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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1990/08/31 毎日新聞朝刊
[試される国際国家・中東危機と日本]/1 苦渋の選択
◇不明確な基本理念、貢献策に米国の影
 海部首相は中東危機打開のための当面の貢献策を決めた。とくに総額十億ドル(約千四百五十億円)の多国籍軍への資金援助は、周辺国への経済援助、難民救済のための医療チームの派遣などと異なり、軍事行動への直接関与を意味する。日本の平和憲法の制約から「軍事面の協力はできない」とし、紛争地域へのかかわりを避けてきた「平和国家」としての外交、安全保障政策の重要な転換となるものだ。「憲法の枠内で、『国際国家』としての責任を果たすギリギリの選択」(外務省首脳)とされるが、今回の貢献策決定の過程では、その基本理念が明確にされることはなかった。いつまでも“綱渡り”のような対症療法が許されるはずもなく、日本は貢献策づくりを契機に、その国家としてのあり方が厳しく問い直されている。
 首相は貢献策の発表から一夜明けた三十日午前七時、急きょ中山外相、橋本蔵相、坂本官房長官を首相公邸に呼んで、十億ドルの資金援助を決定した。大蔵省の資金援助担当の森国際金融局総務課長は、金額、期間、使途について全く事前に知らされていなかった。それだけ首相の決断は唐突だった。この背後にはブッシュ大統領の“強い意志”が見え隠れしていた。
 貢献策発表に先立つ首相との電話会談で「関心を持って聞かせていただいた」と述べるにとどめていたブッシュ大統領が、十億ドル決定後の電話では、一転して「迅速な行動に感謝する。(決定は)米国で大変よく受け止められるだろう」と高く評価したことでも、その間の事情は十分にうかがい知ることができる。
 外務省幹部によれば、米政府はあらゆるパイプを通じて首相に次のような重要なシグナルを送り続けている。
 「日本が世界で孤立するかどうか、まさに国家として、また米国のグローバル・パートナーたり得るかの分岐点に立っている。(貢献策づくりには)このことを十分に認識し、世界に分かる、目に見える形になることが重要だ」
 首相側近の大島官房副長官は、今回の貢献策について「冷戦構造崩壊後の新しい国際秩序と、大人になった日本の国際的責任という二つの座標軸の中でのギリギリの選択だった」と説明、政府は米国の“圧力”を否定し、首相自身も「あくまでも自主的な決断である」ことを繰り返し強調しているが・・・。
 首相の「苦渋の決断」を近くで見てきた政府筋の一人も、次のように説明する。
 「まず邦人保護のため、イラクを刺激することはできれば避けたいという気持ちがある。そこは米、英のように強硬方針で国民世論の支持が得られるという保証は日本にはない。第二は、今回のような非常時を全く想定していなかったから、何をやるにも法的根拠がない。これがもたつきの最大の理由だ。そして第三が、グローバル・パートナーシップの証(あかし)を求める米国の要求に、現行憲法の枠内でどこまで応じられるかというきわどい“せめぎ合い”が展開されている」
 こうした中で首相は「憲法の枠内」と「国連中心主義」を大義名分に「国際国家」としての責任を果たすハラを固めたといわれる。
 首相は世論の高い内閣支持率を背景に、気楽な中東五カ国歴訪を予定していた。それがイラクのクウェート侵攻で、情勢はまさに一変した。歴訪を延期し「綱渡りのような、苦渋に満ちた決断の連続」(首相周辺)となった。得意のパフォーマンスで外交面での支持率を高めていた首相だが、この間、ほとんど表舞台に出ようとはしなかった。貢献策づくりでも、政府部内の不協和音やもたつきぶりが目立った。関係省庁幹部の間からは半ば公然と「外務省の秘密主義に加えて、首相のリーダーシップが示されなかったことが混乱の原因」という批判の声まで聞かれた。
 このことについて首相だけを責めるのは行き過ぎの側面もある。もたつきぶりの原因として「戦後の日本は、米国の陰に隠れて、国際的な安全保障について何も考えず、何もしてこなかった。今、そのツケが一挙に回ってきた」(自民党首脳)との指摘もある。
 「冷戦構造が崩れたことは、逆にそれまで封じ込められていたパンドラの箱を開けることでもある。その典型例が今回のイラクの“暴挙”だ。同時に『経済大国』になった日本も従来はタブーとしてきたことや『平和国家』としてのさまざまな矛盾も一気に噴き上げてくる」
 いずれにせよ、今回の貢献策が「当面の措置にすぎない」ことでは、政府・自民党首脳の認識はほぼ一致している。すでに自衛官の海外派遣に道を開くための自衛隊法改正が具体的な日程にのぼり、自民党内では改憲論までが急浮上している。一時しのぎはできても、本格的な決断を迫られるのは、むしろこれからだ。対応を一歩誤れば政権の命運にもかかわることが予想される。こうした首相の置かれた立場は、そのまま国際社会における現在の日本の姿でもある。「平和」を維持するためには何かしなければならない。しかしその「何か」がまだ明確ではない。これでは真の国際的な納得は得られない。「平和国家日本」「国際国家日本」の基本理念が今問われている。
(政治部・大須賀瑞夫)
 
 
 
 
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