が最高権威になってしまっていること」(自民党首脳)だ。どこまで日本が責任をもって事にあたるのか、グレーゾーンにきちんとした回答を明示していくことが、政治の責任といえよう。
(解説部兼政治部 水野雅之)
 
 
 
 
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