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1997/02/17 産経新聞朝刊
【教科書が教えない歴史】(228)日本国憲法(12)
 
 皆さんは日本国憲法の第九条を読んだことがありますか。そこには有名な「戦争放棄」の条項があり、そのため日本国憲法は「平和憲法」とも呼ばれています。
 (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は永久にこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない
 これを読むと(1)と(2)の二つの部分に分かれていることがわかります。そこで(1)の部分と(2)の部分に分けてその意味を考えてみましょう。
 (1)の部分の「国権」というのは、国の主権という意味です。今日でも、侵略戦争以外の「戦争」は「国の主権の発動」として認められています。しかし、憲法九条では、国の「戦争主権」が制限されているのです。
 日本のように、戦争主権を制限する憲法は一九四七年(昭和二十二年)に制定されたイタリア憲法にも見られます。その第一一条には「イタリア国は、他国民の自由を侵害する手段として、および国際紛争を解決する手段として、戦争を否認し・・・」とあります。
 衆院本会議での憲法案審議では、日本共産党の野坂参三=写真=が、「戦争には侵略戦争と防衛戦争があり、憲法案では、戦争一般の放棄となっているが、これを侵略戦争の放棄とするのが的確ではないか」として修正提案を行いました。
 この野坂の提案に対して、当時の首相、吉田茂(自由党)は「このような防衛戦争(自衛戦争)を認めることが有害である」「近年の戦争は多くは国家防衛の名において行われた」「故に正当防衛権を認めることが戦争を誘発するゆえんである」と答え、修正には応じませんでした。
 一方、(2)の「戦力を保持しない」「交戦権は認めない」という規定は世界に例がない特別なものです。どうしてこのような、世界に例のない特別な条項が憲法に盛り込まれることになったのでしょうか。実はこれは、当時連合国軍総司令官だったマッカーサー元帥の発案だったことが明らかになってきました。
 マッカーサーはどのような意図でこのような憲法の原則を提示したのでしょうか。実は、侵略戦争を行ったとされる日本に対する「懲罰」として、日本を「非武装化」することが、占領軍の当初からの目標でした。日本国憲法の九条二項は、この占領目的に合うものだったのです。
 ところで、(2)には「前項の目的を達成するため」という言葉が入っています。この言葉は憲法の原案にはありませんでした。いつ、どこでこの言葉が入れられたのでしょうか。
 一九四六年(昭和二十一年)、日本国憲法案を審議するため芦田均を委員長とする小委員会が設置されました。「前項の目的を達成するため」という言葉は、この小委員会の最後に芦田によってまとめられた憲法案の中に入れられたもので「芦田修正」と呼ばれています。
 芦田は後に「この修正によって自衛のための戦争や軍備は放棄しないという解釈が可能となったのだ」と語っています。これは自衛隊合憲論の有力な根拠となりました。しかし、政府はそのような考え方はとらず、国家の自衛権を根拠として自衛のために必要な武力は保持できるとしています。


 
 
 
 
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