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1991/10/10 読売新聞朝刊
学校5日制 家庭・地域含め議論を 教育バランス大切(解説)
 
◆積極的意義示した提言
 自民党の「学校五日制に関する小委員会」(北川正恭委員長)が、学校五日制の導入を「是」とし、「平成四年度中に月一回の段階実施」の方針を打ち出した。しかし、国民のコンセンサスを得るには、まだ議論を深める必要がある。(政治部 木村 恭子)
 土曜日を休校に――という学校週五日制導入を進める動きは、昭和六十一年、臨時教育審議会(臨教審、首相の諮問機関)の第二次答申で、検討課題に取り上げられたことに始まる。臨教審では、明治維新期、昭和戦後期に次ぐ「第三の教育改革」として、生涯学習体系への移行を打ち出し、その中で、学校での教育負担の軽減、家庭や地域教育の回復のために、「学校の週五日制への移行の検討」を提言した。
 一方、学校五日制と一緒に議論となる週休二日制については、時短問題とともに民間、自治体双方で、徐々に導入が進められている。特に遅れている国家公務員の完全週休二日制について、人事院は今年八月、「平成四年度のできるだけ早い時期に実施すべきだ」と、初めて勧告に踏み切った。
 その中で、国公立学校の教師は、職種の“特殊性”から、週休二日制は確立されなかった。労働問題の立場から教師が土曜日を休めば、当然、子供も学校を休まなくてはならない。子供を巻き込むだけに、教師の時短問題の解決は難しかった。
 子供の教育上、土曜休校を有意義とする「学校週五日制問題」は、教師の時短から土曜日を休む「週休二日制問題」が最近になってクローズアップされるとともに、解決しなくてはならない時期に来ていた。
 そこで文部省が、平成元年に学識経験者による協力者会議を設置。来年三月までに結論を出す予定だ。また、自民党でも「かねてから論議してはいたものの、ここにきて、避けては通れない問題だという認識になった」(北川委員長)として、八月に文教部会と文教制度調査会合同で小委員会が設けられた。
 同小委員会では提言までに七回の会合を開き、そのうち六回は、学校関係者、大学教授、PTAなどから意見を聴取した。
 ここでは大きな問題点が二つあった。一つは、そもそもなぜ、五日制をやらなくてはいけないのか。「生徒は六日のままで、教師が曜日を割り振って二日休めばいい」といった意見も出された。もう一つは、地域や家庭に土曜日を休校にするための準備が整っていない、ということだ。
 今回の提言では、まず第一の問題に対して、学校五日制が、教師の週休二日制のためのものではなく、あくまでも、土、日曜日を家庭や地域で暮らす「家庭・地域二日制」であることを強調した。この意義付けの根拠が、「学校、家庭、地域三者の教育バランスを図る」ことである点は、先の臨教審答申と類似している。しかし、「教員の有能な人材確保」にもつながることを挙げたことは、労働条件と雇用面にも触れ、週休二日制とのバランスを取ったものと見られる。
 また、第二の問題については、地域団体などの協力を求めるとともに、ボランティアの人材データバンクの育成を提案、地域の退職者などの参加を促した。
 土曜休校となれば、明治の学制発布以来の改革になるだけに、大きな問題だ。今回の提言では、その積極的意義の基本的な考え方が明示され、北川委員長も「大いに議論を国民の中に沸きおこしてほしい」と記者会見をしめくくった。議論がなければ、五日制の意義がまだ国民の間でピンとこないのが現状だ。「何となく決まっていた」ということがないよう、今後、幅広く議論が深まることを期待する。

 
 
 
 
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