日本財団 図書館


2002/01/25 読売新聞朝刊
[社説]学力テスト 学校教育の課題解決に役立てよ
 
 子どもたちの学力は本当に低下しているのか。
 学習内容をどの程度身につけているのかを測る文部科学省の全国一斉テストが始まった。
 一斉テストは六年ぶりだ。これまでのテストは学習指導要領を見直すデータ集めを目的としていた。
 今回のテストは、教科内容や授業時間を削減する新指導要領の四月実施を前に保護者などの間に、学力低下の懸念が広がっていることから、実態を調べるのが目的である。
 同省はテストの結果によっては新指導要領の見直しも検討するとしている。社会の変化に見合った学力の維持・向上につなぐ契機にする必要がある。
 ここ二十年来、教育は「ゆとり」「個性化」「自由化」をスローガンに行われてきた。最近は「自ら学び、考える力」が強調されている。
 だが、現実は狙いとは程遠い。
 子どもたちの家庭での学習時間は九〇年代に急減し、先進諸国で最低レベルとなった。
 学習意欲の低下も、指摘されている。新指導要領に不安が寄せられるのは当然である。
 子どもたちの勉強離れの背景には、少子化に伴う受験競争の緩和などがある。しかし、学校で子どもの自発的な学習を重視するあまり、基礎・基本をおろそかにする傾向もあった。
 知識をただ詰め込めばよいというのではないが、数学や英語など体系的な教科では知識の積み上げが重要だ。
 大規模な学力テストの実施は、一九六六年に全国学力テストが廃止されて以来のことだ。日教組などから、「学校を序列化する」との批判があり、実施できなかった。
 読売新聞は一昨年十一月の教育改革提言で、現在の教育改革そのものを改革し基礎学力を向上させることを求めた。
 子どもの自主性を尊重した学びが、教育放棄に陥ってはならない。
 遠山文科相は先に、「学びのすすめ」と題するアピールを発表した。補習や宿題を奨励し、子どもたちが「学ぶ習慣」を身につけることを求めた。
 同省は、指導要領は最低基準でそれを超える授業もできる、としている。指導要領を上限規制と受け取ってきた学校現場の戸惑いは強い。要領の記述にもあいまいなところが少なくない。
 同省には、学校教育の目指す方向を明確に示すとともに、今回の学力テストのデータなどを活用して、学校教育が抱えるさまざまな課題に、解決の方策を打ち出すことを求めたい。

 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION