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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/12/31 産経新聞朝刊
【正論】いま一番必要な改革は
長谷川三千子(埼玉大学教授)
 
◆改正の気配ない憲法
 三年前、「政治改革」なるものが行はれ、ついでいま「行政改革」が行はれつつあるのに、それらの総元締めとも言ふべき憲法については一向に改正の気配がない。これは可笑しなことである−−先日、ある人がかう語るのを耳にした。まことにもつともな指摘である。
 実際にはむしろ、「政治改革」も「行政改革」も、日本国憲法といふものを疑ふ余地のない大前提として、その上で論じられてきたと言へる。たとへば「政治改革」においても、その争点の一つは、選挙区間格差が憲法第十四条に違反するのではないかといふ問題であつたし、今回の「行政改革」についても、憲法の国民主権主義をもち出して、「主権者である国民がいかに行政なり官庁をコントロールできる仕組みをつくるか」が主目的となるべきだ、などと主張する人がある。かういふ人々にとつては、日本国憲法はただひたすら、「改革」の目的と基準を与へてくれる金科玉条なのであつて、憲法それ自体が改革の対象となりうるなどといふ発想は、夢にも思ひうかばないのであらう。
 しかし、事柄それ自体をよく考へてみれば、いまの日本においてもつとも根本的な改革が必要なのは、日本国憲法そのものである。しかもそれは、単に五十年たつて時代に合はなくなつてきたから、などといふことではない。もつとはるかに根本的かつ重大な理由によつて、日本国憲法は改正を必要としてゐるのである。
 
◆「不正行為」による制定
 まづその第一の理由は、それが不正に作られたものだといふことである。日本国憲法は、日本を軍事占領中の旧敵国の軍人及び軍属が草案を起草したものであり、連合国軍総司令部が、それを日本政府に「政府案」といつはらせ、審議させ、制定させたものである。このやうな行為は、既存のどのやうな国際法によつても正当化されえず、またポツダム宣言もそれを合法化する根拠とはなりえない。よく耳にするのが「憲法は内容さへよければ、制定事情にこだはることはない」といふ言ひ方であるが、これはもはや「制定事情」などといふ穏やかな言葉に収まる事柄ではない。これは端的な「不正行為」である。そして、日本国憲法がわが国の「最高法規」であるといふことを思ひおこせば、これは文字通りの悪い冗談と言ふほかはない。つまり、わが国の「最高法規」は「不正行為」によつて出来上つたものなのである。
 このこと一つを取り上げてみても、日本国憲法が即刻改正されるべきものであることは明らかであるが、そこで重要なのは、ではその内容をどう改正すべきか、といふことである。実は、日本国憲法は「内容さへよければ」どころではない、まさに内容に問題がある。なかでも最大の問題点が、(さきにも登場した)日本国憲法の基本原理である「国民主権主義」なのである。
 このやうに言ふと、唖然とする方も多いことであらう。憲法改正に賛成する人々でさへも「国民主権」の原理には問題がないと考へる人が多い。たしかに、一見するとこれはただ〈国民が自らその国の政治を決めてゆく力をもつ〉といふことであり、これほど当然の原理はないと思はれる。ところが、実はこれは単にそれだけではない、或るはつきりとした「闘争的」イデオロギーに基づいて出来上つてゐる原理なのである。
 
◆国家を分裂させる原理
 たとへば、戦後、法学部学生たちに教科書として広く読まれた佐藤功氏の『日本国憲法概説』によれば、これは「何よりも君主主権に対抗し、それに勝利を占めた国民の主権を意味」するものであり、「この意味で闘争的な概念なのである」といふ。すなはち言ひかへれば、この「国民主権」を原理として掲げるかぎり、わが国では「上も下も心を通はせ合ひ、協力一致して事を行ふ」などといふ仕方で国政を行つてはならない、といふことなのである。具体的に言へば、「国民」は決して行政や官庁、官僚を信用してはならず、〈どうやつたら彼らがよりよい仕事をするやうになるか〉ではなしに、〈どうやつたら彼らのもつ力を奪ひ去ることができるか〉を常に考へつづけなければいけない。国会議員を選ぶにしても、〈この国全体をよくしてゆく力のある人〉などといふ基準で選んではいけないので、ただひたすら〈国民の声を忠実に反映する人〉を選ぶやうにしなければいけない−−これが「国民主権主義」といふものなのである。そして、あらためてふり返つてみると、昨今の日本の国政がいかに忠実に「国民主権主義」にもとづいてゐるかがさとられるであらう。
 もちろん、日本国憲法の抱へる問題点はこれだけではない。たとへば第九条などは一項と二項が互ひに矛盾しあつてゐるといふ、明らかな欠陥条項であり、その他にも、第二十条をはじめとして、問題のある条項が数多く見出される。しかし、憲法改正は、それらの手直しで済む問題ではない。
 いま、誰の目にも明らかなとほり、日本は大きな国難の時期にさしかかつてゐる。そして、さういふ時期に何より大切なことは、内輪もめをせず、皆で力を合はせて難局を乗り切つてゆかうとする態度である。ところが、ほかならぬ日本国憲法の基本原理がそれを禁じてゐるのである。それを思ふと、いまの日本がもつとも緊急に必要としてゐるのは日本国憲法の改正−−それも本当の根本的な改正−−であると言へよう。
 
◇長谷川 三千子(はせがわ みちこ)
1946年生まれ。
東京大学大学院修了。
現在、埼玉大学教授。


 
 
 
 
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