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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/12/22 読売新聞朝刊
憲法調査会スタートから1年 21世紀見据え序論=特集
 
 憲法をめぐる論議をタブーにとらわれずに進める狙いで、衆参両院に憲法調査会が創設されて一年がたとうとしている。調査期間は五年とされており、今年の議論は「序論」にあたる。二十一世紀を見据え、両調査会は何を主な論点にどういう意見を交わしてきたのか。この一年の論議を整理してみた。
 
◆2004年めどに報告書
 衆参両院の憲法調査会は通常国会召集日の二〇〇〇年一月二十日、国会の正式な機関として設置された。鳩山内閣が一九五六年に設けた政府の憲法調査会は当時第二党の社会党に参加を拒まれたが、今回の調査会には全党派が参加した。
 衆院では、今年前半は「現行憲法の制定経緯」、後半は「二十一世紀の日本のあるべき姿」をテーマに学者、ジャーナリストらから意見を聞き、「過去」と「未来」の双方向から憲法問題にアプローチした。参院では学者などを招いた参考人聴取のほか、憲法のたたき台となったマッカーサー草案作りに関与した元連合国軍総司令部(GHQ)民政局員や大学生・大学院生などの若い世代からも意見を聞いた。
 二〇〇一年は、衆参両院ともに四月以降に地方公聴会を予定。また、衆院は安全保障、統治機構など、参院は国民主権、国の機構など個別テーマごとの調査を予定している。両調査会は二〇〇四年をめどに報告書をまとめる運びだが、作業の前倒しを求める意見もある。
 
◆「九条二項」巡り白熱 「あいまい」指摘相次ぐ
 憲法論議の最大の争点とされてきた「九条問題」では、自衛のための武力の保持をめぐって解釈が分かれる第二項(「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」)について、参考人から「相当あいまいな文章であり、国際社会の現実を無視した条項だ」(田中明彦東大大学院教授)などの指摘が相次いだ。「二項は削除するか、自衛のための武力行使を(明文で)容認するなどの改正を検討すべきだ」(五百旗頭真神戸大大学院教授)といった具体的な提案もあった。
 一方で、「日本は良心的軍事拒否国家として戦争と軍備を否定すべきだ」(作家の小田実氏)、「九条は全面的な戦争放棄、戦力不保持を公権力に命じている」(小林武南山大教授)などの改正反対論も見られた。
 各党委員の意見も、自民、自由、保守各党が「九条二項の改正が必要だ」(自民党・葉梨信行氏)といった改正必要論、共産、社民両党は「二項は恒久平和主義を徹底しており、憲法の原則の中で最も大事だ」(共産党・春名ナオ章氏)などの改正反対論を訴え、対立した。「九条二項について議論すべきだ」(島聡氏)と「論憲」の必要性を認める民主党は、「九条が自衛権の行使を認めているのであれば、解釈で対応するのではなく、改正するのが筋だ」(樽床伸二氏)、「自衛隊の合憲、違憲の議論が続いているが、わかりやすい憲法に改正すべきだ」(吉田之久氏)といった意見が目立った。
 集団的自衛権や北東アジアの集団安全保障などについての意見表明もあったが、九条問題も絡めての深まりのある議論は来年以降に持ち越された。
 
◆「憲法裁判所」も検討を
 日本の裁判所が違憲審査に消極的な現状を踏まえ、憲法判断のための「憲法裁判所」についても論議された。
 衆院憲法調査会の五月の意見聴取では、最高裁事務総局の千葉勝美行政局長が「裁判所は、具体的な事件を離れて抽象的に、法律、命令などが憲法に適合するかどうかを決定する権限はない」と述べた。これに対し、委員からは「違憲、合憲を判断しないため国民のフラストレーションがたまる」(民主党・仙谷由人氏)といった厳しい意見が出された。
 ただ、具体的な解決策については、自民党の保岡興治氏が「ドイツ連邦憲法裁判所のような違憲審査制を日本も検討する必要がある」と改憲も視野に入れた主張を展開したのに対し、共産党の佐々木陸海氏は「最高裁判所が(憲法判断を避ける理論である)統治行為論に逃げるのでなく、きちんと判断することが必要だ」と運用の手直しを訴えるなど、見解が分かれた。
 また、九月に欧州を訪問した衆院憲法調査会の調査団は、ドイツ連邦憲法裁判所の実態などを調査し、今後の論議に反映させるための報告書をまとめた。
 
