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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/05/02 読売新聞朝刊
[社説]憲法と議会制民主主義を考える
 
 日本国憲法は、わが国の法令の中で初めてひらがなまじりの口語体で書かれた。
 戦後、新生日本のスタートに際し、何よりもまず政治の民主化を徹底したいという悲願が、国の基本法に採用された平易な文体に託されている。その憲法は、あす三日、四十回目の記念日を迎える。
 憲法の基本原則は、民主主義と平和主義、基本的人権の尊重である。この憲法秩序の下で、議会政治は試行錯誤を重ねながらも、日本の平和と繁栄を支えてきた。
 制度の上では定着した議会政治だが、その運用については私たちは多くの疑問を持っている。基本的には、野党が抵抗政党の地位にいつまでも甘んじて、政権交代の可能性が極めてとぼしいところに問題があるが、昨今の議会政治をみると、審議軽視の傾向が強いことが心配される。
 四十年たった今も、一党政治が続くことを前提にしたような議会運営に、与野党とも何ら疑いを持とうとせず、審議の形骸(けいがい)化と惰性的な国会運営は目に余るものがある。改革の時代の中で国会改革が一番遅れている。
 選挙によって与野党の議席差がはっきりしているのだから、議会における討論や演説は一種の儀式にすぎない、という極論に支配されて、審議の土俵にのぼること自体を野党は拒否する。予算案を人質にした今国会の反売上税闘争もそうである。
 
◆国政の基本は代表民主制◆
 憲法は「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と宣言し、代表(間接)民主制によって国政を運営していく方針を明らかにしている。
 代表者としての国会審議を忘れて「世論の支持さえあれば何をやっても許される」という国会無視の独善的なやり方は、この憲法の精神に反する。「公約違反」と追及する場合でも、国会の場で論陣をはるべきである。
 国会には数々の重要な権能が付与されている。国会は、国民の権利義務関係などを律する立法権を独占するほか、予算の議決権、政府が締結した条約の承認権、首相の指名権などを持ち、憲法改正の発議も国会が行うことになっている。また、国政調査活動を通じて広く行政に対する監督権を行使する。
 国会議員には、会期中の不逮捕特権と、「議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない」という免責特権が与えられている。
 議員の言論の自由は、議会政治の基礎をなすものという考えからである。地方議員にはこうした特権はない。
 また憲法には、国会議員は「全国民を代表する」とうたわれている。これは、国会議員は自分の選挙区だけの利益や特定の階級、団体、業界などの利益代表でなく、つねに全国民の利益のために行動しなくてはならないという意味である。一部の「代理人」ではなく、国民の「代表」なのだ。
 そうした国会及び議員の権能、立場を考えれば、自民党の族議員が業界の意向を代弁したり、表舞台で議論せずに裏工作でうまくやろうとするのは「憲法違反」的な行為といえる。またそう簡単に野党も審議権を放棄することはできないはずである。
 
◆政党の政権交代が大前提◆
 国会という最大の民主的「装置」を働かせず、国会外で反売上税フィーバーを巻き起こし、議会の法案審議を左右しようとしたのは議会制民主主義の道筋に反する。こうしたやり方に懐疑心を抱かず、むしろこれを容認するような風潮が支配的だったことに、私たちは不安と危険性を禁じ得ないのである。
 新税は国民にとって未知の部分が多く、悪税扱いをされ勝ちである。それだけに改革案の全体像について十分な論議が必要だが、対案も示さずに一部をつまみ出して不安感をあおるようなやり方は不当である。
 与野党の論戦がなければ、何がいったい問題であり、何がそこで争われているのかを私たちは知ることができない。各党の主張を聞かなければ、その是非を判断し、将来それぞれの政党に対して評価したり、結果責任を問う手がかりも得られない。
 議会における討論と説得で、相手が態度を変えるケースはごく例外的なことかもしれないが、たとえそうでも民主政治はやはり過程が大事である。
 回りくどいようだが、そうした努力の積み重ねをもとに、国民の自由な意思によって政権の所在を決めるのが議会政治だ。日本国憲法も、政党の政権交代を大前提にしている。
 そのためには野党は、政策で勝負することを考えなければならない。自民党の一部との連合を模索したり、ニュー社会党を口にするだけではだめだ。対案を示して積極的に論争を挑むべきだ。その対案の是非がひいては政権交代への道につながって行くのである。
 石橋湛山氏(元首相)は、回想録の中で、政権目当ての政党間のどろ仕合が国民の信用を失墜し、政党政治を滅ぼした戦前と対比しながら「新憲法の規定が日本を支配する限り、政党はもはや国民の信望を集める以外の政争を事とする必要はない。今後日本が再軍備され、軍部大臣が再現するとも、往年のごとき専権を彼等が振う間隙(かんげき)はない」と述べている。
 再軍備うんぬんのくだりはともかく、国民を主権者とする議会制民主政治に、石橋氏が全幅の信頼を寄せていたことを物語るものといえよう。
 日本国憲法の施行と相前後して、数多くの法律が制定改廃されたが、憲法と同日に施行された法律は、地方自治法ただ一つである。
 憲法第八章に新たに「地方自治」の項目が設けられ、憲法と地方自治法はまるで双子の関係にあるとされてきた。その地方自治制度も四十歳の年輪を数えるに至った。
 
◆地方議会の活性化を望む◆
 地方自治においては、条例の制定・改廃や事務の監査請求、リコールなど住民の直接請求権が法制化されているが、主軸は代表民主制に基づく地方議会の活動である。
 議員は、地域の行政需要を的確に把握してそれを行政に反映させる、行政を監視して首長が専横に陥ることのないようチェックする、という二つの機能を果たして地域住民の期待にこたえなければならない。
 だが、このところ住民の“議会離れ”の傾向がみられる。地方議会は精彩を欠いているが、議会の権威が認められてこそ議員としての活動の中身がより充実したものになる。
 議会の活性化は、地方自治の活性化だ。読売新聞社は近く全国各地で「地方議会シンポジウム」を開催するが、その機会に地方議会のあるべき姿について論議を深めてほしいものだ。


 
 
 
 
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