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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/04/29 産経新聞朝刊
【正論】まず九条以外の改憲論議を
小林節(慶応義塾大学教授ハーバード大学研究員)
 
◆必要なのに進まぬ改憲
 今年の五月三日で、日本国憲法が施行されてから五十年になる。
 私たち国民が自由で豊かで平和な生活を送るためのいわばサービス機関として国家があり、その国家を国民が主権者として管理するための指令書として憲法がある。もちろん憲法も、特定の人々が特定の時代状況の中で作ったものである以上、制定時の予測を超えたその後の社会情勢の変化により道具として不十分な点が出てきて当然で、だから初めから改正手続(九十六条)が用意されている。
 現に、行政権力の強大化に対する最も有効な監視手段として最近の地方政治で食糧費の問題等で大きな成果を挙げている情報公開制度を国家レベルでも採用させようとしても、実はそれを国に強制する根拠となる憲法条文がないために、これまでそれは常に「先送り」にされてきた。また、ようやく政府から出てきた原案も「骨抜き」だとの批判を免れない。しかし、憲法を改正して、主権者・国民の「知る権利」を条文の中に明記してしまえば政府にはまともな情報公開制度を作る義務が生じるので、この問題は解決する。
 国と地方自治体の二重構造に由来する無駄を排しかつ国民の必要に木目(きめ)細かく対応する政治と行政を求めて、地方分権が盛んに論じられてきたが、それも実は、要するに「国が承認した範囲内で地方は自治権を享受できる」と書いてある現行憲法九十二条の下では国が権限を手放そうとしないため、一向に実現しそうにない。しかし、この点も憲法を改正して国の権限を弱めれば簡単に解決がつく。
 このように、国民生活の向上を目指して国家の仕組みを改善するという意味での改憲は明らかに必要であるにもかかわらず、現実には改憲の作業が進みそうには見えない。
 
◆熟していない国民世論
 このふたつの他にも改憲の課題は沢山ある。例えば、現在では経費の割には役に立っていないと言われる参議院だが、それを改善するためにこの際、参院を廃止するにしろ、あるいは、真の「良識」の府にすべく各分野からの推薦で議員を選ぶことにするにしろ、いずれにしても現憲法の改正が必要である。また、阪神大震災のような不測の大惨事には、一時的に総理大臣に国家の権限を集中して国の総力を挙げて迅速に対応することが必要であるが、そのためには、集団指導型の内閣制度を定めた現行憲法の改正が必要になる。
 このように改憲の必要性は明白である。にもかかわらず、現実には、改憲提案が近い将来の政治日程に載りそうな気配はまったくない。それは、それを具体的な日程に入れない政治家たちが悪いというよりも、それをさせない「空気」が広く国民世論の中に根付いていることに原因がある。
 そういう意味では、近年、改憲論議がようやくタブーではなくなったとはいえ、改憲を求める国民世論は未だ熟していないと言えよう。そして、この空気は次のふたつの要素から成り立っていると思われる。つまり、第一が、国民世論の中にある「無関係」意識で、第二が、特に護憲派の中に根強い、改憲に対する「被害者」意識である。それらは、私たちの日常生活の向上には憲法など関係ない・・・という意識と、改憲によってわが国は再び軍国主義国家に逆戻りする・・・という恐怖感情である。
 
◆政治、行政改革の先行を
 しかし、上述のような改憲が行われた場合には、わが国の政治の機能が高まり、その政治が決定したことを実行する行政の内容も改善されるわけで、それが私たちの日常生活の向上に直結することは明白である。また、第二次世界大戦で敗北を経験した後五十年以上も自由で豊かで平和な生活を送ってきた私たちが上述のような改憲を行ったところで軍国主義国家に戻ったりしようがないことも自明である。
 もっとも、従来から改憲派が改憲論議の主たる対象にしてきた二章(戦争の放棄)は、事柄の性質上、その改正の内容次第ではわが国が再び軍国主義国家になり得る危険性を孕(はら)んではいる。そしてそこが、改憲に関して国民世論を分裂させ改憲に向けた国民的合意が未だ形成されていない原因であり、このように世論の中に改憲に対する強い警戒感と反発が存在しているという事実は無視できるものではない。そして、この点については、むしろ、私自身を含む従来からの改憲派はこれまでの自らの議論の立て方について虚心に反省すべきなのではなかろうか。だから今、世論が先鋭に対立してしまっている九条の問題は敢えて棚上げにして、まずはそれ以外の論点についての改憲論議を含む政治・行政改革を先行させてみてはどうだろうか。
 そして、それらの改革を先に成就させてわが国の議会制民主主義の機能を高めてから、改めて、自衛隊や国連協力といった高度で複雑な問題について、冷静で公正な議論を経たうえで、質の高い国民的合意を形成したらよい。特にこれらの問題はわが国の在り方の根本にかかわるものである以上、慌てて処理すべきものではないし、また、慌ててどうなる問題でもない。(こばやし せつ)
 
◇小林 節(こばやし せつ)
1949年生まれ。
慶応義塾大学大学院修了。法学博士。
ミシガン大学研究員、ハーバード大学研究員を経て、現在、慶応義塾大学法学部教授、弁護士。


 
 
 
 
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