日本財団 図書館


1989/04/27 読売新聞朝刊
[社説]なぜ、いま4年制高校なのか
 
 中央教育審議会が、五年半ぶりに再開された。高校教育の改革と生涯学習の基盤整備を中心課題にしている。
 諮問された内容を一読してまず気づかされるのは、高校の修業年限に踏み込んだ学制改革案が含まれていることだ。
 それに沿って、極めて具体的な提案を盛り込み、それぞれの当否を問う諮問の仕方にもなっている。ごく抽象的な課題を投げかけるにとどめてきたこれまでの諮問方式に比べ、大きく異なるところだ。
 いまの三年制高校のほかに四年制の高校の設置も認める。四年制には大学の一般教育を移すことも検討する。三年修了時の大学受験を認めるほか、四年生から大学二年次編入の道をさぐる。
 このほか、大学入学の年齢制限を緩和する(飛び級)とか、大学入試時期を繰り下げて、大学の入学時期を秋に移行することについても検討を求めている。
 これらはいずれも、画一的な学校教育に一石を投じる要素を持っている。個々に見れば悪くないと思われるものもある。
 だが、多くの国民の受け止め方は、なぜいま四年制高校なのか、というものではないだろうか。職業高校にとどまるにせよ、普通科にも広げるにせよ、どうしてもいま必要なものなのかどうか。このあたりはこれからの検討に待つほかない。
 ただ、そうした違和感を覚えるのは、今回の制度改革案が、高校と、大学の一部だけを対象にしているからだと思う。
 西岡文相は、かねてから熱心な学制改革論の持ち主として知られる。だが、臨時教育審議会の答申による教育改革が緒についたばかりのいま、大胆な提言は持ち出しにくい状況にある。自民党文教族の中にも異論が強いと言われる。
 そうした環境の中で、とりあえず高校を対象に検討を進め、これをきっかけに義務教育を含めた全面改革論議に結びつけようとしているように思われる。
 だが、学校の区切りをどうするかは、制度全体をにらんだうえで考えるのが本来の筋というものだろう。
 今回の諮問がわかりにくいのは、そうした大きな背景を持ちながら、高校の修業年限のみに手をつける形で問いかけたからかも知れない。それに、いま直ちに学制改革に乗り出す必要性に迫られているかどうかという問題もあろう。
 とは言っても、高校教育の見直しは避けて通れない。教育上のゆがみが高校段階に集中しているのは事実だからである。
 その意味で、諮問にちりばめてある学科制度の再編成、高校間の単位互換、幅広い選択のできる総合高校の奨励などは、現行制度の中でも可能なことだ。高専の充実を含めぜひ進めてほしいと思う。
 飛び級の導入や大学入試時期の繰り下げについては、いま実施に移すことの意味を探ると同時に、メリット、デメリットをじっくりと見極めることが必要だろう。
 そして、多くの国民の合意を得るために、審議の内容をできるかぎりオープンにすることを望みたい。

 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION