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2001/05/30 産経新聞夕刊
【和田秀樹のべんきょう私論】小学校に英語は必要か? まず国語・算数
 
 現代は、国際化の時代といわれて久しい。それなのに、日本人は英語、特に会話が苦手なので、これからの時代に立ち向かっていけないと考えられている。
 そのために、小学生の間から英語を習ったり、耳鳴らしをしたりしないといけないと親や教育関係者たちは大慌てのようだ。実際、今回の新学習指導要領改訂で、小学3年生から、「国際理解」の名目で、週1、2回、英語を教えることが推奨されるようになっている。
 私の個人的経験から言わせてもらうと、これはナンセンスなものと言える。私自身、親が少しでも英語に馴れさせようと小学生のとき、週1回だが、英会話塾に通わされたが、中学校入学時には、まったく覚えていなかった。英語への耳慣れという点では、30を過ぎて留学したこともあるが、小学校での英会話の経験はまったく役に立たず、3年も留学したというのに、いまだにヒヤリングと発音は最悪のレベルのままである。
 ついでに言うと、私のアメリカ留学のおかげで、娘は2歳から5歳までアメリカに滞在した「帰国子女」であるが、これまた大した耳慣れがなかったようで、ときどきセサミストリートなどの英語番組を見せるのだが、さっぱり聞き取れないようだし、興味も示さない。
 日本人の英語音痴は、我々の想像以上のものがある。アメリカ、カナダの大学留学用に、外国人向けの英語力テストとして用いられるTOEFLの平均点は、1998年には北朝鮮と並んで、アジアの最下位になったのだ。
 ただ、ここで知ってほしいのは、日本人がいちばんできないのは、聞き取りではなく、読解だったということだ。日本、韓国、中国を比較してみると、聞き取りは日本50に対して、韓国50、中国53であったのに、読解では、日本50に対して、韓国54、中国57と大きな差をつけられて負けている。本当は、日本人が鍛えないといけないのは、英語の読解なのである。
 私の個人的経験から言っても、いまだにFEN(米軍向けの極東放送)もろくに聞き取れず、買い物での発音の悪さに閉口されるレベルだが、受験英語が昔取った杵柄になったためか、読み書きには相当の自信をもっている。留学中も膨大な宿題を出されても、それほど困らなかったし、今でも英文の論文を書くのは、それほど億劫でない。
 かつての日本の高度成長を支えたビジネスマンたちは、ろくに会話教育を受けなかったのに、教養レベルが高く、英文法をしっかり身につけていたために、世界をまたにかけてビジネスの世界を勝ち抜いてきた。一方、英語が喋れても、教養レベルが低ければ厳しい競争は勝ち抜けない。
 これらのことから言えるのは、小学生の間は、正しい日本語が読み書きできるようにすることや、外国人から頭がよく見えるように算数の力を鍛えるようにするのが、先決だということだ。
 週に2時間くらい遊び感覚でやっても、英語など身につきはしない。小学校の間の国語などの勉強で、理解力がしっかりしてから、集中的に英語を勉強させたほうが確実に英語力はつく。どうしても耳鳴らしをさせたいというならば、短期間でも留学させるくらいの覚悟が必要だ。
 何でもできる優等生で時間を持て余しているというなら話は別だが、小学生には英語以外にやるべきことはいっぱいある。子どもの将来を本気で考えるなら、優先順位をはっきりさせ、しっかり勉強させたいものだ。(精神科医)
◇和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年生まれ。
東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科助手を経て現在、一橋大学経済学部非常勤講師、東北大学医学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問などを務めるかたわらマスコミにて積極的な言論活動を展開している。精神科医。


 
 
 
 
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