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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/03/08 読売新聞朝刊
[どうなる学力](中)省が揺れ、教師に戸惑い(連載)
 
 怒号に近い大声が、扉の外まで漏れて来た。「失敗したら、国がつぶれるぞ」
 先月十二日、東京・永田町の自民党本部。実施が四月に迫った完全学校週五日制と新学習指導要領について、文部科学省が同党文教族議員に説明する非公開の会合が開かれていた。学力低下への不安や、完全学校週五日制の受け皿への疑問が噴出、「党として新要領を認めていいのか」との発言まで飛び出した。
 党も了承していたはずの施策。直前になって異論が相次いだ背景には、「ゆとり教育」を巡って“揺れ”を見せる、同省へのいらだちがあった。
 実は昨年一月、同省は従来のゆとり強調から「学力向上」へ、事実上、教育施策の舵(かじ)を切っている。小野元之次官が、それまで「教える上限」として運用されていた指導要領について「全員が学ぶべき最低基準であり、超えて教えることは可能」などと表明したのだ。
 すでに大学の研究者らからは、「新要領の実施は学力低下につながる」との批判が起きていた。反論しようにも、継続的な調査をして来なかったため、同省には子どもの学力の実態を示すデータもなかった。
 同省はこの後、矢継ぎ早に学力向上策を打ち出した。新年度予算には、習熟度別授業や発展的教材を取り入れる「学力向上フロンティアスクール」などの事業を計上。昨年夏には高校の教科書検定方針を見直し、指導要領を超える記述も容認することにした。
 さらに今年一月には、遠山文科相自ら「学びのすすめ」を発表、「できる子」向けの指導を含む「補習」や「宿題」を奨励した。新要領の範囲内の記述に絞られた新しい小中学校の教科書についても、「次回改訂では発展的な記述を可能にする」とまで踏み込んだ。
 それでも同省は、こうした変化を方針転換だとは公式に認めていない。当然、現場の反応は鈍く、教師らの戸惑いも大きい。
 「できる子に『次』や『その先』を教えるような発想はまずない」(大阪の公立小教諭)のが多くの公立校教師の意識だ。東京都港区のある区立小校長も、「学校は『総合的な学習の時間』の導入や授業時数削減に対応した時間割づくりなどに追われている。教科書をこなすだけでも大変なのに、発展的学習までやれと言われても到底無理だ」と打ち明ける。
 文科省は、ようやく全国的な学力調査を開始した。「結果次第では新要領見直しも辞さない」とも言っている。しかし、その判断が下されるのは、早くても二年後だ。
 
◆「総合学習」骨抜きの危機 教科の補充に振り替えも
 教科の枠にこだわらず、体験的な活動を重視する。児童生徒が自ら考えたり調べたりする力を養う――。
 この四月から小中学校で本格実施される新タイプの授業「総合的な学習の時間」は、「ゆとりの中で、生きる力をはぐくむ」新学習指導要領の“目玉”だ。多くの小、中学校で先行実施され、その成果も報告されてきた。
 だが、「しわ寄せで教科の時間数がますます減る」との焦りから、実施直前の今になって、「総合」を事実上“骨抜き”にするような動きが一部で目立ってきている。
 
 先月初め、東京都内の区立中学校の職員会議。男性教師(47)がこう提案した。
 「基礎学力をつけることは絶対に必要です。だから『総合』の時間は学校行事の準備などに振り替え、その分、教科の授業時間を確保すべきだと思う」
 異論は出なかった。学校全体に、「国語や数学など、教科の授業時間をできるだけ削りたくない」との思いが強まっていたからだ。新年度からは、本来週二時間ある「総合」の時間の多くを、修学旅行や生徒発表会などの準備時期に「まとめどり」することになった。
 「私立中学は土曜も授業をする六日制を維持するだけでなく、『総合』も事実上やらないところが多い。このままでは、親の私立志向がますます強まり、公立校はつぶれていってしまう」。男性教師は、強い危機感を口にした。
 
 「総合」の時間を、教科の授業を補う形で“活用”しようという動きもある。
 兵庫県内のある中学校は、来年度から週三回の「英語」の授業とは別に、週一回、「総合」の時間枠で英語の授業を行う。「会話重視」を主眼にしてはいるものの、正規の英語の授業との厳密な線引きはしない。
 新要領のもと、同校では英語が週四回から三回に減ることに、「塾通いの有無で生徒の学力格差が広がる」との懸念が広がっていた。教師の一人は、「『総合』の趣旨に反するかもしれないが、割り切って現実的に対応した」と話す。
 大阪府のある市では、市内の教師らが「研究会」をつくり、「総合」の枠内で工夫して「教科」を教える授業法まで編み出した。
 全国の大半の小中学校は、来月以降の本格実施を前に、「総合」の準備に力を注いでいる。埼玉県内の小学校教諭(50)は、「学力低下が問題になり、国も補習を促すまでになったせいか、現場では『総合』への熱が急速にさめてきている」と、戸惑いを隠せない。周囲には、やはり教科の習熟学習や行事準備に振り替えてしまおうという学校もある。「でも、それはもったいない。本当に子どもたちの力になる思い切った授業ができるチャンスなのに」と訴える。
 
 文部科学省は「総合」について、「各学校で工夫してもらうのが前提で、全国一律こうあるべきだ、というものはない。ただ、単なる物見遊山ではなく、ほかの教科で学んだことが生き、体験として成長過程で大切なことを学べるものにしてほしい」としている。
 教科の発展的学習や行事の準備への振り替えについて同省は、「『総合』の趣旨に合っていれば差し支えない」との姿勢だが、その線引きは難しい。東京都教委は、「個々のケースによるが、従来の行事の準備を安易に『総合』に振り替えるのは不適切ではないか」との見解だ。
 教育評論家の尾木直樹さんは「振り替え」が広がる状況について、「自ら学び考える力を育てる柱に『総合』を据えよう、という理念にはほど遠い。これが形骸(けいがい)化したら、今回の指導要領の根本が揺らぐ」と憂慮する。「長い目で見れば、『総合』は子供の学習意欲を引き出し、地域に開かれた学校づくりの契機にもなるのに」
 「総合」の時間が成功するか否かは、教師の努力、創意工夫にかかっている。

 
 
 
 
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