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1999/09/15 産経新聞朝刊
【主張】学級崩壊 先生次第で教室は変わる
 
 授業中に児童が騒いだり、立ち歩いたりする「学級崩壊」に関する国立教育研究所の中間報告がまとまった。案の定というべきか、教師の指導力不足によるケースが大半を占めた。先生は社会や親に責任転嫁する前に、自らの姿勢を正し、授業をおもしろくするなどの創意工夫に努めるべきだ。
 文部省の委嘱を受けた同研究所は、特に深刻な小学校の事例について聞き取り調査を行い、要因別に類型化した。自分の在任期間中は大過なくすませたいとする学級担任や校長がいる半面、クラスを正常に戻すために悪戦苦闘する先生の姿も描かれ、興味深い。
 例えば、転校児童の乱暴な言動とこれに同調するグループに悩まされていたクラスを受け持った教師は、問題児童を含めた全員に「一日感想」を書かせた。教師はそれを自宅に持ち帰り、一人ひとりに感想を書いて返した。やがて乱暴な子に従う子供は減り、その子も落ち着きを取り戻したという。
 一人の聞き分けのない子に悩まされていたクラスを受け持った教師は、その子も含めたクラス全員をペアにして授業を進めた。クラスに絆が生まれたが、翌年、担任が代わると、再びクラスは荒れ始めた。学校教育はやはり、先生次第なのである。
 校長失格の例もあった。その学校では校長が先生の希望に応じて担任を決め、学級崩壊が深刻化している五年生のクラスの担任を異動してきたばかりの先生にさせた。困りはてた担任は他のクラス担任に相談し、校長にも対応を求めたが、校長は学級崩壊が外部に漏れることを極度に恐れたという。
 学級崩壊を克服するには、担任を孤立させず、校長のリーダーシップの下で全教員が結束することが何よりも大切である。
 学級崩壊の深刻化に伴い、日教組などから、教員定数を増やし「三十人学級」の実現を求める声が強まっている。しかし、報告の中には、五人のクラスの運営に手を焼いているベテラン教師の例も紹介されている。先生をただ増やせば、解決する問題ではない。要は先生の量より質の向上である。
 学級崩壊のような現象は小学校に限らない。一部の大学では、学生の私語で講義が成り立たなくなっている。成人式では若者が携帯電話をかけたりして騒ぎ、厳粛な雰囲気が失われつつある。授業参観でおしゃべりに夢中な親もいる。
 学級崩壊はある意味では、「自由」と「放任」をはき違えた大人社会の反映でもある。先生や親たちがまず、自らの言動を謙虚に反省し、子や孫たちに範を示さなくてはいけない。


 
 
 
 
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