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1993/04/07 読売新聞朝刊
[自衛隊PKO平和への試練]世界と日本第六部(2)ジレンマ(連載)
◆「発砲」苦肉の日本ルール PKFとの境界も悩み
 「UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)の命令に従えば国内法に抵触する。国内法を守ればUNTACの命令に反する。一体どうしたらいいのか」。今年一月、UNTAC軍事部門司令官から出された射撃開始の要領に関する指示は、施設大隊をジレンマに陥れた。
 PKO協力法などで定められた銃の取り扱いの規定と矛盾があったからだ。問題は大きくわけて二つ。UNTACの規定では、UNTACの施設を守るための銃の使用が認められ、また、射撃の開始は指揮官が命令することになっていた。
 しかし、PKO協力法では、審議過程で銃の取り扱いが大きな論議を呼び、使用が許されるケースは「隊員本人または同僚の生命、身体保護のため」との枠がはめられた。その場合でも、発砲するかどうかは個人の判断。憲法で禁じられた「武力行使」に該当する恐れがあるため、指揮官による発砲命令は出せない。
 UNTAC司令官の指示を受けて、大隊では結局、発砲についての注意書きを隊員に配布することを決めた。そのポイントは「指揮官の行動を見習え」。指揮官が発砲を命令できない代わりに、自ら一発目を撃つ、という苦肉の策だった。
 幸い「指揮官の行動」を見習う場面は起きていない。しかし、UNTACとは異なる独自の基準で身を守らなければならない現実に、不安を抱く隊員は多い。
 PKO派遣をめぐる国会論戦で、銃の問題と並んで論議が集中したのは、PKF(国連平和維持隊)への参加凍結問題だった。ここでも、“日本流”が、大隊を悩ませている。
 昨年十一月、国道三号線沿いに駐屯するチュニジア歩兵部隊から、駐屯地整備の協力要請があった。大隊は気軽に応じて作業に入ったが、日本からは「歩兵部隊の駐屯地整備はPKFにかかわる恐れがある」との疑問が出た。「建設業務の一環」として正式のゴーサインが出たのは作業がすべて終わってからだった。
 先月二十日、UNTACは総選挙実施へ向け、各国工兵部隊に、新たな命令を出した。その一つが「投票所の警備」。しかし、国際平和協力本部で検討した結果、銃の携行が前提となる「警備」は、PKF業務に該当しかねないとの懸念から、要請を断り、日本だけは外された。
 さる二月には、UNTAC軍事部門司令部に、連絡・調整、情報収集役として大隊から派遣されている幹部自衛官三人の任務が、一部で問題化した。軍事部門全般にわたる企画、立案にかかわっていればPKF凍結に抵触するのではというわけだ。
 どこまでがPKOでどこからがPKFなのか。UNTAC幹部職員は「国際社会では、PKOとPKFに区別がない。施設大隊は間違いなくUNTAC軍事部門の一員で、OかFかの区別は無意味だ。それなら、施設大隊が作った道路を歩兵部隊が通るのだっておかしいではないか」と言う。
 司令部の幹部自衛官が問題になったちょうどそのころ、プノンペン政府軍がポル・ポト派に大規模な攻勢を仕掛けた。わが国では自衛隊の撤収問題も絡んで国会で論議となったが、「自衛隊は全土に展開しているわけではない。これらの情報を収集するためにも、連絡幹部は必要」(防衛庁筋)との指摘は説得力がある。政府はモザンビークのPKOでも、司令部に連絡幹部を派遣する方向だ。
 カンボジア民主化の行方を占う選挙戦がきょう七日スタートする。「選挙粉砕」を宣言しているポル・ポト派の出方次第では、再び撤収論議が巻き起こることも予想される。
 国際常識と国内事情のはざ間で揺れ動く「日本型PKO」。派遣半年を機に、地に着いたPKOのあり方をもう一度論議すべき時にきている。
(政治部・大石 暁)
 
 
 
 
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