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2001/10/06 毎日新聞朝刊
[社説]テロ対策支援法 戦争をしに行くのではない
 
 政府は5日、テロ対策支援法案を国会に提出した。同時多発テロに対する米軍などの軍事活動に深くかかわって自衛隊を派遣する際の根拠法である。
 国際的テロ集団という新しい脅威に、新しい対処が求められる。これは異論がない。だが、法案には日米安保体制を軸にした戦後日本の安保政策を大きく転換する部分がある。日本が立脚すべき原則を改めて確認しておきたい。
 法案第2条は、基本原則として「国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取り組みに我が国として積極的かつ主体的に寄与し」と記し、「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」としている。
 自衛隊の派遣が現実になったとしても、「戦争を行うのではない」(5日、小泉純一郎首相の衆院予算委答弁)との立場を守らなければならない。
 日本は憲法に基づき、海外での武力行使はもとより、集団的自衛権の行使も自ら禁じてきた。基本原則の順守は何より重要だ。
 この立場を守りつつ、アフガニスタンから流出が予想される難民の支援や医療活動を行うことは国際社会の一員として果たすべき役割といえる。法案がうたう「人道的措置」にほかならない。
 法案が成立したとしても、現実にどのような事態が発生するかは現在の時点では分からない。医療活動では傷病兵の手当てに加わる場面もありうる。湾岸戦争の際には戦闘員として再び戦場に送り出すのだから、武力行使と一体化し、集団的自衛権の行使に触れるとされた。テロ根絶の行動という今回の場合、この解釈は再検討する余地があろう。
 活動地域について、法案は「現に戦闘行為が行われておらず、そこで実施される活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」と定めている。「当該外国の同意」を基にした「外国の領域」での活動も含まれている。具体的にはパキスタンが想定されよう。
 この場合も具体的な状況を設定して議論することはできないが、あらかじめ活動地域を狭く限定してしまっては、十分な支援が行えないことはたしかだろう。
 武器使用条件の問題も、活動の内容や地域の状況に大きく左右される。難民キャンプ地や医療活動の現場での不測の事態も起こりうる。難民や国際機関、NGO(非政府組織)の人々が、そうした事態に巻き込まれるケースも生じうる。これらの人々を防護し、危険が予想される地域に派遣される自衛隊員が我が身を守って、十分な活動ができるように考えるべきだろう。
 法案を違憲だとする見解や憲法解釈をごまかしているとの批判もある。どんな事態が起きても、私たちは戦争をしてはならない。この原則を常に確認し、保障する意味で、改めて法の運用に国会の関与を求めたい。基本計画を「国会の同意」とし、審議を通じて変化する状況に応じることが重要だ。
 
 
 
 
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