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1991/07/04 読売新聞夕刊
自衛隊の国際貢献に期待広がる 災害派遣3分の2支持/読売新聞社全国世論調査
◆関心は高まる
〈防衛意識〉
 日本の防衛問題への関心を聞いたところ、「大いに」と「多少は」を合わせて、関心があると答えた人が全体の69%で、八八年六月の前回調査より6ポイント増加した。逆に、関心がないと答えた人は、「あまり」と「全く」を合わせ29%。湾岸戦争後、日本の国際貢献のあり方や自衛隊の海外派遣をめぐる議論の高まる中で、国民の防衛問題への関心も高まってきていることをうかがわせる。
 男女別に見ると、男性では「関心がある」としたグループが80%、「ない」が20%なのに対し、女性では「ある」が60%、「ない」が38%と、女性の中に無関心な人が目立つ。職業別では、管理・専門職で「ある」が86%と高いが、主婦では60%などと、ばらつきが見られる。
◆脅威を感じる国 アメリカ1位に
〈脅威の国〉
 「日本の安全にとって、とくに脅威を感じている国」を、アメリカ、韓国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、中国、ソ連の五か国から複数回答で挙げてもらったところ、アメリカという回答が24%で一位に。前回調査の11%から倍以上に増え、トップだったソ連を抜いた。一方のソ連は、36%から22%に急低下し、二位。
 東西冷戦が終結に向かい、ソ連の軍事力を脅威と感じる人が減った一方で、日米関係が、貿易摩擦や湾岸戦争への日本の貢献をめぐってぎくしゃくしていることなどが、背景として考えられる。湾岸戦争で、アメリカの強大な軍事力を再認識した人も多かったのかもしれない。
 アメリカへの脅威感は、年齢層が低くなるほど強まる傾向にあり、二十歳代が33%、三十歳代27%、四十歳代24%、五十歳代19%などとなっている。
 三位は北朝鮮の13%(前回調査では20%)。四位の中国が8%(同4%)と倍増しているのは、天安門事件の影響か。五位は韓国の6%(同5%)。
◆年齢高いほど 好感度アップ
〈自衛隊の印象〉
 自衛隊に対する印象を聞いたところ、「良い」と答えた人が40%だったのに対し、「悪い」と答えた人が20%(ともに「どちらかといえば」という回答を含む)。前回調査より、「良い」が3ポイントの微増で、「悪い」はほとんど変化がない。
 「とくに良い悪いの印象はない」は38%で、前回より4ポイント減った。
 この印象は、性別、年齢、職業により大きく違いがある。男女別では、男性で「良い」が45%なのに対し、女性では35%にとどまっている。
 また、年齢が高くなるにつれ、好感を持つ割合が増え、二十歳代では「悪い」(33%)が「良い」(28%)を上回っているものの、三十歳代以上では逆転。四十歳代以上では、「良い」が「悪い」の二倍を超えている。
 職業別に見ると、農林・水産業、商・工・サービス業で好感を持つ人が多く、「良い」が「悪い」の四倍以上になっている。
◆規模は「現状維持」60%
〈規模と装備〉
 自衛隊の規模や装備について、今後のあり方を聞いたところ、「現状程度がよい」が60%と最も多く、次いで「現状より縮小すべきだ」の25%で、「現状より増強する必要がある」は6%、「なくすべきだ」は4%にとどまった。
 この質問は、過去十年間に八一、八四、八八年と聞いてきたが、「現状維持」論がおおむね六割前後と、常に他の考えを引き離してトップで、現在の自衛隊の規模や装備については、ある程度国民の合意が得られているといえそうだ。
 その中で注目されるのは「増強」「縮小」論の動き。
 「増強」論は、ソ連のアフガニスタン侵攻(七九年十二月)など東西の緊張が高まっていた八一年では17%にもなったが、その後のゴルバチョフ書記長の登場(八五年三月)、デタント(緊張緩和)の進行の中で減少が続き、ベルリンの壁の崩壊(八九年十一月)で冷戦が終結した後の今回は最低の6%にとどまった。
 一方、「縮小」論は、八一年では13%だったが、デタントの進行に合わせるように上昇傾向が続き、途中、大韓航空機爆破事件(八七年十一月)の影響などもあってか、一時的に落ち込んだものの、今回は最高の25%に上った。
 「縮小」「廃止」理由で、「世界のデタントの流れに逆行する」が38%と最も多くなっていることからも、デタントに対する国民の期待は明らかで、今後もデタントが続けば、自衛隊の規模や装備の縮小を求める声が、さらに高まるかもしれない。
 支持政党別では、自民支持者で「現状維持」70%、「縮小」16%、「増強」8%、「廃止」2%、社会支持者で「現状維持」48%、「縮小」38%、「廃止」6%、「増強」3%。いずれも、「縮小」論が増え、「増強」論が減っている。
 
