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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/05/07 産経新聞朝刊
【正論】教育への期待 「国家を救う」意気込みでかかれ 子供は高い志を持て
新堀通也(武庫川女子大学教授)
 
◆重大なる歴史的実験
 全く突然、小渕首相が倒れ、急遽、森首相の登板となった。首相が交代しただけで、閣僚の顔ぶれは変っていないし、総選挙も間近だし、新首相もこれまでの路線を踏襲するといっている。三月に発足した小渕前首相の私的諮問機関、教育改革国民会議もそのまま存続することとなった。森首相はかつて文部大臣を務めたことがあるし、中曽根現文相は臨教審の生みの親である中曽根首相(当時)の御曹司だ。その点から考えても、教育改革国民会議への新内閣の期待はしぼまないにちがいない。
 しかし総選挙の結果、政権党が大きく変わる可能性もある。その場合、首相の私的諮問機関が存続するかどうか、ひいては教育改革論議の連続性にひびが入らないかどうかは、興味ある、しかも重大な歴史的実験となろう。
 臨教審は四次にわたる答申を出して昭和六十二年に解散したが、その線に沿って中教審、教育課程審議会、教育職員養成審議会、大学審、生涯学習審など、文部省におかれた主要な審議会は何れも、「二十一世紀に向けての我が国教育改革の基本方向」などと銘打った答申を次々に出し、それに基づいて具体的な制度改革も数多く行われてきた。
 また、小渕内閣になってからも、文部省は戦後初めて「教育立国」というスローガンを公式に採用し、その「教育改革プログラム」に「教育立国を目指して」という副題を付けた。さらに内閣が打ち出した「ミレニアム・プロジェクト」の一環として、「情報化による教育立国プロジェクト」を公表した。
 一方、これまた小渕首相の私的諮問機関である「二十一世紀日本の構想」懇談会は、「富国有徳」の国家像のもと、「自立と協治で築く新世紀」という副題をもつ報告書を発表した。その中では教育についても英語の第二公用語化、学校三日制など、「思い付き」的ともいえる「目玉」がいくつか提案された。
 
◆「教育亡国」の恐れも
 これだけ多くの答申が出され、教育もいろいろな角度から論じられてきたし、国民会議の委員の中にはこれら審議会等の委員と重複する人も少なくないので、改めて今回の国民会議に新味を期待しても無理だという冷めた見方が一般的のようだ。
 しかし、これら答申類に共通に希薄なのは、「危機に立つ国家」という視点から教育の在り方に迫ろうとする姿勢である。もし国民会議がその姿勢で真剣、率直に国民に訴えかけるなら、新鮮で迫力のある答申となるにちがいない。
 実際、現在の日本は少子高齢化、財政の逼迫、メガコンペティション、倫理の頽廃、IT(情報技術)革命への対応など、どれ一つとっても、深刻な難問の解決を迫られており、維新、敗戦につづく第三の危機に遭遇している。そしてこの危機は広く国民に実感されている。
 中教審などが打ち出したスローガンの一つに「心の教育」がある。それをもじっていえば、今日「心」ある国民のほとんどすべてが、これからの日本はどうなるだろう、このままで大丈夫かといった不安感と危機感を抱いている。この不安感と危機感は、教育の現実を知ることによって、ますます高まる。いじめ、不登校、非行、暴力、「引きこもり」、学級崩壊、学力崩壊など数え切れないほどの教育病理の多発と深刻化を知るにつけ、今のままの教育で「危機に立つ国家」を救い得るか、という疑問が起き、何とか教育を抜本的に改革しなければ、国の将来も子どもの将来も危うい。「教育立国」どころか「教育亡国」さえ予想される。
 
◆米国に格好のモデル
 教育改革会議と銘打つからには、今日、「心」ある国民すべてが抱いている以上のような不安感や危機感を真正面から受け止めるべきだ。それには格好のモデル、先例がある。今から約二十年前、一九八三年、米国で発表され、広い衝撃を与えた『危機に立つ国家−教育改革への至上命題』と題する報告書がそれだ。この小冊子は、レーガン大統領(当時)が任命した連邦教育局ベル長官の諮問機関「教育の卓越性に関する全国審議会」が二年にわたる審議の結果をまとめたものである。
 当時の米国はスプートニク・ショック、ベトナム戦争の後遺症、産業競争力の低下、財政と貿易における「双子の赤字」の増大などによって、自信を喪失しつつあった。審議会はこの閉塞状態を「危機に立つ国家」と称し、その危機打開の鍵を教育に求め、凡庸への道を歩みつづけてきた米国の教育を、凡庸の対極たる卓越に向けて抜本的に改革することを「至上命題」としたのである。
 私はそれに刺激を受けて、国民会議発足とほとんど同時に『志の教育−「危機に立つ国家」と教育』(教育開発研究所)を出版した。「危機に立つ国家」、日本にとって減少する子どもたちは文字通り「希少価値」をもつ「国の宝」だ。それに伴う責任感、使命感に基づく高い志をもつことによって、その日暮らしの自己中心主義から脱却できるだろう。「心の教育」が叫ばれるが、心の中で最も重要な「志」の教育を主張したのである。(しんぼり みちや)
◇新堀通也(しんぼり みちや)
1921年生まれ。
広島文理科大学卒業。
広島大学助教授、広島大学教授、広島大学教育学部長を経て、現在、武庫川女子大学教授。


 
 
 
 
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