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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/10/05 産経新聞朝刊
【正論】地方分権に必要な憲法改正 真の地方自治確立のために
小林節(慶応義塾大学教授)
 
◆政治より身近なものに
 政治改革と行政改革の一環として、最近、地方自治を強化するために地方分権を進めよう…という議論が盛んである。この地方分権の推進は、連立政権の与党全てに共通する公約であり、細川首相の年来の持論でもある。
 確かに、この地方自治の強化には、さまざまな意義と長所がある。まず、第一に、行政に対する国民の要求には当然に地域差があるはずだが、地方自治を強化することにより、これまでのような国による画一的な行政サーヴィスを改め、地域住民の個性に対応した木目(きめ)の細(こま)かい行政が可能になる。
 また、第二に、これまでの中央集権型の統治構造のために強大な権力を抱え込んでいる国は、それだけ多くの仕事を処理しなければならず、それもあって、永田町はもはやさまざまに機能不全を起こしており、その結果、国会は真に有効に行政省庁を統制し得てはいない。
 そこで、地方自治体へ多くの権限を移管すれば、国会は、外交、防衛、司法制度、通貨、金融、等の、国家としての基本的な政策の検討に力を集中し有効に機能することができるであろう。
 さらに、第三に、これまでの形骸化した代議政治の下で、いつの間にか政治が遠い存在になってしまっている主権者・国民大衆にとって、自分達の日常生活に直結する権限が身近な地方自治体に移って来れば、それだけ政治が身近なものになり、その結果、私達が久しく忘れていた主権者としての責任感を回復し、国民が政治に主体的に参加するようになり、それが、結局は政治の質を向上させていくことに繋がるのではないか…と期待されてもいる。
 だから、地方分権の推進は良いことである。
 
◆現憲法下の自治に限界
 ところが、実際に地方自治を強化しようとした場合、現行の日本国憲法がその障害になることは、案外、知られていない。
 まず、現行の日本国憲法は、その九二条で、地方自治について、要するに次のように定めている。つまり、「実際の地方自治制度は、地方自治の本旨に適うように、国が法律で定める」。そして、その意味の決め手になる『地方自治の本旨』とは、一般に、次のように理解されている。つまり、「それぞれの地方に特有な行政課題については、国は介入せず、それぞれの地方の住民の意向に従って、住民の代表である地方自治体が処理する」というのがその意味で、これが、日本国憲法が定めた地方自治の大原則だと言われている。
 このように、各地に特有な行政課題については、国は介入せず、地方住民が民主的手続きによって処理するのが地方自治だ…というわけで、それ自体は決して悪い考えではない。というよりも、明らかに良い考えである。
 しかし、実際には、このような原則の下では、同時に、地方自治を事実上全面的に否定することさえ可能なのである。つまり、現実には、まず、日本国の「ひとつ」のその同じ領土の上に全ての地方自治体が存在している。また、全ての自治体の住民は同時に日本国の住民でもある。だから、その結果、実際には、いかなる行政課題も、それが「日本国の」地方自治体内での課題である以上、必ず、それは日本国の課題でもある…と言い得る。例えば、教育、農林水産業、運輸、等のどの行政課題をとってみても、それらは皆、各地方の問題であると同時に、紛れもなく、日本国の問題でもある。
 従って、現行の日本国憲法の下では、地方分権の強化という大号令の下に地方分権基本法などを制定していかに地方自治体に権限を移譲しようとしても、必ず、それに対して国が介入する権限を留保できてしまうのである。
 しかし、それでは真の地方自治ではない。それに、実際問題として、これまで強大な権限を担ってきた中央省庁が、この憲法の下ではこのように地方自治に対する介入権を正々堂々と主張できるようになっている以上、これまで享受してきた権限を容易に手放すはずもない。
 
◆改憲で自治権の具体化を
 だから、地方分権を真に実現しようと思うならば、現行の憲法を改正して、例えば、皇室の運営、外交、国防、警察、郵便、通貨、金融、経済政策、関税、公正取引の確保、行政監察、司法(裁判)、検察、医師・弁護士などの国家資格の管理、特許などの知的所有権の管理、および、それらの権限の行使に必要な立法権と財政権限のみを国の権限とし、その他の行政課題については立法・財政ともに地方自治体の権限とする…とでもして、国と地方の権限配分を憲法の条文の中に具体的に書いてしまわない限り、真の地方自治の確立はむずかしい。
 このように、地方自治の推進の問題も、最近ようやくタブーではなくなってきた憲法改正論議の重要な論点のひとつとして、改めて検討されなければならない。もちろん、地方分権の問題がこのような性質のものだと分かったからといって、議論を急にトーン・ダウンさせてよいものではない。
 
◇小林 節(こばやし せつ)
1949年生まれ。
慶応義塾大学大学院修了。法学博士。
ミシガン大学研究員、ハーバード大学研究員を経て、現在、慶応義塾大学法学部教授、弁護士。


 
 
 
 
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