〈増強・縮小の理由〉
 次に、「増強」「現状維持」と答えた人、「縮小」「廃止」と答えた人に、それぞれそう思う理由を二つまであげてもらった。
 その結果、「増強」「現状維持」では、〈1〉「独立国家として当然のこと」58%〈2〉「日本の安全への脅威がなくなっていない」36%〈3〉「アジアの安定のため必要」27%〈4〉「国連の機能がまだ不十分」16%−−の順。
 また、「縮小」「廃止」では、〈1〉「世界のデタントの流れに逆行する」38%〈2〉「日本の安全への脅威がない」35%〈3〉「自衛隊は憲法違反だと思う」29%〈4〉「国連の機能に期待している」21%−−の順だったが、その他で「金がかかりすぎる」も7%あった。
 「縮小」「廃止」理由で、「自衛隊は憲法違反」の割合が相対的に低いのが特徴で、むしろ、「日本の安全への脅威」「国連の機能」などの国際情勢について、悲観的にみるか楽観的にみるかの判断の違いが、自衛隊の規模や装備のあり方の論議を大きく左右していることがうかがえる。
 
〈海外への災害派遣〉
 海外の災害復旧にあたる国際緊急援助隊には現在、自衛隊は含まれていない。政府は、国際的な評価を得るためにも、自衛隊の海外災害派遣を可能にしようと法改正を検討している。
 そこで、戦争災害の復興や自然災害などの復旧のために、平和時に、自衛隊を海外に派遣することの是非について聞いたところ、「望ましい」は、「非常に」と「どちらかといえば」を合わせ66%と七割近くに達している。
 「望ましくない」は、「どちらかといえば」と「全く」を合わせ29%にとどまり、自衛隊の海外災害派遣に寄せる国民の期待は大きいようだ。
 支持政党別にみると、「望ましい」派は、自民党支持者では72%にのぼり、自衛隊が関係する問題には敏感な社会党や共産党の支持者でも52―44%と半数前後が賛成している。
 男女別では、男性70%に対し、女性62%で女性の方が抵抗感がやや強い。年代別では、年代が下になるほど、「望ましい」が増える傾向をみせ、二十歳代では72%、三十歳代では69%と全体平均をかなり上回っている。
◆7割近くが支持 賛成、20・30歳代が高率
〈PKOへの参加〉
 わが国の国際貢献策の一つとして、自衛隊を国連の平和維持活動(PKO)に参加させるべきかどうかの議論が活発に行われている。
 この問題は次の臨時国会の大きな争点となるが、国連の平和維持活動と自衛隊の関係について尋ねた質問では、派遣に賛成する意見が反対する意見を上回っている。
 「国連の平和維持活動のためなら、自衛隊を海外に派遣することは望ましい」は46%と半数近くを占め、「国連の平和維持活動には、別の組織を作って協力すべきで、自衛隊は海外へ派遣すべきではない」(34%)と「国連の平和維持活動であっても、自衛隊も別の組織も一切海外へ派遣すべきではない」(10%)の合計をしのいでいる。
 三年前の八八年六月調査では、「派遣できるようにする方が望ましい」が23%であり、質問文や回答肢が違うのでいちがいにはいえないが、湾岸危機・戦争をきっかけとする国際貢献策をめぐる論議を通じて国民の意識に明らかな変化が出てきているようだ。
 「派遣することは望ましい」は男性(50%)が女性(42%)を上回り、年代別では、二十歳代48%、三十歳代49%で、海外災害派遣と同様に若年層で多いのが目立つ。
 社会、公明、共産党支持者では「別の組織を作って協力」が「派遣することは望ましい」を上回っている。
◆65%が「守られている」
〈文民統制〉
 自衛隊が国や政府の監督・指揮下で運営される文民統制(シビリアン・コントロール)の原則が守られているかどうかでは、「きちんと」と「大体」を合わせ、「守られている」が65%と大方を占めている。「守られていない」は、「あまり」と「全く」を合わせ19%と少数派。
 八一年二月調査と比較すると、「守られている」は18ポイント増加し、「守られていない」は8ポイント減少している。
 これは、ひところ相次いだ自衛隊幹部による防衛費対GNP一%論への批判や有事立法発言などがすっかり影をひそめたこともあろう。
 「守られている」は年代別では、二十―四十歳代で全体平均を上回る。支持政党別にみると、自民、民社党支持者では約七割にのぼる。
《質問と回答》(数字は%)
◆あなたは、日本の防衛問題に関心がありますか、ありませんか。
・大いに関心がある 22.9
・あまり関心がない 24.1
・多少は関心がある 46.5
・全く関心がない 5.3
・答えない 1.3
 
