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1990/12/20 読売新聞朝刊
[社説]受験過熱をやわらげるには・・・中教審の刺激的中間報告
 
 中央教育審議会の学校制度小委がまとめた中間報告は、この種の提言には見られない刺激的なトーンで書き込まれている。
 重要なポイントは三つある。
 子どもの側に立った教育改革の必要性をより鮮明にしていること、形式的な平等主義ではなく、子どもそれぞれの個性に応じた実質的な平等を目指そうとしていること、そして、受験競争の緩和策を最重要課題に位置づけていることだ。
 いずれも当を得た視点だと思う。効率に重きを置いてきた結果、学校はますます息苦しさを増している。それ以上に、受験過熱は、日本の教育の最大の問題であることはまぎれもない事実だからである。
 報告は、この部分にメスを入れなければ同時に提言している高校改革案は効果的なものにならないと言う。その趣旨はよく理解できる。避けて通れない課題だろう。
 緩和策として打ち出した案には、評価尺度の多元化・複数化の勧めとともに、一つの高校から一つの大学に入学する人数を制限しようというものも含まれている。
 東大や京大など一部の有力大に入る学生の出身校が、ひと握りの有名進学校に偏っている。そこを目指そうとして、受験競争がどんどん下に降りている。それが教育全体を大きくゆがめている。競争の低年齢化は、もはや「危険水域を越えている」という認識に基づくものだ。
 その結果確かに、伸び切ったゴムのように、意欲のない学生がいる。受験学力だけで医学部に入り、注射もできないような医師を生んでもいる。同質的な集団では、活力が生まれないという指摘も、当の東大関係者から出ている。
 問題提起としては、大変に新鮮だ。期待をかける向きも多いだろう。
 ただ、その具体策となると、報告はにわかに迫力を欠くことも否めない。実施に移した場合、どんな副作用が予想されるか、それを解消するための手立てをどうするか、などの点に踏み込んでいないからだ。
 だれでも参加できるはずの競争試験に、人数制限はなじまないとする意見もまだ根強い。そうしたさまざまな点を総合的にとらえた見取り図を示すことが、最終答申では求められよう。
 報告が強調する評価尺度の多元化・複数化の導入には、これまで以上の努力が払われなければならない。少なくとも「一点刻みの合否」から抜け出し、一定の幅の層にさまざまな物差しをあてる選抜を各大学に求めたい。
 事態の深刻さは、差し迫った状況にある。その認識が欠かせない。
 偏差値偏重や有名校志向は、社会全体の意識の問題にもかかわる。報告は「各方面に訴える」という異例の章を立て、企業には、大学の序列に頼らない新しい採用方式の確立を、家庭には、子どもを偏差値だけで見る目を改めるよう求めている。
 教育制度とそれを取り巻くあらゆるレベルで揺さぶりをかける。受験過熱の緩和には、そうした努力が欠かせないことを示唆したものと受けとめたい。

 
 
 
 
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