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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/09/10 読売新聞朝刊
[社説]世紀を超えて 「学校制度の未来図」柔構造で新時代を切り開こう
 
◆杉並に出現した夏の寺子屋
 夏休みが残り少なくなった八月末、東京都杉並区のお寺に子どもたちの元気な声が響いた。わずか四日間ながら、地域ボランティアが開いた現代版「寺子屋」は大盛況だった。
 小学四年から中学三年までに算数、数学を指導した。学年の違うもの同士が座卓に自由に座り、ボランティアからマンツーマンで教わる。学校では分からなかった計算の仕方を、ここで初めてマスターできた中学生も少なくない。
 「夏休みのイベントは多いが、子どもの最大の関心事は勉強のはず。そこへ切り込んでみた」と主催者は言う。今年が二回目で、初回は延べ百人余だった参加者が、今年は四百人余にまで増えた。
 これは、一地域の小さな試みがおさめたささやかな成功に過ぎない。しかし、その裏側に、今の学校が抱える問題が透けて見えないだろうか。
 教育はそもそもは私的な営みだった。個人が必要や関心に応じて学ぶ。それだけで済んだ時代がまさに寺子屋の時代だった。行く行かないも、どこに行くかもすべては親が決めた。
 寺子屋は江戸末期には全国で一万数千、現在の小学校二万四千校の半数を超えていた。当時の世界では最高の教育水準だった。
 寺子屋は結果として商業の発達を助け、近代化の基礎を築いたとされる。全く個人の自由意思によって設立された私的教育機関が、それにもかかわらず一定の社会的機能を果たしたことには注目しなければならない。
 
◆まだ大らかだった戦前の制度
 教育に国がかかわってくるのは明治以後のことだ。日本が欧米各国に伍(ご)して近代国家の仲間入りをするには、国民社会を形成し、良質で均一な労働力を確保する必要があった。教育がその役割を担った。
 「必ず邑に不学の戸なく家に不学の人なからしめん」。明治初年に小学校制度などを定めた「学制」は、国民にこう就学を促した。国の将来を教育にかけた明治政府の意気込みがうかがえる。
 ただ、この当時、一方で学校以外での教育が認められていたことも忘れてはならないだろう。明治三十三年(一九〇〇)の小学校令などには「家庭またはその他」において教育を受ければ就学したとみなすという例外規定があった。
 実際、小学校を出ていない旧制高校生も当時は存在していたらしい。これが認められなくなったのは昭和十六年(一九四一)からで、理由は戦争に備えての団体訓練などができなかったためとされる。
 戦後の学校制度は、この例外規定が復活しなかったばかりか、小学から大学まで一貫するすっきりした単線型に整備された。何度か「多様化」が論議されたこともあったが、日教組などの激しい反対もあって実現していない。
 現在の学校制度の完成度は高いと言っていい。しかし、それは同時に、制度にあわないものを切り捨てたということも意味している。精緻(せいち)なシステムはそれだけ窮屈なものだと言い換えることもできよう。
 いじめ、不登校、学級崩壊など、近年学校で噴出する問題には実に様々な背景がある。だが、その一つ、最も奥深くにあるのは学校制度と言っていいかも知れない。
 それはつまり、能力や関心、必要がすべてばらばらの子どもたちを、たった一つの基準でひとまとめにしてしまう制度の限界だ。基準は例えば年齢とか居住地といった外側から計測可能なものが選ばれる。
 
◆次々生まれる新しい「学ぶ形」
 もっと、子ども一人ひとりの内実に即した教育を用意すべきだ。そのためには、国に一括して任せてきた姿勢を改め、家庭や地域社会に教育を取り戻す必要がある。そんな動きが出てくるのは当然だ。杉並の寺子屋運動もその一つだろう。
 アメリカには、学校に行かないで家庭で両親から教育を受けている子どもが約二百万人いると言われている。両親が学校に通わせない理由としては宗教的な信念、子どもの安全、公立学校不信などが挙げられる。
 こうしたケースは「ホームスクール」と呼ばれ、アメリカでは近年、全州が相次いで、法令によって就学義務の例外や事実上の「私立学校」と位置づけた。公認されたことで今後ますますホームスクールは増えていくと見られている。
 もう一つアメリカで注目を集めているものに「チャータースクール」がある。親や教師のグループ、地域住民、企業などが、具体的な教育目標を掲げて州の教育当局と契約を結び、チャーター(特許状)を得て開設する公立学校のことだ。
 これも全米の七割以上の州が設置を認める法律を制定、現在千七百校が開校している。学習障害者教育、英才教育、芸術教育など様々なタイプがある。
 
◆単線型システムを見直せ
 日本の教育の総点検を目指す首相の諮問機関「教育改革国民会議」が活発な問題提起を続けている。小学校の入学年齢を五歳から七歳までとする案や、日本版チャータースクールである「コミュニティースクール」構想なども論議になっている。
 「日本ホームスクール支援協会」という団体もこの夏発足した。不登校が年々増える中、関係者の関心を集めている。
 単線型よりこうした要素を抱え込んだ柔構造の方がシステムは強(きょう)靭(じん)になる。そしてそんな社会でなければ、新しい時代を切り開く子どもは育たないのかも知れない。

 
 
 
 
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