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2000/01/28 産経新聞夕刊
「日の丸・君が代」と日教組 守られぬ「棚上げ」の約束 /論説委員 石川水穂
 
 日教組の第四十九次教研集会(教育研究全国集会)が二十二日から四日間、金沢市などで開かれた。
 社会科教育の分科会では、これまでの偏った歴史学習への反省も見られた。
 三重県教職員組合は農村(同県大安町)の小学校における地域の古老からの聞き取り調査に基づくユニークな授業例を発表した。
 明治以降、米づくり以外に養蚕で生計を立ててきた地域である。聞き取り調査の結果、「私たちがとらえていた貧しく苦しい生活というイメージではなく、『自分たちの土地を増やそう』『生活を豊かにしよう』と頑張ってきた人々の姿が浮かび上がってきた」という。そして、「今までの戦争への道という暗い見方ではなく、その暗さの中にも民衆のたくましさやエネルギーの感じられる明るい見方で見ることが大切ではないか」と訴えた。
 大阪府教職員組合からは、中学校で「いつだったら日本は泥沼から引き返せたか」をテーマに紙上討論をさせた例が紹介された。
 最初は、生徒の中で「日清・日露戦争は当時の世界情勢から、やむを得ない面があった」とする意見は二人しかいなかったという。しかし、討論を重ねるにつれ、二人の意見が他の生徒にも影響を与え、明治の時代から日本を侵略国家と見る意見が説得力を失っていった経過が報告された。
 日教組教育の中にも、新しい動きが芽生えてきたことを感じた。
 
 しかし、日の丸・君が代問題をめぐっては、昨夏、国旗国歌法が成立したこともあって、一段と過激な意見が続出した。
 音楽教育の分科会では、東京都公立学校教職員組合から、君が代の指導について次のような授業実践例が報告された。
 小学校四年生には、朝日新聞に載った在日韓国人二世少女の「君が代歌えません」という投書を読ませるなどして、感想を書かせた。五年生には、この投書に対する読者の反響などを載せた朝日新聞の記事を読ませた。六年生には、君が代を戦争と関連づけて教え、児童の考えを聞いた。
 この結果、卒業式の予行演習では、管理職が配った君が代に関するプリントをいすの下に置いて歌わない子や意識的に口を閉ざしている子がいたという。
 大阪からは、「日の丸・君が代授業プランII、君が代編」(守口市教職員組合平和教育プロジェクト発行)と題する教材を使った音楽の授業が紹介された。
 この教材には、戦時中の修身の教科書をもとに、君が代がシンガポール陥落など戦争に勝ったときに歌われたことが強調して書かれていた。
 児童らは「他国を占領したときに歌うのはダメだと思う。法律で決めるのはもっとダメだと思った」「戦争でアジアの国々への侵略に利用されたこともあるので、国民に歌えと無理に押しつけるのはおかしい」といった感想文を書いていた。一部の学校では、君が代だけでなく、「白地に赤く」で始まる「日の丸」や「われは海の子」「海」などの文部省唱歌も海国日本をたたえる意味があるという理由で教えられていないことが分かった。
 いずれも小学校の共通教材として、音楽の教科書には必ず載っている歌だ。日本人として世代を超えて歌い継いでいきたいという願いが込められている。
 「君が代の強制に反対」といっている先生たちが実は、歌わせないことを強制していたのではないか。音楽の授業にも、これほどまで反日思想が浸透している現実に、がく然とした。
 
 平和教育の分科会では、一昔前の左翼用語が飛び交った。
 千葉県高等学校教職員組合は「日の丸・君が代法制化反対闘争と現在の取り組み」について、「強制・弾圧が闘いを生み、広げる」「日の丸・君が代を強制する少数の孤立した者たちは、いずれわれわれの連帯の輪で縛り上げられ、粉砕されるであろう」と報告した。
 山口県教職員組合は「諸悪の根源は、アメリカ帝国主義の日本支配とそれに追随する日本支配階級の人民支配にある」「支配階級は校長権限強化のもとで、『日の丸』『君が代』を強制し、新学習指導要領の具体化を押しつけ、教育基本法の改悪を画策している」などと報告した。
 時代が三十年以上も前にさかのぼったような錯覚に陥りそうになった。
 この分科会では、「産経は広島、三重に続いて、神奈川でも攻撃を始めた」「千葉でも、産経による職場攻撃が行われた」といった本紙への批判も相次いだ。
 われわれは日教組のすべてを批判しているのではない。平成十年の「教育再興」シリーズでは、「反戦平和」教育から「日常生活の平和」「心の平和」教育へと転換した静岡県教組のケースを評価した。ただ、広島県のように、極端な反「日の丸・君が代」学習を子供たちに強いている一部の行き過ぎたケースを批判しているのである。
 日教組は平成二年、それまでの「反対・阻止・粉砕」路線を「参加・提言・改革」路線に転換。七年には、日の丸・君が代反対闘争を棚上げし、文部省と和解した。日教組の先生は、この約束を守るべきである。(いしかわ・みずほ)


 
 
 
 
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