◆あなたは、最近、日本の安全にとって、とくに脅威を感じている国がありますか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・アメリカ 24.0
・韓国 5.9
・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮) 12.6
・中国 8.0
・ソ連 21.8
・その他 0.7
・脅威は感じているが、とくにどの国ということはない 20.7
・脅威を感じていない 27.4
・答えない 4.5
 
◆あなたは、現在、自衛隊に対して、良い印象を持っていますか、それとも、悪い印象を持っていますか。
・良い印象を持っている 12.7
・どちらかといえば良い印象を持っている 27.2
・どちらかといえば悪い印象を持っている 15.5
・悪い印象を持っている 4.0
・とくに良い悪いの印象はない 37.6
・答えない 3.0
 
◆自衛隊の規模や装備について、次にあげる意見のうち、あなたのお考えに最も近いものを、一つだけあげて下さい。
・現状より増強する必要がある 6.0
・現状程度がよい 59.7
・現状より縮小すべきだ 25.2
・なくすべきだ 3.6
・答えない 5.4
 
◇【前問で「増強」「現状程度」と答えた人だけに】
 そう思う理由を、次の中から、二つまであげて下さい。
・アジアの安定のために必要だから 27.4
・日本の安全への脅威がなくなっていないから 35.6
・独立国家として当然のことだから 57.5
・国連の機能がまだ不十分だから 15.5
・その他 3.8
・答えない 8.1
 
◇【前問で「縮小」「廃止」と答えた人だけに】
 そう思う理由を、次の中から、二つまであげて下さい。
・日本の安全への脅威がないから 35.4
・世界のデタント(緊張緩和)の流れに逆行するから 38.3
・自衛隊は憲法違反だと思うから 29.0
・国連の機能に期待しているから 21.1
・その他 11.7
・答えない 8.9
 
◆あなたは、戦争災害の復興や自然災害などの復旧のために、平和時に、自衛隊を海外に派遣することは、望ましいと思いますか、望ましくないと思いますか。
・非常に望ましい 23.4
・どちらかといえば望ましい 42.6
・どちらかといえば望ましくない 21.9
・全く望ましくない 7.0
・答えない 5.2
 
◆国連の平和維持活動(PKO)と自衛隊の関係について、次にあげる意見のうち、あなたのお考えに最も近いものを、一つだけあげて下さい。
・国連の平和維持活動のためなら、自衛隊を海外に派遣することは望ましい 45.7
・国連の平和維持活動には、別の組織を作って協力すべきで、自衛隊は海外へ派遣すべきではない 33.5
・国連の平和維持活動であっても、自衛隊も別の組織も一切海外へ派遣すべきではない 10.2
・答えない 10.6
 
◆「自衛隊は、国や政府の監督・指揮下で運営される(文民統制=シビリアン・コントロール)」という原則があります。あなたは、この原則が守られていると思いますか、守られていないと思いますか。
・きちんと守られている 16.0
・大体守られている 49.1
・あまり守られていない 16.7
・全く守られていない 2.2
・答えない 16.0
【調査方法】
・調査日=6月22-23日
・対象者=全国の有権者3000人(250地点、層化多段無作為抽出法)
・実施方法=個別訪問面接聴取法
・有効回収数=2187人(回収率73%)
・回答者内訳=男48%、女52%
▽20歳代17%、30代18%、40代23%、50代19%、60代15%、70歳以上8%
▽大都市(東京区部と政令市)19%、中都市(人口10万人以上の市)36%、小都市(同10万人未満の市)20%、町村25%
 
 
 
 
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