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1998/11/04 読売新聞朝刊
[社説]子どものための教員研修を
 
 大学院の修士課程で現職教師の再教育を進めようという提言が、文部省の教育職員養成審議会から示された。趣旨に異論はないが、いくつか気になることもある。
 審議会の答申は、二〇〇一年度から二十年間で若手教員の三―五割に修士レベルの教育を受けさせ、上級の教員免許「専修免許」を取得させたいという。
 学問研究は急速に進歩しており、現場の先生たちに「もっと勉強しなければ自信を持って教えられない」との思いがあるのは事実だ。大学院で最先端の研究に触れ、指導力を高めることは大いに意義がある。
 答申は、有給で大学院に派遣する研修の定員を増やすほか、休業制度の創設、夜間や通信制大学院の充実など条件整備を進めるよう求めている。無給でも大学院で学びたいという熱心な先生がいるなら、それを助ける態勢づくりは当然だろう。
 ただ、気がかりなのは、受け入れ側の力量の問題だ。答申は「変化の激しい時代に対応するには大学院で教育を受けることが最も効果的」というが、大学院の能力についての検討が欠落している。
 八〇年代初頭、大学院での現職教員の再教育を売り物に、三つの国立教育大学が新設された。毎年合計で五百人弱を受け入れて来たが、復職後の実態などについての検証は今日までなされていない。
 再教育には多かれ少なかれ社会的なコストがかかる。それに見合う効果をどうしたら確保できるか。三大学の先行例をきちんと総括し、議論する必要があろう。
 もう一つ、深刻化するいじめや不登校への対応が求められている時に、教師が大学院で学ぶことの意味が父母にすんなりと理解されるだろうかという懸念もある。
 「生きる力」の育成が言われ、新学習指導要領では教科の枠を超えた「総合的学習の時間」が設けられる。教育改革の大きな流れは、知識より考える力や表現する力、人格形成などを重視する方向にある。
 つまり、教師自身の人間性や社会性が問われる時代になっていると言っていい。大学院で理論を学ぶだけに終わるのでは、そんな時代に逆行するということを、関係者は肝に銘じなくてはならない。
 今回の答申は、修士課程の活用法にしぼった諮問に答えたものだ。現職教師の勉強の場が大学院だけとされているわけではない。その他の研修のあり方については今後も審議会で検討を続けるという。
 デパートなど一般企業に教員を派遣する長期社会体験研修の実態を文部省が報告書にまとめている。「周りの情勢が見えなくなっていた自分に気づいた」「人間関係の能力を高める必要性を思い知った」などの感想文に成果がうかがえる。
 だが、今年度の研修者は全国で七百二十人、全教師の1%にも満たない。この種の研修はもっと増えてもいい。
 もとより、この研修はいいが、あれはだめなどと言うつもりはない。先生はあらゆる機会を見つけて自己研さんに励んでほしい。要は子どものためになるかどうか。それ次第で父母も社会も喜んで応援する。

 
 
 
 
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