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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/09/04 産経新聞朝刊
【教育再興】(95)平和教育(13)国際理解 流された汗や苦労学ぶ
 
 「寝ているときかな」「ボーッとしているとき」
 高橋正伸教諭(三五)は毎年一度、生徒たちに「平和を感じるのはどんなときか」と聞いてみる。予想していた答えとはいえ、いつも考えさせられる。
 「身のまわりが平和すぎて、子供たちはふだん平和を意識することがない。無理はないんですが…」
 長崎県北部の松浦市から船で約三十分のところにある人口約三百人の漁業の島・青島。全校生徒三十一人の松浦市立青島中で、高橋教諭は昨春の赴任以来、担当の社会科とは別に、土曜日の選択科目の時間を利用し、「国際理解教育」に取り組んでいる。
 「平和をつくる教育」。高橋教諭は自分の「国際理解教育」をこう位置づけている。今年のテーマは「国連」に決めた。
 「これはなんだろう」。授業は黒板に国連旗を張り、子供たちに教科書をめくって、国連とは何かを教えるところから始まる。
 授業は、PKO(国連平和維持活動)にたどりついた。高橋教諭はいう。
 「平和維持活動には、人員や武器、食料とともに、棺おけも持っていく。だれもが平和を願っているし、死は悲しいことだが、現実の平和はそうして維持されている面もあるんだ」
 子供たちは黙って聞いている。生徒たちが真剣なのは、表情から読みとれた。
 しかし別の機会に「平和をつくるにはどうしたらいいか」と聞くと、ほとんどの生徒は「核をなくすよう訴えていく」と通り一遍の答えしかしない。高橋教諭は言葉が伝わりきらないもどかしさを感じている。
 「授業中は自分たちが国際社会の中で平和をつくり、維持するにはどうしたらいいかを、真剣に考えている。だが、授業が終わると、いつもの豊かな世界が待っている」
 
 長崎市の平和教育は「原爆を原点におかない」とうたっている。被爆地・長崎でなぜなのか。
 二年前に長崎市内の小学校を校長で退職した矢嶋忠孝さん(六二)は「イデオロギー対立に、原爆が利用された反省。長崎に真の平和教育はなかった」と振り返る。「ストを繰り返し、あげくの果てには、『座り込み』に教え子を連れ出す教師もいた。長崎で原爆や平和を持ち出されると、それに対してモノをいいにくい雰囲気がある。原爆や平和を使って、自分たちの主義主張をするのは簡単なんです」
 その一方で、「特定の主義主張に偏らないために原爆と平和教育を切り離したが、逆に、長崎で原爆を原点にしないわけにはいかない」とも言う。
 今年五月のインド、パキスタン両国による核実験は、被爆地・長崎に世界の現実を突きつけた。
 八月九日。その両国の行動を受け、伊藤一長・長崎市長が読み上げた平和宣言は両国の核実験強行を非難し、日本政府に対しても、「『核の傘』に頼らない真の安全保障の追求を」と述べた。が、「真の安全保障」の答えが見つかったわけではない。
 厳しい国際政治の現実の中で揺れる被爆地・長崎。その姿は「真の平和教育」を求める難しさと重なっているようにみえる。
 
 長崎教育界でイデオロギー闘争が繰り広げられた昭和四十年代。高橋教諭の故郷の佐世保では、教師がストで教室を放棄し、学校行事で国旗をはがして教職員同士がもめる場面が日常化していた。
 そんなイデオロギー対立に不毛を感じて育った高橋教諭にとって、「原爆を原点とせず」という姿勢は、ごく当たり前のことのように思えるという。
 高橋教諭が「国際理解教育」に取り組み始めたのは四年前。これまでに「国連」や「ユニセフ」「日本国憲法九条」「原子力」「アジアの軍事情勢」などをテーマに取り上げた。
 政治や国際間の複雑な問題で議論が分かれている点は「さまざまな意見や考えがある」と説明する。「どこまで具体例に踏み込んで説明するか」の線引きに迷うが、可能な限りの判断の材料を与え、安直な結論は導かせないようにしている。
 「平和を願っているのはみんな同じ。世界には平和でない状況がたくさんあり、それに自分たちがどうかかわれるか−が問われている。外から平和の旗を振って、平和の歌を歌っても、だれも見向きもしない」
 あえて「国際理解教育」と自らの平和教育を呼ぶのは、そんな思いからだという。
 「今の平和はだれかが汗を流し、苦労してくれているからあるんだ」。子供たちには卒業までに、そんなことを意識してほしいと高橋教諭は願っている。
 
■長崎市の平和教育
 被爆地・長崎市では、「原爆の日(8月9日)を登校日に」と昭和40年代前半から繰り広げられた学校現場でのイデオロギー闘争を経て、「原爆を原点におかないこと」という文言が昭和53年に市教委が発行した「指導書」の3原則に盛り込まれた。現在も、「原点問題」として一部で論争が続いている。一方、市教委は終戦50年を機に、原爆に対する意識の風化を懸念し、小中教員対象の平和教育研修や「語り部」による被爆体験講話などを市の事業とした。今年は「原爆の日」が日曜日と重なったため、この日を登校日とし、教員の休みを翌日に振り替えた。
 
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