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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/04/30 産経新聞東京朝刊
【三浦朱門の憲法講座】(上)米国は日本より民主化に遅れた
三浦朱門(作家)
 
(一)
 米国の民主主義や、基本的人権の確立は、日本より遅れたと言うと、そんなバカな、と笑う人が日本人にも米国人にもいようが、これは事実である。
 アメリカは州によって、ベトナム戦争(一九六一年−一九七五年)のころまで、アフリカ系国民は選挙権が事実上奪われる状態が存在した。また有色人種と白人の結婚を許可しないばかりでなく、性交しただけでリンチに合うことは、二十世紀になってもありえた。
 こういうことは、アメリカの南部を舞台にした小説を読むと、事件として語られることがある。
 私が昭和三十五年(一九六〇年)、アメリカに旅行した時、南部の大都市ニューオルリーンズでは、公共乗物であるバスで、白人席と黒人席が一枚の板によって仕切られていた。その板は黒人、白人の乗客の混みかたによって移動は可能ではあったが、区別されていたことは事実である。
 敗戦までの日本では朝鮮系の人は差別される存在ではあったが、彼らも日本人であったから、旧幕時代からの日本人と結婚を許可しない、といった法律はなかった。また国鉄の車輛で、植民地人といわゆる内地人との席や車輛を区別するという発想は、恐らく存在しなかったであろう。
 アメリカにそのような、人権無視、非民主的な制度が残っているころ、日本では大ブルジョアではあったが、庶民の娘が皇太子と結婚して、皇太子妃となられたのである。
 米国の民主化が完成するのは、一九六〇年代で、湾岸戦争の時、米軍の制服の最高の地位にあったのは黒人であった。ライトという黒人作家の小説で、黒人少年が大統領ごっこ、将軍ごっこをする場面がある。この作品が書かれた半世紀後に、黒人少年の架空の遊びは現実になったのだ。
 アメリカは日本より遅れて民主化した、と言って言えないことはない。
 
(二)
 しかしアメリカが二百年前からの民主主義国家という幻想を与えるのは、その憲法にある。そして州によっての基本的人権無視や非民主的制度・慣習も、民主的な手続きによって成立した。そもそもアメリカ憲法は国民の人権や民主的諸権利を与えるために作られたものではない。
 因(ちな)みにアメリカ合衆国というと、個々の民衆が一つの国を作った、という印象を与えるが、これは誤訳だとおもう。ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカというのは、文字通り訳せばアメリカ連邦である。州というと、一つの国の中の最大の行政単位といった印象を受けるが、本来ステイトの意味は国家である。
 アメリカが英国から独立した時、現在、十三州と呼ばれる地域はいずれも、独立の政府を持つ国家を志向した。しかし独立戦争の経過を通して、各地域は一つの連合体となるのが便利であり、今後のためには、より緊密な関係と組織を作りあげる必要を感じた。それが連邦政府であり、連邦政府成立の根拠となったのが憲法である。その事情は憲法前文に明らかだ。
 「われら連邦の国民は、ここにアメリカ連邦憲法を制定しこれを確認するものとする。この憲法の目的とするところは、連邦の一体性をより完全なものとし、法制を確立し、国内秩序を保ち、共同の防衛力を整え、人々の福利の増進を図り、われわれと子孫のために自由の恩恵を確保することである」
 
(三)
 連邦諸国とアメリカ連邦憲法は大文字になっているが、最初の連邦諸国にはアメリカという文字がついていない。それはこの憲法の制定によって、従来連合条項で結ばれていた連邦が、アメリカ連邦になったのだと、私は解釈する。
 つまり今までの独立戦争のための同盟では、これから先不安だから、もっと関係を密にしよう、という配慮からであって、その事情はEEC(欧州経済共同体)からEC(欧州共同体)さらに今のEU(欧州連合)になっていった事情と似た要素が感じられる。
 EUの成立に際しても、英国など加盟にためらった国があったように、米国の場合でも、ロードアイランド州などは、加盟についての戸惑いがあった。つまり連邦政府の成立によって、国(州)の独立性が失われることへの反撥があった。南北戦争当時、南部は南部連合と呼ばれるが、この場合に、憲法成立以前の「連合」という単語が使われているのは興味深い。
 アメリカ憲法は、本来、連邦を組織するために、十三ヵ国が交わした外交条約文書であったのだ。
 
◇三浦 朱門(みうら しゅもん)
1926年生まれ。
東京大学卒業。
小説家、元文化庁長官。


 
 
 
 
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