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1990/05/04 読売新聞朝刊
[社説]自然に定着させたい国旗・国歌
 
 読売新聞社の全国世論調査(四月二十一、二十二日実施)によると、公立の小、中、高校の入学式や卒業式の時、「日の丸」を揚げることが望ましいとする意見がほぼ八割にのぼった。「君が代」を斉唱することについては七五%が肯定している。
 この数字についての見方は立場によってさまざまだろう。だが、総じて言えば、国民の多くに定着しつつあると見ていいのではないか。
 先月初め全国で行われた入学式が、ごく一部のトラブルを除き、全体として平穏に終わったのも、こうした世論の動向と無関係ではないと思う。
 この新学期から、学校での「国旗、国歌」の扱いが明確化された。新学習指導要領の移行措置によるものだ。それまでの「望ましい」から「掲揚、斉唱するよう指導するものとする」と変わった。
 ただ初年度の今年、文部省や都道府県教委は「強制」といった言葉を避ける姿勢に出た。「義務化」に反対している日教組も処分者は出さないとの戦術で臨んだ。
 これでいいのだと思う。混乱が起きれば、かえって教育上のマイナスにつながると思えるからである。
 とりわけ、極論を唱え、組織的行動で反対するのは、建設的な姿勢、方法と言えない。なによりも、この数年各種の調査で、七割から八割の国民が入学式などでの「日の丸」「君が代」を支持しているという事実に目をむけるべきだと考える。
 ただ、掲揚、斉唱を一律に強制するのも歓迎できない。国旗や国歌は、自然な形で定着するものでありたい。全体としてはおおむね実施されている現実もある。多少地域的アンバランスがあるとしても、そう神経をとがらすことはないのではないか。
 「日の丸」「君が代」の扱いについては、戦後から今日に至るまで根強い反対論がある。国旗、国歌としての法的根拠がないというのもその一つだ。
 けれども、だからと言って、日本に国旗、国歌など存在しないと考えている人はごく少数だろう。
 明治以来、国際的に認められていることは、まぎれもない事実だし、今回の世論調査でも、「日の丸」から受けるイメージとしてトップと二位を占めたのは「日本・日本人・祖国」「国旗・日本の象徴」だった。法律で定めていなくても慣習法的に国旗、国歌としている国もある。
 「かつての軍国主義の復活につながるのではないか」という反対論もまた、短絡的な考え方として戒めたい。
 確かに過去の戦争と深いかかわりがあったことは否定できない事実だし、反省も忘れてはならない。しかし、戦後四十数年間、私たちが培ってきた民主主義は、軍国主義の復活を許すほど脆弱(ぜいじゃく)なものではないと思う。
 むしろ、平和を願い、国際社会の中で信頼されることを目指すシンボルとしてとらえたい。学校では、当面、この点をより重視すべきだと思う。そうすれば、次世代にも自然に伝わっていくだろう。

 
 
 
 
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