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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/05/03 読売新聞朝刊
[社説]憲法前文を読み直してみよう
 
 「われらモノマネは……」と題して、タイム誌の一九四六年三月十八日号は日本国憲法政府草案を論評した。三月六日に発表された政府草案が、アメリカ憲法その他の文書をマネたかのような内容であることを揶揄(やゆ)したものだ。
 現行憲法の原文となっているマッカーサー草案を学校英語風に翻訳すれば、前文の冒頭は、「われら日本国民は……」で始まっている。アメリカ憲法前文の冒頭「われら合衆国国民は……」と同じだ。
 
◆歴史的な文書のはり合わせ
 それだけではない。冒頭の文章は、「われらとわれらの子孫のために……自由のもたらす恵沢を確保し……この憲法を確定する」という言い回しまで、アメリカ憲法前文とよく似ている。
 現行憲法の前文が、アメリカにかかわる政治的有名文書の寄せ集めであることについては、その後、アメリカの政治学者が、六項目の対照表を作っている。
 その表では、「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去……」という部分は米英ソ三国首脳によるテヘラン宣言と対比されている。「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ……」という表現は、米英首脳会談後に発表された「大西洋憲章」と比べられている。
 「日本国民は、国家の名誉にかけ……誓ふ」という前文の締めくくりは、「われらの神聖な名誉にかけ……誓う」というアメリカ独立宣言の最後の部分と同様であることも指摘されている。
 その他、「人民の、人民による、人民のための政府」という文言で知られるリンカーンのゲティスバーグ演説、連合国軍総司令部(GHQ)の憲法草案作成作業に先立ってマッカーサーが部下に指示した三原則メモ(マッカーサー・ノート)との類似も挙げられている。
 これらの政治文書を切りばりしながら憲法前文を執筆したのは、GHQ民政局のアルフレッド・ハッシー海軍中佐だった。
 憲法制定当時の国民は、こうした背景については、まったく知らなかった。憲法草案がGHQによって作成された事実を公表したり報道したりすることは、GHQによる言論統制下で、最も厳しい事前検閲の対象として禁じられていたからだ。
 
◆外国人が書いた特異な憲法
 国会での憲法改正案審議も、衆院・帝国憲法改正案小委員会(芦田小委員会)の秘密議事録が物語るように、部分的な修正でも、一つ一つ、GHQの許可を取り付けなければならなかった。
 言論統制の実態をさて置いても、世界中で、外国人が書いた憲法を持っている国は日本くらいだ。そうした点で、日本国憲法は極めて特異な憲法である。
 憲法施行記念日の今日、そうした憲法にまつわる背景と経緯を、改めて認識しなおしてみるのもいいのではないか。
 
◆今後も堅持すべき基本原理
 とはいえ、この憲法に盛り込まれた国民主権・議会制民主主義、基本的人権の擁護、平和主義などの基本原理は、その後の日本に定着し、発展の基盤にもなった。これらは将来にわたって堅持されるべき人類普遍の原理だ。
 ただ、そうした基本原理をどのような具体的条文にするか、条文の表現は今のままでいいのか、足りない条文はないのか、などということは、別の問題である。
 基本的人権一つとっても、環境権を「人権」の一つと位置づけるべきだという議論が出てくるなどとは、半世紀前の人たちには考えもつかなかった。それが、いまや単なる基本的人権という個々人の問題領域を超えて、人類の存続さえかかる深刻な課題となっている。
 コンピューターの発達による情報社会化の進展で、「表現の自由」や「知る権利」が「プライバシーの権利」と複雑な摩擦を生じるなどということも、五十年前には予想できなかっただろう。
 国際社会も半世紀前とは別世界のように変貌(へんぼう)した。飢えをしのぐだけで精一杯だった日本は、世界第二の経済力を有する巨大な存在になった。それとともに、国際社会から日本が求められる責務も重いものになっている。
 基本原理は堅持しつつも、条文の内容は時代の変化に合わせて整備していかなくてはならない。
 読売新聞が一九九四年十一月に、憲法改正試案を発表したのは、そうした考え方に基づいて、国民的な議論のタタキ台を提示したいとの趣旨からである。その後も憲法体制が時代の要請に対応して十分に機能しているかどうか、点検を重ねながら提言を続けてきた。
 今日の紙面で発表した「政治・行政の緊急改革提言」も、そうした憲法体制点検作業の一環だ。
 共産党と社民党を除く超党派の国会議員で構成される「憲法調査委員会設置推進議員連盟」(憲法議連)も、同じような考え方に立っている。つまり、現行憲法の基本原理は尊重しつつ、憲法と現実との乖離(かいり)をどうするか議論をする場が必要だ、ということである。
 国の基本法の在り方について議論し、国民的議論をリードするというのは、国会議員としての当然の見識であり、責任だ。
 
◆国会に憲法委員会の設置を
 ところが、憲法議連への参加議員が衆院の過半数を超え、参院でも半数に迫っているにもかかわらず、議連発足以来一年近くになるのに、いまだに議論の場としての常任委員会設置は実現していない。そうした現実自体が、憲法体制が機能不全を生じていることを示しているともいえる。
 この機能不全の原因は、はっきりしている。自社さ三党連立体制の下で、社民党が議論の場づくりに反対しているからだ。こうした“反憲法的”な状況は一日も早く解消されなくてはならない。
 自民党は最近、国連平和維持活動(PKO)協力法改正案の決定や、いわゆるガイドライン関連法案の国会提出に際して、連立解消も辞さずといった姿勢を見せた。
 憲法という国の根本にかかわる問題についてこそ、毅然(きぜん)として筋を通すべきなのではないか。


 
 
 
 
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