日本財団 図書館


2002/12/16 読売新聞朝刊
[社説]学力調査 「おおむね良好」などと言えるのか
 
 この評価は、甘すぎるのではないか。
 全国の小中学生を対象として実施された一斉学力調査の結果について、文部科学省は「おおむね良好で、成果の表れ」との見方を明らかにした。
 調査は、小学校の五、六年生と中学全学年の約四十五万人に対し、今年一、二月に実施された。学力低下をめぐる激しい論争を受け、学力の実態を調べるのが目的だった。
 「良好」としたのは、事前に設定していた正答率を上回る教科が多かったことによる。一九九三―五年に実施した前回調査と同じ問題の正答率比較でも、前回を下回る教科はごくわずかとした。
 目標値を設定して到達度を調べるのは大切なことだ。だが、今回の設定値は、とくに小学校で低すぎるとの指摘が研究者らから出ている。
 同一問題の比較にしても、問題ごとに下降、変化なし、上昇に三分類し、下降が過半数となって初めて、その教科の成績が下がったとした。しかし、前回より結果がよかった問題は全体の四分の一にすぎず、悪かったのはその倍近い。学力低下は歴然としている。
 同省の評価は、誤ったメッセージを伝えることになりかねない。同省は学力低下の実態を重く受け止めるべきだ。
 受験過熱時代の「詰め込み」学習への反省から、同省は一貫して、子供の学習意欲を喚起する授業の大切さを強調してきた。「ゆとり」教育の提唱がそれである。だが、調査結果は、そうした教育に疑問を持たせるものとなった。
 「ゆとり」を求めるあまり、学校には基礎的な教育をおろそかにするところがあった。調査結果は、「ゆとり」が裏目に出て、その弊害が大きく表れたと見る方が、むしろ自然ではないか。
 今、ようやく学校では、反復練習や知識の習得が重視されるようになった。当然のことである。もとより「詰め込み」に戻ってはなるまい。
 調査では、教科や学年によって成績に開きが目立った。地域や家庭環境による学力差の拡大も、かねて指摘されてきたところだ。
 教科や地域に応じた、きめ細かな指導の必要性が改めて裏付けられた。
 四月から、教科内容などを削減した新学習指導要領が実施されている。その一方で、文科省は、指導要領を超える授業を認め、学校に混乱を与えている。
 学力低下の現実が明らかになった以上同省は早急に対策を講じなければならない。調査の継続は当然だ。必要とあれば指導要領を見直すべきである。

 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION