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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1964/05/03 読売新聞朝刊
[社説]憲法の正しい理解を
 
 きょうは、日本国憲法が施行されてから十七周年の記念日である。にもかかわらず、国民一般の憲法に対する関心は相変わらず低い、せいぜい「連休の一日」と結びつけて、憲法の名を思いおこす程度なのではあるまいか。それというのも、憲法擁護を主張する側ではいろいろの行事をおこなっているが、政府の方は、むしろ憲法問題についての論議を避けているかに見えるからである。内閣の憲法調査会は、来月中にも政府および国会に対し最終報告書を提出する段取りであり、これを契機として政界においては憲法問題がクローズアップされることになる。とすれば、このような記念日を無為にすごさず、国民一般が憲法をできるだけ理解するよう努力すべきではないだろうか。
 昨年十月、総理大臣官房広報課がおこなった世論調査によると「憲法の条文を一部でも読んだり、聞いたりしたことがあるか」との設問に対し「しかり」と答えたものは五六%であるが、そのうちで「条文を一通り読んだ」と答えたのは一二%にとどまっている。このことは、国民一般の憲法に対する理解が、いかに不十分であるかを物語っている。施行当時、政府は式典や行事、講演会などを実施し、かなりその普及をはかったこともあるが、さいきんはこうした努力を怠っている。しかも与党の一部には強い憲法改正論があり、それに反発して護憲運動がはなばなしく展開されている。これでは、改憲といい、護憲といっても、国民の理解とはなれたところでおこなわれているにすぎない。政府も与党も、憲法改正といった問題と取り組む前に、まず、国民全体がもっと憲法を理解するように努力することが必要である。
 
三原則の徹底が肝要
 国民が憲法を理解し、みずからのものとして受け入れるためには、いまの憲法の柱ともいうべき平和主義、民主主義、国民主権の三原則を正しく理解することが肝要である。現在憲法改正を主張するひとびとのうちにも、この三原則を頭から否定する意見はほとんどないようであるが、さればといって、改正点として論議の的となっている論点は、ことごとくこの三原則との関連なしにその是非を判断するわけにはゆかない。したがって、憲法の正しい理解は、まずこの三原則の誤りなき理解からはじまらねばならないと信ずる。
 憲法に対する理解が国民一般に行きわたらず、かつまた、国民の多くが、憲法をなじめないものとしている原因のひとつに、これまでの政府および政党の憲法に対する取り扱い方の問題がある。歴代の保守党政府は、時には憲法を改正するがごとき言辞をもちい、時にはそうでないような言明をおこなった。そうして、他面では、改正論議をよそに既成事実をどしどし積み重ねてゆくというやり方をとった。たとえば、その顕著なものは、憲法九条の戦争放棄の宣言に対する解釈の変化である。当初「自衛のための戦力」さえ否定した政府は、その後自衛力が内外の諸情勢におされて警察予備隊から自衛隊へと発展するのにともない、そのつど適当な戦力解釈を展開したりした。このような政府の行為が、憲法に寄せる国民の信頼を傷つけ、憲法への関心や情熱を失わせたことは否定できまい。現在もなお、この九条の解釈問題は未解決であり、改正問題における最大の焦点である。そして憲法調査会でも、もっとも議論が白熱化した論点である。それだけに国民は、いずれの日にか、その是非の判断をおこなわねばならないのである。それがためには、国民は、この問題にかんする以上のような保守党政府の扱い方を頭におきながらも、改正の利害得失を、深い理解と広い視野から、判断しなければならない。これは一歩誤ると、国の運命に大きなわざわいを招くからである。
 
国民に役立つ論義を
 革新陣営が終始「護憲」の立場をとってきたのはひとつの行き方であるが、ただ社会党などが、第九条だけをとりあげるのに急であり、憲法全体について考えるという態度を欠いているのは問題である。しかも現実に憲法改正が政府の議題となっていないにもかかわらず「政府に改憲の意思がある」として攻撃しているが、これはあまりにも、憲法を政争の具に供するものである。このような応酬はまったく不毛の論議であり、国民の間に精神的三八度線を引くことにもなりかねない。憲法問題を議論するなら、もっと具体的な論点について、相手の言いぶんをも十分に聞き、国民の理解に役立つような論議の仕方を希望したい。
 われわれは、池田内閣が憲法改正に消極的なのは、その事なかれ主義から出ていることを否定するものではないが、客観条件が整っていないことも事実である。憲法調査会は、社会党が参加しなかったため、自民党もしくは同系統に近い委員のみによって構成されており、その論議が一方にかたよったものであることは否定できない。しかも調査会内部にすら、改憲に反対する意見もあり、このため最終報告書は、各委員の意見を併列することにとどめている。のみならず、昭和三十一年の参院選挙以来、自民党は憲法改正発議に必要な両院の議席の三分の二を割っている。池田首相が、報告書が出ても直ちに改憲問題とは取り組まない旨言明しているのは妥当である。
 憲法をどうこうするというのは、国民全体の課題である。国民は、政党間の争いにつられてただばくぜんと改憲の是非を観念的に論ずるべきではなく、また自衛問題が唯一の憲法問題であるような錯覚におちいらぬよう戒心せねばならない。調査会の報告書は、完ぺきではないが、その意味でひとつの参考資料たりうるであろう。ただ、報告書自体はきわめて膨大であり、専門的にすぎるため、国民一般に親しみにくい心配がある。政府は、このさい、国民一般に理解しやすいような解説書を刊行するなどの配慮があってほしい。そして国民全体が、できるだけ憲法を正しく理解し、改憲問題について判断の能力をもちうるように、この種の施策を強力に実施することを切望する。


 
 
 
 
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