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1999/09/27 読売新聞朝刊
[社説]高校の統廃合を改革の好機に
 
 少子化に伴う中学卒業生の減少によって東京、神奈川、大阪など大都市圏で、公立高校の統廃合計画が進んでいる。
 二〇〇三年度から実施される高校の新指導要領では、大幅に選択科目が増え、生徒の興味や能力に応じた指導が可能になる。生徒減少で統廃合が迫られているこの時期を、教科内容とあわせて、新たな高校教育づくりの好機としたい。
 七〇年代から八〇年代にかけ、進学率アップや都会への人口集中による生徒急増で激化した受験競争を緩和しようと、大都市圏で高校の新設が相次いだ。
 神奈川県は七三年から十四年間で百校の県立高校を建設し、ほぼ同じ時期に大阪府は府立高校七十七校を、東京都が都立高校四十九校をそれぞれ新設した。
 しかし、用地取得や校舎建設に追われたこともあり、これら新設高校の大半が特色にとぼしい普通科高校だった。
 高校が抱える最大の問題は、中退する生徒の増加だ。九七年度の中退率の全国平均は2・6%だが、公立高校に限れば、東京3・6%、大阪3%と上回り、神奈川だけが2・3%で平均より低かった。
 中退者が百人を超す高校が四校あった大阪では、九八年度は2・7%に減ったが、一年生は4・6%に上っている。
 とりわけ大都市圏で、高校教育のあり方が問われている数字である。
 三都府県は今後、約十年をかけて普通科高校を中心にした統廃合を行い、その一部を多様な高校に再編する一方、東京で三十校程度、神奈川二十五―三十校、大阪二十校を削減する計画を立てている。
 新しい高校の中心となるのは、普通科と工業、農業など専門学科から履修する教科を生徒が選ぶ総合学科高校や、学年ごとの区切りを設けない単位制高校だ。
 また、中高一貫教育校や、時代のニーズに合った専門高校などが誕生する。
 ピーク時に十―十二学級あった普通科高校の一学年の学級数を、六―八学級に減らすことも予定されている。
 こうした高校は、生徒の価値観の多様化に対応でき、一人ひとりへのきめ細かな指導を可能にするだろう。
 総合学科高と単位制高は、文部省が高校改革の柱の一つとしていることもあり、全国で約四百校が開設されているが、まだ全体の一割にもならない。大都市圏の再編を全国の高校改革への弾みとしたい。
 「学校選択の幅が狭い」などの不満が根強い入試の学区見直しにも、力を注いでほしい。統廃合が進めば、一学区あたりの高校数は減る。学区の再編を通して生徒の選択肢を広げるチャンスである。
 新制高校が生まれて半世紀をすぎ、進学率が95%を超えた高校教育が、大きな転換期を迎えているといえる。
 量的な拡大に力を注ぐあまり、多くの高校は個性をなくしてしまった。それが生徒に高校への魅力を失わせ、簡単に中退の道を選ぶ原因にもなっている。
 生徒が本当に学びたいと思う高校づくりを、タブーをつくらずに進めたい。

 
 
 
 
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