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2001/05/09 産経新聞夕刊
【和田秀樹のべんきょう私論】「なぜ勉強するの」と聞かれたら
 
◆もの考える訓練 「国のため」とも
 最近、子どもが物心がついてきたせいか、「何のために勉強するの?」と聞かれることがある。小さいころと違って勉強が当たり前にするものだと思えないのだろう。
 ここで多くの親は返事に窮していないだろうか?
 確かに時代が変わって、「勉強していい学校、いい大学、いい会社に入れば、ずっといい暮らしができるのよ」とはいえなくなっている。大きな会社も潰れることもあるし、リストラをされることもある。これまでの学歴は通用しないともよく言われる。
 しかし、一方では、学歴のいかんにかかわらず、学力のない人間、頭の悪い人間は社会で生き残れない時代が、すぐ目の前に来ているのである。
 第1回の本欄で説明したように、世界の主要国は、21世紀は知識社会になると言明している。そして、世界中がそのために懸命の教育改革を行っているのである。
 では、たとえば中学の受験勉強で、21世紀に生き抜いていける頭のよさは身につくのか(子どもだからそういう聞き方はしないだろうが)と聞かれたらどうだろう。
 私はYESと答えている。
 たとえば、子どもにみっちり計算をさせるインドは、現在では世界でもトップレベルのコンピューターソフト開発国として知られている。電卓で代わりになるからと計算をばかにしていると、かえって時代の要請する能力がつかないかもしれないのだ。
 最近の認知心理学という、人間の知的活動について研究する心理学でも、人間は知識を使ってあれこれ考えてみることで、問題解決を行う生き物だと考えられている。考える材料である知識が十分でないと、どんな時代でも、その時、その時の課題に対応できないのだ。また、あれこれと考える習慣をつけておかないと肝心の知識を役立てることはできない。
 中学受験の勉強でも、知識を身につけるトレーニングはみっちりさせられるし、あれこれと考える問題はいっぱい解かされる。これも、やはり「頭がよくなる」トレーニングになっているのだ。
 私は、子どもが勉強する際に、こういうことは将来新しい知識を身につける際にも、大人になってからものを考える際にも必ず役に立っていることや、ノーベル賞学者やベンチャー企業の創始者もみんなちゃんといい大学に入っている人たちなのだと説明するようにしている。
 もう一つは、「国のために勉強をする」といってもいいということだ。
 アメリカのブッシュ新大統領にしても、クリントン前大統領にしても、子どもが勉強をして、学力をつけることは国家目標だとはっきり言明している。イギリスのブレア首相も同様である。最近、IT分野で注目を集めているフィンランドやスウェーデンは、ソ連が崩壊した際、自分たちの国が生き延びるために、理数教育に全力をあげた結果が出ているとされている。
 これらの国々に共通しているのは、政治家たちが「国のために勉強をしろ」とはっきり言ったことである。親たちも「勉強をちゃんとしないと国がダメになってしまう」と言い聞かせているのだ。
 「あなたがしっかり勉強しないとこの国がだめになって、みんなで貧乏しないといけないのよ」といわれても、特に中学受験で社会科などをやっていれば、子どもでも十分理解できるはずだ。
 親が勉強しろといわない国は現在の先進国にはない。勉強に意味があるとはっきり教えてあげるのは親の義務といっていいだろう。(精神科医)
◇和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年生まれ。
東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科助手を経て現在、一橋大学経済学部非常勤講師、東北大学医学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問などを務めるかたわらマスコミにて積極的な言論活動を展開している。精神科医。


 
 
 
 
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