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1998/08/25 産経新聞朝刊
【教育再興】(85)平和教育(3)ピースおおさか 反日的主張の「貸し館」
 
 大阪のシンボル、大阪城天守閣がそびえ、行楽を楽しむ人々が集う大阪城公園。その一角に、大阪国際平和センター(ピースおおさか)はある。
 大阪府南部の和泉市に住む主婦(四二)は七月二十六日、ピースおおさかに出掛けた。高校生になる長女が「ピースおおさかは、キモいでー(気持ち悪い)」と言っていたのを聞いて、一度自分の目で確かめたかったからだ。
 一通り展示を見て回った後、館内一階で書籍が売られていたので手に取ってみた。この日は、「『ピースおおさか』と全国の平和博物館を考えるシンポジウム」が開かれていた。その場にいた人に「これは本屋さんでは売っていない」と勧められ、「いま、歴史の真実を・教科書で教える『従軍慰安婦』」という冊子を買った。
 帰宅して読んでみると、その冊子は「歴史改ざん主義者」として藤岡信勝・東大教授らを批判し、「『慰安婦』は軍の性奴隷」と述べ、「慰安所は軍の組織的犯罪」などとしていた。
 八月一日。そのピースおおさかで、今度は「大阪府朝鮮人強制連行真相調査団」が主催する集会が開かれた。
 会場には「朝鮮民主主義人民共和国『従軍慰安婦』問題の調査と主張」と題するパンフレット。そこには「共和国(朝鮮民主主義人民共和国)政府の調査活動」の内容が述べられ、「『従軍慰安婦』犯罪事件の隠された目的は、朝鮮民族抹殺政策の積極的な推進にある」と書かれ、さらに元「従軍慰安婦」被害者の証言として「こんな過去をもっている日本が、どうして何の処罰もうけずこれまでのさばっていられたのか、まったく理解できない」「日本政府が過去を正しく清算するよう全世界が、制裁と圧力を加えなければならない」などと述べられていた。
 同種の集会の開催は、ピースおおさかでは過去にも何回かあったという。しかし、いずれも同施設の設置理念に沿った事業に場所を貸し出す「貸し館」業務に当たるとされた。
 
 平成三年九月の開館以来、六十万人以上の入場者を記録したピースおおさかは、開館当初から激しい論議の対象になってきた。
 「日本軍を悪逆非道な存在と決めつけているうえに、その根拠として展示されている写真や資料の事実関係に、ねつ造やでっち上げが含まれている」。ピースおおさかの展示を批判する市民団体「戦争資料の偏向展示をただす会」(青木匠代表)は、こう主張してきた。
 こんな批判を受けて昨年七月、ピースおおさか側は三点の展示資料について写真パネルの撤去や説明パネルの変更を行う。さらに今年三月末、二点の写真資料を撤去、四点の写真説明と五点の解説パネルを修正する。
 「これまでの経緯を重く受け止め、今後も引き続き点検を行い、より適切な展示に努めていく」。ピースおおさか側は変更や修正に際し、こう付け加えた。
 ピースおおさかは大阪府と大阪市が、それぞれ一億円を基本財産として拠出している「公的施設」でもある。「偏向展示」という批判に、大阪府人権室の松本隆室長も「現時点では問題となる展示はクリアされたと考えるが、さらに十分な調査を行う」とし、貸し館業務についても「府が内容に介入するわけにはいかない。しかしピースおおさか側には、幅広い府民の意見交換の場になるように配慮してほしいと伝えている」と話した。
 
 「仮に『インドネシアの独立に旧日本軍が力を尽くした』との観点での発表を、どの団体にも属さない研究者が行いたいと言ってきたらどうするんですか」
 東京都平和祈念館の偏向展示計画に反対している土屋敬之・東京都議(民主)は、ピースおおさかを視察した際、こんな質問をした。
 対応したピースおおさかの職員は「企画書などをみて判断することになるが、戦争賛美につながる内容はだめです」と答えた。
 「では、だれが戦争賛美かどうか判断するのか」
 「ピースおおさかです」
 「これでは、明らかにフィルターがかけられている。幅広い意見がとりあげられるのか、疑問だ」と土屋都議は話す。
 一方、ピースおおさかの利用について、大阪府教委は管轄下の公立学校に対する「指示事項」として、「ピースおおさか等を有効に活用する」と明記している。各地の自治体が「ツアー」を組むケースも多い。大阪府南部の高石市では毎年五十人の子供たちを先着順で受け付け、無料バスツアーを平成七年度から実施、今年も予定通りに行った。
 こんな「積極姿勢」について、黒川芳朝・大阪府教育長はこう言う。
 「ピースおおさかはイデオロギーででき上がっているとはまったく思っていない」
 そして「現時点では展示内容の問題は解消されている。もともと平和教育のためにやっているのだから、積極的に有効利用して当然です」とも話している。
 
■ピースおおさか 
「大阪における戦争被害者にたいする追悼の場であるとともに、平和にむけての新たな地域的な取り組みを意図」(設置理念)し、平成3年9月開館。今年3月には入館者60万人を記録した。総入館者の約半数は小中学生。大阪府と大阪市が1対1の割合で、建設・展示工事費として計25億9740万円を補助。さらに運営費補助金として毎年1億円以上を府・市それぞれが拠出しているほか、常勤職員の派遣も行われている。
 
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