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1996/03/17 毎日新聞朝刊
[こどものプリズム]「ジェンダー・フリー」教育 性差別のない公平な社会を目指す
 
◇浸透はまだまだ?!
 ◇女子の夫婦別姓観は 語感のいい方選ぶ/ジャンケンで決める/子どもは自分の姓で
 短大進学の決まった十八歳の女子高生はさらりと言った。「語感のいい方の姓を選ぶわ」。性の違いによる社会的、文化的な差(ジェンダー)の不当な部分をなくし、男女公平な社会を目指すジェンダー・フリー。授業で教える学校は増えてきたが、夫婦別姓をうたう民法改正要綱案も絡まって、浸透はこれからだ。(編集委員・横田一)
 子どもの減少が進む東京都北区。児童二百三十二人の小規模校、区立十条台小は男女平等教育を始めて五年目になる。名簿は男女混ぜこぜの五十音順、背の低い順に並ぶ朝礼、班や体育のチーム編成、図工作品の展示、靴箱の配置など男女ミックスだ。話し合って体格のよい女子が組み体操で下になるのも“常識”。出席点呼は男女とも「さん」づけで読み上げ、子どもたちは「はーい、元気でーす!」と答える。五年生以下はその中で育ってきた。
 「さあ(男女混合が)どういいのか、よくわかんないナ」
 朝礼を終えた四年生の男の子は、質問に少し困った顔をした。
 渡部淳子校長は「それでも、以前は女子ばかりの代表委員会(児童会)の放送や保健の委員に男子が参加し始めている。むしろ『男子、元気ないな』と平気で言う教師の固定観念をぬぐう方がやっかい」と、無意識の刷り込み(隠れたカリキュラム)を指摘する。
 大阪府堺市。保健カードなど一部男女別を残しているものの、小学校九十、中学校四十、幼稚園十の全公立校園が混合名簿である。昔はランドセルの色を「男は紺・青、女は赤」と指定する学校もあったが、いまは自由。「しかし、入学時、なぜか色分けされている」(市教委)。親が決めるためだ。
 「一見あらゆる点で平等であるかに見える学校が、『男らしさ』『女らしさ』の性別役割分業メッセージを送り続けています」と東京都世田谷区立駒沢小の徳永恭子教諭は言う。先月の日教組教研全国集会(大阪)で、昨年の小学校国語に続いて五年生社会の教科書点検結果をグループ発表。掲載された写真、職種などに男性が多い。「女性は家事・消費者、『父のあとを継いで』『お父さんの教えで』といった家父長制が見られる。女性賃金の低さも触れているとは言えない」と批判する。
 こうした指摘を残したまま、民法改正要綱案は結婚に際し夫婦別姓を選べる道を盛り込んだ。生まれる子の姓を夫婦一方の名字にするようにも定めているが、子どもたちは混迷気味だ。
 私立高一男子「相手の名字が気に入れば、それにする。子どもも同じ。自分の姓にはこだわらないよ」
 公立中三女子「大人になって変わるかも知れないけど、名字が別々だったら、子どもは自分の姓ね。違ったら、私の子じゃないみたいでしょ?」
 私立高三女子「相手が好きでも、気に入らない名字なら別姓ね。そのとき子の姓は私の方に決まってるわ」
 都立高三女子「気分も新たに夫の姓で、って感じ。自分の名字は嫌い。しつこく私の姓でと言い張るなら、ジャンケンで決めるかな。折り合えないときは、面倒臭いから、結婚はヤメ!」
 深谷和子・東京学芸大教授(臨床心理学) 「男女七歳にして席を同じうせず」(礼記らいき)の教えが“おり”のように残っている。だから男性は、女性のやってきた洗濯・料理といった役割を担いたがらない。「男女平等」というと過激にとられて、日本ではあまりうまくいかないのですが、本来セクシーに魅了し合うべき男女の間で、こうしたステレオ・タイプは不幸です。性別にこだわり過ぎず、その人自身を見つめることから始めるべきでしょう。
 隠れたカリキュラム 教科書など正規のものとは別に、目に見えない形で子どもに影響を与えるカリキュラム。(1)他人の目を意識する集団生活(我慢)(2)暗黙のうちに受ける評価(称賛)(3)逆らいがたい不平等(教師の権力)――などを通じ、日本的な集団ルールなどが植え込まれるとされる。


 
 
 
 
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