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2003/10/31 毎日新聞朝刊
[社説]政治が動く イラク問題 自衛隊派遣を堂々と論じよ
 
 イラクでは赤十字国際委員会事務所もテロ攻撃を受け、多数の死傷者が出た。国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン氏が日本を含む6カ国への攻撃を示唆したという。テロに屈するわけにはいかないが、危険な地域に自衛隊を派遣することに国民の懸念は大きい。
 だとしたらマニフェスト(政権公約)選挙で踏み込んだ公約は得策ではない。自民党はそう考えたのだろうか。イラク問題に関する記述は素っ気ない。
 「日米同盟を基軸に国際協調を重視しつつ、イラク・アフガニスタン復興支援、人類共通の敵であるテロ撲滅等、国際社会と協力した平和外交を推進する」
 公明、保守新両党も触れなかったり、触れても自民党と大差ないが、現実には、政府は年内の自衛隊のイラク派遣方針を固めている。にもかかわらず、総選挙への影響を懸念して派遣準備指示を出していない。イラクへの自衛隊派遣が「騒ぎ」になることを警戒しているようだ。
 野党はそろってイラク派遣に反対だ。その中で民主党は、イラク政府が樹立され、その要請と国連安保理の決議があれば、憲法の枠内で「自衛隊の活用も含めた支援に取り組む」と含みを持たせる。
 民主党は自由党との合併で自衛隊・安保に関する党内の意見が多様化した。自衛隊のイラク派遣の詰めた議論をすれば、党内に亀裂が走る恐れは十分ある。民主党としても、触れたくない問題だ。
 自民党などを正面きって批判するのをためらわざるをえない。その意味では同じ野党でも自衛隊の海外派遣に反対する共産党や社民党とは違う。「政権選択の選挙」だというのに、自民、民主両党が安全保障問題を避けて通ろうとするなら、何とも情けない話だ。
 イラク問題は、たんに自衛隊派遣の是非にとどまらず、日本の外交政策の本質にかかわる問題を含んでいる。小泉政権は米英のイラク戦争を全面的に支持した。独仏露は開戦に反対し、復興のための資金の拠出にも二の足を踏んでいる。日本は小泉政権になって従来とは比較できないほど「対米協調」に傾斜しているのは明らかだ。
 米国の意向を受けて50億ドルのイラク復興資金の拠出を決め、自衛隊を派遣しようとしている。米国への協調ぶりは国際的に見ても突出している。
 民主党は「協力すべきは行う、言うべきはいう」を対米政策の基本姿勢にしながら、国連安保理の常任理事国入りをめざすという。対米協調より国連重視の考えだ。こうしてみると自民、民主両党の外交姿勢の相違は明らかだ。
 外交のかじ取りをどうするのか。自衛隊のイラク派遣に代表される外交・安保問題は、日本の針路を左右する重要課題のはずだ。
 「政権選択」を迫るなら、国民に十分な説明が不可欠だ。まだ時間はある。自衛隊のイラク派遣を含め「外交・安保」を選挙戦で堂々と論じなければならない。
 
 
 
 
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