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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/08/31 産経新聞朝刊
【教育再興】(91)平和教育(9)映画「プライド」 自由に議論できぬ「空気」
 
 大阪府下の学校で今年五月、ある教諭が教職員厚生会による映画「プライド・運命の瞬間」の鑑賞券のあっせんを申し込んだ。厚生会というのは、文字通り教職員の福利厚生を目的とした団体。そのあっせんを通じて購入すると、チケット価格は少し安くなる。
 ところが数日後、教諭は学校の厚生会担当の同僚教師から「あっせんは中止になった」と告げられた。
 「なんで?」
 「厚生会からファクスも来ているので」
 教諭は「嫌な感じを受けた」という。厚生会に電話をかけてみた。応答は一方的で、そっけなかった。
 「中止と決まりました。決まった以上、変えられない」
 「決まったことが変えられないのなら、決めた通りにあっせんするのがスジだろう」と食い下がると、「とにかく中止。長いものには巻かれてくれ」。電話の相手はそう言ったという。
 それを聞いて、教諭はそれ以上名前を名乗って抗議を続けることにためらいを感じた。数日後、抗議文を郵送したが、返事はまだ来ていない。
 
 チケットあっせん中止を決めた堺市厚生会の米沢宏夫事務局長は「当初、私自身は映画の内容に問題はないと判断したが、一部に反対の声が上がった。匿名を含む多数の個人から、電話を中心に意見が寄せられた。論議は分かれるだろうが、会の本来の目的からすると、論議すること自体、避けたい」と説明する。
 反対の声には教職員組合も含まれている。「堺市教職員組合から、戦争賛美につながるということで、適切な手段を講じるよう抗議が来た」と同厚生会の中村弘治理事長。
 しかし、それだけが中止理由になったわけではない。「抗議を受ける前に、すでに中止する方向で考えていた」(中村理事長)。あっせん中止の方針は理事会で決定されたが、激論が交わされたわけでもない。
 「理事会の前に事務局で中止の方針を決めていたので、理事会ではそれを承認しただけ」「確かに『やめるべきでない』という声も寄せられていた。こういう結果になって、今後こういう場合どうするか、話し合っている」と中村理事長はいう。
 
 この教諭は、そんなことがあって以来、映画「プライド」を見ていない。
 「とくにあの映画に賛成だったわけではない。戦争に行ったオヤジは感動して見たが、私自身は、賛成でも反対でもなかった。それより『有害なので見せてはいけない』という人が多い方が問題だと思う」。どこかすっきりしない形で、しかも有無をいわせず進められていく意思決定の仕組み。ここにも、危険を感じたという。
 教諭は平和教育に強い関心を持っている。以前、フランスの核実験に対し、抗議の文章を送ったことがあった。朝鮮総督府の保存を主張したこともある。いずれの場合も、「周囲から浮き上がることが多かった」という。
 とりたてて周りから抗議を受けるわけでもない。同僚から論争をふっかけられるわけでもない。が、「おおげさに考えない方がいい」「そんなことをしてどうなるのか」と、どこからか声が聞こえてくる。自分を信じていても、そのうちにふと、「ひょっとしておかしいのは自分ではないか」と思える瞬間がある…。
 「映画を見たいのなら、自分で映画館に行けばいい」という声もあった。確かに、あっせんで安くなるのは数百円に過ぎない。「しかし、そんなことにこだわっているわけではない」…。そのときに感じた違和感は、今も消えない。
 「昔は、都合の悪いことを何も言わさない、という仕組みがあった。今は、言わせはするけれども、聞こうとしない。チケットのあっせん中止は、みんなが『小さなこと』と思っている。しかし、みんながそう思っているうちに、大きな問題になっているかもしれない。戦後五十年を過ぎ、戦争について逆に自由に議論できなくなってきたような空気が出てきた」
 教諭は、自分の教師生活を振り返って言う。
 「昔は私も生徒をあおったり、自分の思うような意見に変えたりすることがあったが、今は平和教育とは、まず生徒にものを考えさせることだ、と思っています」
 
■映画「プライド」論争
 「プライド・運命の瞬間(とき)」は戦後、連合国軍の占領下で開かれた「極東国際軍事裁判(東京裁判)」でA級戦犯として裁かれた東条英機・元首相を主人公に描いた映画。今年5月23日から全国で上映され、観客数約160万人、配給収入約13億円を記録するヒットとなった。これに対し、映画演劇労働組合総連合(映演総連)を中心に結成された「映画『プライド』を批判する会」(山田和夫代表委員)は「侵略戦争を美化している」と上映中止を求める運動を展開。日中友好協会全国本部(平山郁夫会長)も「歴史をわい曲するもの」とするアピールを出した。
 
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