◆「押しつけ」論に区切り
 憲法論議の出発点として、今年前半の憲法調査会では、日本国憲法が米国からの「押しつけ憲法」だったかどうかが大きな論点となった。
 衆院憲法調査会の参考人聴取では「強烈な押しつけがあり、日本政府側は何とか日本を救うためにある程度積極的に受け入れた」(北岡伸一東大教授)などの押しつけを認める意見が多く、「国会は憲法を歴史的に否定すべきだ」(石原慎太郎東京都知事)との主張もあった。これに対し、五月の参院憲法調査会での参考人聴取に応じた元連合国軍総司令部(GHQ)民政局員のベアテ・シロタ・ゴードン氏らは押しつけを否定した。
 ただ、「押しつけ」があったとしてもそれを理由に改憲すべきだとの意見は少なく、衆院憲法調査会の参考人聴取でも「今の憲法をどう評価するかは別問題だ」(西修駒沢大教授)との見解が多数を占めた。
 調査会委員側でも、「内容さえ良ければ押しつけでも構わないという意見には賛成できない」(自民党・中川昭一氏)との指摘もあったが、「法的追認のような形で定着した」(自民党・石破茂氏)などとして、「押しつけ」論に区切りをつけて議論を前に進めようとの意見が多かった。
 
◆参院改革求める
 参院憲法調査会の審議が実質的にスタートした二月十六日、委員からは「参院の独自性の発揮、存在意義を調査会の場で明らかにすべきだ」(自民党・久世公堯氏)、「参院不要論や二院制のあり方から入ることも必要」(公明党・大森礼子氏)などと参院改革を訴える声が相次いだ。
 また、十一月二十七日の同調査会では、参考人の内田健三氏(評論家)が「衆参両院は何のためにあるのか。参院とは何か。もっと議論があってしかるべきだ」と問題提起した。これに対し、二院クラブの佐藤道夫氏は、参院の存在意義について「衆院の行き過ぎをたしなめる、誤りを正す、足らざるを補う」と定義したうえで、「選挙で(参院議員を)選ぶという憲法の規定を再考する余地が大いにある」と訴え、衆院とは異なる選出方法で参院を構成するための憲法改正の必要性に言及した。
 衆院憲法調査会でも「二院制を否定しないが、両方が補完しあっているとは言い切れない」(自民党・森山真弓氏)、「二院制は陳腐化している」(自由党・達増拓也氏)など現状の二院制に対する疑問の声が出た。
 
◆「首相公選」に賛否
 衆院憲法調査会では、国民が直接投票で首相を選ぶ「首相公選制」をめぐる論議も目立った。
 参考人として出席した松本健一麗沢大教授は、政治に対する国民の無関心が危機的状況にあるとの認識を示し、政治への関心を回復するため重要な課題については「国民投票制」を導入すべきだと強調した。そのうえで「国民が自分たちで選んだ指導者だから、その判断に対して国民が責任を持つ。首相公選も考えに入れるべきだ」と述べた。
 また、石原慎太郎東京都知事も「首相公選制の方が国民のコミットメント(関与)の意識を育てる。まず、行政のトップに立つ総理大臣を国民が選ぶのは現代ではごくごく妥当な方法だ」と指摘した。
 各党委員からは「首相公選論は国民から比較的理解の得られる問題ではないか」(自民党・小泉純一郎氏)、「首相公選制の方が二十一世紀の速いスピードの時代には望ましい」(民主党・島聡氏)といった前向きの意見が出る一方、「一時の熱狂的な感情が思わぬリーダーを選ぶことは往々にしてある」(保守党・小池百合子氏)などと、衆愚政治やポピュリズム(大衆迎合主義)に陥る危険性を指摘する意見も表明された。
 
【改正手続き】
 憲法には改正手続きを定めた条項(九六条)があるが、衆参各院の総議員の三分の二以上が賛成し、そのうえで国民投票で過半数の賛成が必要というハードルの高い内容となっている。このため、参考人の佐々木毅東大教授は「厳格な手続き論をかざして改正の発議を抑え込むのは、(改正を求める)国民との間にギャップを生みかねない」として手続きの緩和を主張した。
 委員からも「憲法改正に対する国民投票法をつくる」(自民党・石破茂氏)など、改正作業を具体的日程にのせるための環境整備を求める提言が出された。
 
