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1992/03/09 毎日新聞朝刊
[社説]歴史事実を正しく教えたい
 
 「(平和教育としての)歴史教育は率直、かつ正直に、特に第二次世界大戦の前と戦中に実際に起こった事実について教えることに重点を置くべきである」
 四日から六日まで東京で開かれたアジア・太平洋地域教育フォーラムで、このような決議が採択された。
 日教組が二十四カ国・地域の教職員団体の代表三十九人を招いて開いたもので、日本からも二百三十人が参加、「子どもの人権」「平和」「地球環境の保護」について話し合った。
 こうした「人類共通の重要な課題」(大場昭寿・日教組委員長)についてアジア・太平洋地域の教師たちが一堂に集まって討議したのは初めてのことで、意義のあることといえよう。
 テーマごとに「行動計画」がまとめられたが、「平和」については、各国の歴史教科書を比較研究する委員会や平和教育の情報ネットワークの設置、教職員・子どもの交流促進などを決めた。その実現を期待したい。
 アジア・太平洋諸国と日本の関係史、とりわけ第二次大戦中のできごとについて、子どもたちに正しく教えることの大切さは、これまでも国内外から強く指摘されてきたことである。
 海部前首相は在任中、東南アジア訪問の際や日韓首脳会談で、正しい歴史を学校で教えることを明言したし、宮沢首相も先の日韓首脳会談の際、従軍慰安婦問題などを教科書で取り上げる必要性を記者団に語っている。
 社会党の“影の内閣”も昨年十一月、「日本の戦争責任を反省し、共生の歴史教育をめざすアピール」を発表、その中でアジア諸国の教師、研究者らによる「歴史教科書検討会議」や「アジア教科書センター」の設置、近現代史に重点を置いた歴史教育などを提案している。
 また経済同友会の教育問題委員会も昨年六月まとめた「『選択の教育』を目指して」という教育改革提言の中で「中・高校教育では近代・現代史を重視し、事実は事実として中立的・客観的に教えることが求められる」とし、アジア諸国と現代史教科書研究プロジェクトを設けることを提案している。
 文部省は海部発言のあと、新学習指導要領の講習会で、日韓の近現代史について「一層適切な指導を」と要請したが、教科書記述については「改める必要はない」としてきた。
 強制連行や従軍慰安婦、現地での日本軍の残酷行為などについてアジア各国から出ている「償い要求」に対し、政府はきちっと対応すると同時に、学校でも歴史的事実を、隠さず教えることに、文部省はためらわず、もっと積極的になるべきだろう。
 各界の提言に耳を傾け、教科書検定の姿勢を改めること、歴史授業で空白になっている「近現代史」の独立化なども検討してほしい。
 ドイツがナチスの残虐行為を深く反省し、それを歴史教育で徹底させることにより、世界の信頼を回復したことに学び、日本も実行することが「国際社会に名誉ある地位を占める」(憲法前文)最善の方法だろう。


 
 
 
 
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