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2003/10/17 産経新聞東京朝刊
【社説検証】(下)憲法改正 解説
 
■産・読は「前進」と評価/朝・毎は首相指示を批判
 小泉純一郎首相が八月下旬、自民党に憲法改正案のとりまとめを結党五十周年となる平成十七年十一月までに指示したことで、憲法を取り巻く状況は大きく変わろうとしている。
 改憲案の取りまとめの時期を明示した首相は初めてであり、昭和二十二年五月の憲法施行以来、改憲が政治日程にのぼる可能性が出てきたからだ。これへの論調は、反発する朝日、毎日と、支持する産経、読売に二分されている。
 激しく反発するのは、護憲の朝日である。朝日が批判を強めるのは、小泉首相の主眼が九条の改正にあるとみているからだ。憲法問題の核心は九条改正であり、朝日は平成七年五月の「提言(国際協力と憲法)」で「理想先取りの九条は改定の要なし」との見解を示した。
 今年五月三日の「憲法の精神」として掲げた「自ら『戦争をしない』だけでなく、どの国にも『戦争をさせない』」という社説も、伝統的な反戦主義に貫かれている。
 それだけに小泉首相の改憲姿勢に対する反発は強く、「首相の姿勢は余りに軽い」(8月27日)と断じ、九条改正によって「自衛隊がイラク戦争のような軍事行動に加わることに道を開く」と批判している。
 次いで批判的な立場を示すのは、論憲を掲げる毎日であり、首相の指示に対し、「無責任な態度さえ感じられる」(8月27日)と論じる。
 毎日の論憲は、「改正を全否定しない」(昨年11月2日)との立場で、部分的改正と受け止められる。ただ、改憲案の指示には、「国論を二分するような論議に首をかしげる人々も多い」(8月27日)と、慎重論を唱えており、スタンスははっきりしない。
 もっとも早くから改憲を訴えている産経は、首相指示を「大きな前進」(8月27日)と評価する。産経は、憲法規定と現実との乖離(かいり)が広がる中、その場しのぎの対応を積み重ねている憲法解釈は欺瞞(ぎまん)として、その変革が急務との立場だ。
 改憲案を示している読売は、「首相の決断を支持したい」(8月27日)と歓迎する。
 平成六年十一月に発表された読売憲法改正試案は、現行憲法の歴史的役割を評価しながら、内外の情勢変化に応じた国の新たな規範を求めており、六年後、「自衛のための軍隊」明記などが追加された。それだけに憲法前文はいつまで、改正案全文はいつまでと改憲の工程表作りを急ぐよう求めているのが特徴だ。
 憲法改正の発議は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で可能となり、国民の過半数の賛成で改正となる。自民党の改憲案に対し、各党が対案を示して論点が収斂されていくことで、改正手続きは進むが、問題は国民がどう判断するかである。産経が、小泉首相に対し、憲法見直しの必要性を国民に率直かつ包括的に訴えるよう求めるゆえんである。
 九条改正を軸に論調は真っ二つだが、「論じ合うのは大切」(朝日、8月15日)では一致している。憲法が想定していなかった国際社会の共同行動などの新たな事態を日本がどう乗り越えていくのかの論議の深まりを期待したい。(中静敬一郎)
 
【憲法第九条】
 (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


 
 
 
 
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