【環境権】
 憲法制定当時は想定されなかった新たな概念として、調査会では「環境権」が多くの委員から問題提起された。「世界をリードする環境立国の理念を憲法に明記すべきだ」(自民党・三塚博氏)などの観点から、地球環境保護に関する国民の権利と義務を憲法に盛り込むことを目指すものだ。
 しかし、護憲を主張する共産、社民両党からは「憲法改正の『入り口』として使われている」「個別法で対応すべきで、憲法に欠陥があるというのはおかしい」などの否定的な意見も出された。
 
《憲法を巡る2000年の主な動き》(肩書は当時)
 
1月20日 衆参両院が憲法調査会を設置。衆院は中山太郎氏(自民、参院は村上正邦氏(自民)を会長に互選
2月16日 参院調査会で実質論議始まる。主要論点、議論の進め方について自由討議
2月17日 衆院調査会で実質論議始まる。自民、民主、公明、自由、共産、社民の6党代表が憲法論議に臨む見解を表明
2月24日 衆院調査会参考人聴取(西修駒沢大教授、青山武憲日大教授)
3月3日 参院調査会で議論の進め方と主要論点について自由討議
3月9日 衆院調査会参考人聴取(古関彰一独協大教授、村田晃嗣広島大助教授)
3月22日 参院調査会参考人聴取(西尾幹二電気通信大教授、正村公宏専修大教授)
3月23日 衆院調査会参考人聴取(長谷川正安名古屋大名誉教授、高橋正俊香川大教授)
4月5日 参院調査会で、大学生、大学院生20人を参考人として招き、若い世代の憲法観を聴取
4月6日 衆院調査会参考人聴取(北岡伸一東大教授、進藤栄一筑波大教授)
4月15日 読売新聞社の世論調査で憲法を「改正する方がよい」が過去最高の60%にのぼり、「改正しない方がよい」は27%と初めて3割を切る
4月19日 参院調査会自由討議自民党憲法調査会が、9条見直しや環境権創設などを盛り込んだ独自の憲法草案作りの基本方針をまとめる
4月20日 衆院調査会参考人聴取(五百旗頭真神戸大大学院教授、天川晃横浜国大大学院教授)
4月27日 衆院調査会で委員全員による初の自由討議
5月2日 参院調査会参考人聴取(元連合国軍総司令部民政局員のベアテ・シロタ・ゴードン元調査専門官、リチャード・A・プール元海軍少尉)
5月11日 衆院調査会自由討議
5月17日 参院調査会参考人聴取(石毛直道国立民族学博物館館長、暉峻淑子埼玉大名誉教授)
5月25日 衆院調査会で最高裁の千葉勝美行政局長から戦後の違憲判決について説明を聴取
8月3日 衆院調査会で今後の進め方について自由討議
9月10―19日 衆院調査会欧州調査団がドイツ、スイス、イタリア、フランスの4か国視察
9月28日 衆院調査会参考人聴取(田中明彦東大大学院教授、作家の小田実氏)
10月12日 衆院調査会参考人聴取(作家の曽野綾子氏、近藤大博日大大学院教授)
10月26日 衆院調査会参考人聴取(市村真一国際東アジア研究センター所長)
11月4日 公明党が党大会で、9条の堅持を確認するとともに、10年以内に憲法改正について具体案をまとめる方針を打ち出す
11月9日 衆院調査会参考人聴取(佐々木毅東大教授、小林武南山大教授)
11月10日 民主党憲法調査会が「総論」「統治制度」「国際・安保」「人権」「分権」の5作業部会設置
11月15日 参院調査会参考人聴取(評論家の西部邁氏、評論家の佐高信氏)
11月27日 参院調査会参考人聴取(加藤周一・元上智大教授、評論家の内田健三氏)
11月30日 衆院調査会参考人聴取(石原慎太郎東京都知事、ジャーナリストの櫻井よしこ氏)
12月7日 衆院調査会参考人聴取(松本健一麗沢大教授、渡部昇一上智大教授)
12月13日 自由党が国連主導の集団安全保障に積極的に参加することなどを盛り込んだ「新しい憲法を創る基本方針」を了承
12月21日 衆院調査会参考人聴取(村上陽一郎国際基督教大教授)


 
 
 
 
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