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2003/03/27 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2003]イラク戦争 戦後復興、出番待つ日本
 
 日本政府は、戦後復興に向けた国連安保理決議採択を最優先とする方針だ。戦闘が激しさを増す中、復興にだけ焦点をあてた「前のめり」姿勢は、戦争回避になぜ全力を挙げなかったのかとの批判も招きかねず、ジレンマがつきまとう。当面は主要国中心に根回しをしながら「出番」を待つしかないようだ。
 復興決議が必要、との日本の姿勢に米政府は全面的に同調する構えをみせている。開戦翌日の21日、小泉純一郎首相に電話したブッシュ米大統領は、イラクの復旧・復興は国連の役割が重要と表明。ベーカー駐日米大使も24日、与党3幹事長との会談で、国連決議が必要との日本の考えを強く後押しした。
 「国連抜き」の武力行使で深まった国際社会の亀裂修復には、復興で足並みをそろえることが不可欠、というのが日米の共通認識だ。
 ただ、復興問題で米国が前面に出ると、仏露独などが再び抵抗するのは必至だ。このため、日本が主導権を握った方が、仏露などが決議に賛成しやすい環境整備になるとの見方を日米とも強めている。
 日本が復興支援に熱心なのは、国際社会が一致してイラク復興支援に取り組む形をとれば、国民の理解も得やすいとの思いがあるからだ。
 米英の態度決定待ちとの開戦前の批判を払拭(ふっしょく)するにも、復興決議への外交努力は格好の材料となる。日本政府がイラク戦争の大勢に影響しない部分で対米追随ではないことも印象づけながら、開戦前とは違う外交姿勢をアピールしたい思惑があるためだ。
 米が日本の復興支援に期待をかけるのは、第一には医療や救援物資の輸送などでの人的貢献だ。与党3党は、安保理の復興決議を前提に治安維持にあたる多国籍部隊への輸送・医療協力のため、復興支援新法を作って自衛隊を派遣する方針を確認している。
 また、日本を国連主導の復興の枠組みに本格的に関与させることで、巨額の資金が必要となる復興プロセスで日本の経済力に頼ろうとの計算も米にはあるとみられる。自民党の山崎拓幹事長は26日、復興支援費の日本負担分について「国連全体で復興の枠組みができた場合の話」と前置きしながら、国連拠出金の負担割合に合わせて2割が基本となる、との考えを示した。
 ただ、戦争の長期化も懸念される中、復興問題がいつ、どのような形で国連で議論になっていくかは不透明だ。決議採択までのハードルは高い。
【徳増信哉、高安厚至】
◇イラク復興支援海外からの注文
 ◇パウエル米国務長官
 日本は(イラクの戦後復興など)将来のことについても協力してほしい。
(2月22日、小泉純一郎首相らとの会談で)
 ◇ブッシュ米大統領
 イラクの復旧・復興に貴国(日本)と協力していきたい。国連の役割も必要である。
(3月21日、小泉首相との電話協議で)
 ◇ベーカー駐日米大使
 日本の中東和平に対する努力を期待している。自分たちはイスラム国家と対立する考えはまったくない。そういうことに陥らないよう支援、協力を期待している。(イラク復興は)国連決議が望ましいと日本は表明しているが、ブッシュ大統領もそういう意向だ。仏や独も(決議に)同調してくれるのではないか。日本はアフガニスタンでも東ティモールでも戦後復興に貢献している。今回もその面で日本が一定の役割を果たすことを期待している。
(24日、与党3幹事長との会談で)
 ◇ドモンフェラン駐日仏大使
 米英主導で戦後復興の枠組みを決めるのは認められない。あくまで国連の枠組みで決めるべきだ。日本に協力してほしい。
(25日、安倍晋三官房副長官との会談で)
◇識者 支援前に議論必要
 国連問題に詳しい河辺一郎・愛知大学助教授は「戦争目的は政権転覆。復興支援は、米主導の新政府樹立を直接支援する政治的な意味を持つ」と指摘。「日本国民の意思なのか、イラクの人々のためになるのか、議論のないまま人道支援の名のもと、既成事実化することは問題だ」と話す。
 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(大阪)の棚田雄一・大阪海外事業課長は「経済制裁で、戦争前から市民は困窮していた。特に子どもは死亡率が2倍以上になった。日本は、米国との役割分担で復興を請け負うのではなく、フセイン政権も含めた国際社会が作ったといえる市民の苦しい状況に目を向ける必要がある」という。イラクで活動中のピースウィンズ・ジャパン(東京)の岸谷美穂さんは26日、国際電話で「既に物価が跳ね上がっている。戦争が長引けば、食糧や燃料などが全般的に不足するだろう。日本が復興に貢献したいというなら、今からイラク国内への支援に取り組むべきだ」と話した。
【粟飯原浩、渡辺暖】
 
 
 
 
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